■評価:★★★★☆4.5
「宇宙人は刺激的で面白い」
【漫画】レベルEのレビュー、批評、評価
漫画家、冨樫義博による1995年より週刊少年ジャンプにて連載開始のSF短編漫画。
少年ジャンプ(漫画業界全体も含まれると思うが)では、2作品連続で連載をヒットさせるのは難しい、とされている。
例えば、岸本斉史は、世界中で大ヒットを飛ばした全72巻の超大作『NARUTO』連載終了後、原作として参加した『サムライ8 八丸伝』は、わずか5巻で打ち切りとなった。
他にも梅澤春人の『BOY』の後の作品もすぐに終了した。
世間の心を完全に理解し、ヒットを狙うのは困難。
だが、中には、作る作品のほとんどをヒットさせる天才作家もわずかながら存在する。
私がクリエイターとして最も尊敬している一人が、本作を手がけた冨樫義博であり、彼の手がけた連載作品は、デビュー作をのぞいてすべて人気を博している。
連載作品は以下の通り。
『てんで性悪キューピット』1989年〜1990年(デビュー作)
『幽☆遊☆白書』1990年〜1994年
『レベルE』1995年〜1997年
『HUNTER×HUNTER』1998年〜連載中
特に冨樫義博ファンに支持されている本作を、二十年ぶりくらいに改めて読んだ。
現在も週刊少年ジャンプで連載中の『HUNTER×HUNTER』でより真価を発揮された天才性は、本作ですでに完成されていたと言っても過言ではない、とんでもないクオリティに仕上がっていた。
せっかくの機会なので1エピソードずつ、しっかり感想を伝えていきたい。
◆バカ王子・地球襲来編 ★★★★☆4.5
【あらすじ】現在、地球には数百種類の異星人が生活している。気づいていないのは地球人だけ。野球少年である筒井雪隆が高校入学のため、一人暮らしのマンションに引っ越す。部屋に入ると謎の金髪長髪男が侵入しており、読書を堪能していた。記憶喪失を事象するこの男こそ異星人であり、ドグラ星の第一王子だった。
人の家に勝手に上がりこみ、椅子に座り、足を組み、難しい顔をして文字を追う王子はコーヒーを飲み、一息つくと、怪訝な視線を向ける雪隆に気づき、「君、誰?」と質問する。
長い金髪を揺らす美しい顔立ちの王子の狂ったキャラ性を一発で伝えてくる最高のシーンから幕が上がる。
王子は記憶喪失で自分の名前もわかっていない。
テレビで付近に隕石が落下したニュースが流れており、王子はその隕石を模した小型救命艇に乗ってきたとのこと。
当然、「何いってんだ?こいつ」と雪隆は疑う。
すると王子は奇妙なデザインの物体を雪隆に渡す。
雪隆が触っていると、遠くで爆発が鳴る。
救命艇の自爆装置のコントローラーだったのだ。
ニュースでは『突然、隕石が爆発しました!』と報道記者が興奮気味にカメラに向けて飛沫を飛ばす。
「あそこにはたくさんの調査員や自衛官がいて、彼らに家族があって……」王子は長々と悲劇を語って雪隆を追い込む。
最低最悪の性悪男である。
こんな感じで雪隆や、第2話で地球にやってくる王子の護衛隊のクラフト隊長らは、王子の有り余る知能から繰り出される悪意に弄ばれる。
王子のキャラが底なしに魅力的。
クラフト隊長は、そもそも王子を探しに地球にやってきた。
宇宙規模の重要な会議があり、参加させるために。
早々にクラフトの持つ発信機が雪隆のアパートを指し示しており、護衛隊の一人のコリンは「アパートで待機したらいいのでは?」と提案する。
しかし王子に散々、苦しめられたクラフトは、安着なコリンの提案を却下する。
「あいつの場合に限って常に最悪のケースを想定しろ。奴は必ずその、少しな斜め上を行く」とクラフトは言う。
たまに我々の日常会話でも「斜め上を行く」的な言葉が使われるが、『レベルE』のこのセリフが初出とされている。
本当に王子は、クラフトはもちろん、読者すらも嘲笑い、予想外の行動を連発して驚かす。
世界観も魅力的。
本エピソードでは、ユニークな生態の異星人、ディスクン星人が登場する。
王子とディスクン星人は相性が最悪のように見えるため、後の大きなトラブルを心配する読者はハラハラしながらページを捲ることになる。
本作では、本エピソード以外でも多くの異星人が登場し、どれも一風変わった生態を持っている。
作者の冨樫義博が自由に創造した異星人たちはすべて魅力的。
話を戻すが、本エピソードこそ、本作屈指の出来栄えに仕上がってる。
本エピソードが面白いと思ったら、全巻読破は間違いないだろう。
◆食人鬼編 ★★★★☆4.5
【あらすじ】高校生の板倉、山田、東尾、野崎は修学旅行中、班行動から離れ、小屋でだべっていると、作業服を着た謎の男がD組の安田を引きずりこみ、食う姿を目撃する。修学旅行が終わり、教室にて、東尾は「謎の男を見つけるのは簡単。食われた安田と同じように、あのとき、犯人は班行動から離れていた」と推理。全員で一人一人当たり、最終的にB組小宮山、A組堀越、A組山本の3人に絞る。3人に注意すればいい、とこれ以上の深入りをやめようとしたその日、東尾は姿を消す。
めちゃくちゃ面白い話だった。
短編・中編集である本作の中で屈指の出来栄えの1つで、読了後も余韻が残る名作。
作者の冨樫義博は、好きな映画として『エイリアン』を挙げている。
理由は『人が1人ずつ消えていく展開が好きだから』とのこと。
確かに『エイリアン』では、宇宙船内で地球外生命体であるエイリアンが卵から目覚め、ステルスで1人ずつ、船員の命を奪っていく。
閉塞的な空間で、どこに潜んでいるか分からないドキドキ感が最高のSFスリラー。
本作もいい感じに仲間が1人ずつ消えていく。
緊迫感がたまらない。
恐らく食べられたのだろう、と読者は思う。
だとすれば、何で自分たちが命を狙われるのかが分からない。
どんなタイミングでどのように襲ってくるのかも分からない。
異様な恐怖に襲われつつ、高校生たちは、自分たちなりに生き延びる方法を探し、行動に移す。
正直『エイリアン』より全然面白い。
宇宙船のような馴染みのないシチュエーションではなく、我々が過ごした経験のある学校や町が舞台で起こる惨劇なので、妙に生々しくて物語により没頭できる。
少しずつ提示される情報も魅力。
『HUNTER×HUNTER』もそうだが、やけにこの作者は魅力的でワクワクさせる情報を与えてくれるので、先の展開が気になって仕方なくなる、
そして迎える結末。
こんな衝撃的な展開はあるだろうか。
どこか『HUNTER×HUNTER』のキメラアント編を彷彿とさせる切なさ、悲哀のある最後で忘れがたく印象的な締めに仕上がっている。
本当に名作だと思う。
最後の最後にちょっとしたどんでん返しがあるが、当時、担当編集に、「少年ジャンプの漫画なので、主人公を1人に絞って欲しい」といった要請から、仕方なくあのような演出にしたとのこと。
いや、いらないでしょ、と思う。
冨樫義博さんらしい遊び心はあるけど。
どっちにしろ定期的に読み返したくなる珠玉の一編だ。
◆原色戦隊カラーレンジャー編 ★★★☆☆3.5
【あらすじ】王子は小学生5人を宇宙船に誘拐し、「正義の味方になれ」と命令する。清水(ゴンみたい)、百池(クラピカみたい)、黛(インテリ)、横田(ジャイアンみたい)、赤川(顔芸メガネ)は早く帰りたいので、清水が「正義の味方をやるから家に帰して」と観念すると、「君たちは原色戦隊カラーレンジャーだ。素晴らしい能力をあげよう」と、王子は彼らに手術を施す。翌朝、清水は左腕に巻かれる謎のリストバンドに向けて「ブルーチャージ」と唱えると変身する。
作者の冨樫義博はテレビゲームが大好き。
ロールプレイングゲームや野球ゲーム、バイオハザードのようなホラーゲームなどを楽しむゲーマーだ。
そのため、ゲーム要素が盛り込まれた話も頻繁に登場する。
例えば『HUNTER×HUNTER』では、主人公ゴンが父親のジンを探して『グリードアイランド』というゲームをプレイする話がある。
グリードアイランドは希望と絶望に満ちたとてつもなく魅力的な
世界観で、『HUNTER×HUNTER』の中でも屈指の人気を誇るエピソード。
本エピソードもゲーム的な要素が取り入れられている。
設定が魅力的。
変身状態で修行をすると、レベルアップする。
レベルが1つ上がることに新しい能力が使えるようになる。
例えば赤レンジャーの赤川(顔芸メガネ)のレベル1の能力は『バトルマッチ』。
小さい炎を出せるがすぐ消える。
レベル2になれば『バトルライター』が使え、少し長く炎を出せる。
この能力を駆使して悪い異星人と戦う話。
ゲーマーからしたらたまらない。
現実でもレベルを上げて、分かりやすく新しいスキルを覚えられるようになったらどんなに楽しいだろうか。
夢と希望に溢れた設定で一瞬にしてのめり込む。
具体的に何をすればレベルが上がるかの設定がないのは残念だが。
しかし、本エピソードはオチが酷かった。
主人公たちは完全に蚊帳の外、といった感じで、何の苦労もせずに困難が過ぎ去っていく。
中盤まではものすごく面白いのに、何でこんな退屈な結末にしたのだろうか。
とはいえ、『HUNTER×HUNTER』の現在連載中のエピソード、王位継承編で、敵であるエイ=イ一家が、レベルアップの能力により、暗躍している。
いい感じにアップデートされているので、本エピソードは冨樫義博にとって良い練習台となったのだろう。
◆マクバク族サキ王女・ムコ探し編 ★★★★☆4
【あらすじ】王子の護衛隊の一人、サドが「マクバク国のサキ王女が地球にやってくるそうです」とクラフトとコリンに報告。マクバク族は寿命200~300年程。種族全体がメスのみで構成されている放浪生物。一体の女王を頂点として成り、残りのメスは女王に絶対服従し、奉仕する。交配期に入ると女王は、別種族の男の中から特定の一体をムコに選び、交配する。一度の交配で数千から時には数万の子供を産み、その全てがメスである。交配後はムコの住む星で共に生活し、ムコの死亡と同時にその地を離れる。その後、女王は子の中から新たな女王を選び、その教育係に就く。サドは「マクバクの女王に選ばれた種族は数世代以内に必ず絶滅する」と語る。
めちゃくちゃ面白い設定。
『HUNTER×HUNTER』を読んでいる人ならすぐにピンとくるであろう。
マクバク族はキメラアントの元ネタとなっている。
キメラアントは女王が食べた生き物の特徴を持った子供を産む、『摂食交配』を特徴とする種族。
そのため、女王が熊を食べたら熊風のキメラアントを、女王が産む。
人間を食べれば人型で人の言葉を話すキメラアントを産む。
本作のマクバク族は摂食交配ほど不気味ではないが、生まれた子供がすべてメスというのが恐ろしい。
だからこそ、他の星のオスを求めて放浪する。
何でメスしか産まないのか、子孫繁栄に圧倒的不向きな構造なのかは不明だが。
サドやクラフトは地球を守るため、『逆仲人』と称する作戦を決行する。
マクバク族が地球人を嫌うように仕向けるのだ。
内容もかなり面白い。
オチは、本当に地球人を守ったことになるのかは首をかしげたくなる。
でも、生物の知識欲が満たされる内容だし、何より、マクバク族の存在が魅力的なので深く没入できる内容だった。
個人的にはもっとあからさまにマクバク族の女王がハニートラップ的な狡猾さを持つ魅惑的なキャラに振り切ってくれたら尚良かった。
またこのエピソードがあったからこそ、最高にスリリングでドラマチックなキメラアント編が誕生しているので、重要な作品の1つだと思う。
◆高校野球地区予選編 ★★★☆☆3
【あらすじ】雪隆が所属する如月高校野球部は、甲子園出場が決まる試合を翌日に控えていた。主将はレギュラーメンバーを称え部室を後にする。部室で野球部メンバーが、明日の試合に向けて話していると突然、ガラスが割れる。服を忘れで戻ってきた主将に「またガラスが割れましたよ」と部員たちが報告するが、主将は能天気。以前より起こっていたガラスの割れのポルターガイスト現象は日に日に酷くなっている。雪隆は「国内外で(ポルターガイストは)よくある事例。感受性の強い子どもや動物がいる家庭でよく起こる現象。引っ越し、転勤、家庭不和。事故や病気等の変化で超能力を発揮する」と一緒に帰る美歩から聞かされる。翌朝、クラフトたちのもとにディスクン星人のラファティがやってくる。「(野球部を乗せた)如月高校のバスが消えた」とラファティが報告。
このエピソードの設定は印象的。
私が『レベルE』を初めて読んだのが2000年代半ばくらいで、今回、再読する際にも記憶に残っていた。
恐らく、本エピソードの着想元とも思われるホラー漫画作家、楳図かずおの『漂流教室』を連想させるからだと思われる。
私が『漂流教室』を初めて目撃したのは、2002年に放送された窪塚揚子主演のドラマ版『ロング・ラブレター〜漂流教室〜』。
後に読んだ漫画版と比べるとマイルドなストーリーや演出にはなっているが、教師の主人公が通う学校そのものが、突如として荒廃した異世界に転送される設定はシンプルかつダイナミックで、一度目にしたら忘れられない。
話を戻すが、本エピソードの『高校野球地区予選編』では、野球部たちは、バスごと甲子園を模した奇妙な球場に転送される。
部員たちはパニックに陥りながらも、本来の甲子園とは異なる特徴を見つけ始める。
転送した理由、そして甲子園へのキップをかけた試合時間が迫る中で、元の世界に戻る方法を探る。
ミステリアスな展開で、むちゃくちゃ興味深く読み進めた。
どこか幻想的である甲子園風の球場も印象的で、何となくずっといたくなるような心地よさもある。
しかし、結末はかなり微妙だった。
『レベルE』は、どのエピソードも王子の奇行により斜め上を行く展開で読者を驚かせ、意表をつく結末を迎える。
本エピソードは王子がほとんど出てこないせいなのか、何の捻りもなく終わるので物足りない。
やっぱり『レベルE』は王子が主役の物語であると再認識させられる。
◆原色戦隊カラーレンジャー・人魚編 ★★★☆☆3.5
【あらすじ】オークション会場にて。足が二本のツインテールマーメイドを裕福な男は三億で落札する。オークショニアは男に2つの注意点を伝える。①「ウォーキングフィッシュとも言われ陸上で歩く事もできるから逃げないように注意」、②「彼女には絶対に嘘をつかないこと。彼女は耳で相手の真偽を聞き分けます。よほど悪い男に騙されたのでしょう」とのこと。男は「御主人様と言ってみたまえ」とマーメイドに。すると「ゲ・ス野郎」と言い放ち、逃げ出した。水に濡れた足跡を追う男。男はマーメイドに背後を取られ、首に注射器の針を突き付けられ、屋敷から出るためのパスワードを吐かさせられる。嘘の番号を伝えてと命乞いすると、「嘘つき」とマーメイドの伸びた舌が頭を貫通し、男は絶命する。しかし、同時にマーメイドも撃たれ、腹にダメージを負う。
ストーリーとは関係ないんだけど、ただのマーメイドじゃなくてツインテールマーメイドっていうのがいい。
文字通り、尾ひれが2つあるマーメイドで、冨樫義博のオリジナルキャラクター。
安直にただのマーメイドではないデザインとしての楽しさや、ツインテールマーメイドならではの独特な性質(ウソを見抜く能力があるなど)は、オリジナリティ溢れる魅力がある。
タイトルの通り、この後、過去に王子にさんざん弄ばれた小学生軍団が登場する。
主人公的存在の清水が父の都合で海外に引っ越すことになった。
清水は寂しさから、仲間たちには内緒にしてた。
しかし、みんなは早く報告してくれなかったことに腹を立てる。
清水は仲間たちとケンカする。
そんな中で清水は、傷を負ったマーメイドと出会う。
ジャンプらしいいい話だった。
友情のテーマを独創的な設定で描かれる王道なストーリー。
やかましい王子が絡んでくることもないので、クセがない見やすい話に仕上がっている。
とは言え、個人的には頭のイカれた王子が掻き乱す混沌さを『レベルE』には求めているので、少し物足りなかった。
◆バカ王子・結婚編 ★★★★☆4
【あらすじ】王子が唐突に雪隆の家を訪れる。王子曰く「許婚と弟に追われてる」とのこと、クラフトは『逃げ切ってくれ。いまは貴様の味方だ』と珍しく王子の味方になる。「弟はドグラ星第2王子、モハン。一本気で実直。第1王女ルナは許婚。不幸にも生まれる前から僕と結婚が決められてる。しかし彼女はそれを至福の喜びと信じている。二人とも保守的で僕は苦手。そこで僕は強引にある法案を王立会議にかけた。王位継承権を持つものは満20歳までに王妃候補を選定し、結婚の儀を執り行うこと。条件が満たされない場合を継承権は次期王子に移行。国民投票で96%の支持を得て可決された。あと一ヶ月で弟に権利が移るのに、弟が許婚を連れてやってきた」と王子は説明。直後、弟はヘリで雪隆の5階の部屋に横付けし、強引に結婚の儀をとりおこなう。
弟や許婚について、結婚を逃れるための法案制定の流れ、突如としてヘリで現れる弟たちと、冒頭から文字やら絵やらの情報のてんこ盛り。
テンポも良いし、いかにも冨樫義博マンガを読んでるって感じ。
ふと思い出したのだが、私はどうも『幽遊白書』がそれほど好きになれない。
後半は好きなのだが、読者人気の高い印象がある暗黒武術会辺りのエピソードはそれほどハマれなかった。
原因の分析はすぐにできた。
暗黒武術会までのストーリーは、少年ジャンプ漫画としてのチューニングがなされている。
何の変哲もないキャラにシナリオ。
有象無象とは言い過ぎだが、特徴に欠けるありふれた作品の1つの印象があり、そこまで好きにはなれなかった。
だから、本エピソードのような情報量の暴力で展開されるクセ強作品はいかにも冨樫義博漫画を読んでいる感じで最高。
正直、二転三転しすぎて、やりすぎ感は否めない。
でも、冨樫義博に期待するもののてんこ盛りで満足度は高い。
特に許婚のルナ王女がキャラクターとして魅力的。
本エピソードと最終話の2回のみの登場なので、個人的にはもっと見たかった。
ちょっとしたところだけど、今回のクラフトが味方になる展開も新鮮で良かった。
今までは大枠として王子VSクラフトで争っており、雪隆や小学生たちがこの諍いに巻き込まれる代理戦争的な展開が多かった。
対立構造も柔軟に変化させ、各エピソードに鮮度を与えてくれるのも、同じことの繰り返しを嫌う冨樫義博ならではの作家性が反映されている。
◆バカ王・ハネムーン編 ★★★★☆4
【あらすじ】十年後。王子は王女は七才の長女カナを両親に預け、とある惑星でハネムーンを楽しんでいた。すると誘拐屋である『革命商社クイーンツ』の構成員に身柄を拘束され、身代金を要求される。
最終エピソード。
正直、回を重ねるにつれて尻窄みになっていった印象がある。
だが、1つ前の『バカ王子・結婚編』で盛り返し、今回の最終話もなかなか見ごたえのある内容に仕上がっていた。
やはり、『レベルE』は王子の物語だった。
確かに王子に翻弄される小学生たちや、野球部の雪隆の困っている様子は面白い。
でも、物足りない。
理由は簡単で、私は王子の天才的な頭脳や醜悪な性格が遺憾なく発揮されるシーンこそが『レベルE』の醍醐味だと感じている。
特に挨拶代わりのエピソード1『バカ王子・地球襲来』は、王子のすべての見せ付けてくる最高の話だった。
エピソード2の『食人鬼』は王子が絡まないけど面白かった例外だが、全体を通して見ると、王子のキャラ性が発揮されるエピソードほど見ごたえがあった。
本エピソードでは、鬼のように性格の悪い王子が、武装集団に囲まれる絶対絶命のピンチから始まる。
読んでいて、まるで窮地から抜け出せる気配はない。
しかし、王子は涼しい顔をして「僕に考え方がある。来る途中に奇妙な看板を発見してね。君はただ笑ってて」と王女を安心させてくれる。
この後、人によってはとても耐えられない異様な状況に追い込まれるが……。
王子の最後のセリフが良かった。
「ぼくはホラを吹くときは、常に命がけの覚悟で挑んでいる」と王女に語る。
巻き込まれる方は迷惑だけど、第三者としては王子がつく嘘が面白い。
本作はずっと王子の嘘によって物語が展開されている。
巧妙で憎たらしくて、でもユーモアに溢れていて。
『嘘は何でこんなに魅力的なんだろう』と私は本作を読み終わって思考にふけった。
ウソは使い方次第で人間関係を崩壊させることもあれば、人を幸せにすることもできる。
嘘の面白さを、本作を通じて教えてもらった。
私も明日から嘘つきまくってやろうと思う。
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