■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★☆☆☆2.5
「ゲームは最高のコミュニケーション・ツール」
小説】トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモローのレビュー、批評、評価
2016年度本屋大賞翻訳小説部門1位を獲得した『書店主フィクリーのものがたり』の著者ガブリエル・ゼヴィンによる2023年10月6日刊行の青春小説。
【あらすじ】セイディはMITの学生。ある冬、彼女は幼い頃一緒にマリオで遊んだ仲のサムに再会する。二人はゲームを共同開発し、成功を収め一躍ゲーム界の寵児となる。だが行き違いでゲーム制作でも友情でも次第に溝が深まっていき――。(Amazon引用)
私が敬愛するゲームクリエイター、小島秀夫が本作を勧めていたので読むに至った。
『メタルギアソリッドシリーズ』『デス・ストランディング』を作った小島秀夫は大の映画、小説ファン。
とんでもないインプット量をほこる彼が勧める作品は、笑えるほどに当たりの精度が高いため、個人的に信頼している。
本作もまごうことなき傑作だった。
メインキャラクターの3人のキャラクターが心底素晴らしい。
主人公の一人、12才のサムは、母の運転する車に乗っていた際に交通事故を起こす。
母は天に召され、自身は左足を複雑骨折する。
サムは若くして一生、杖がないと歩けない体になる。
絶望すぎる。
子供の頃なんて走り回るのが仕事みたいなもの。(文化系の少年少女もいると思うが)
少年の溢れ出るエネルギーを解放するために必要なツールの足が使えなくなっただけではなく、片親である母を失ったら、塞ぎ込むのも当然。
サムは、入院先の病院で誰とも会話せず、ずっと院内のゲーム室で、テレビゲームをする毎日を過ごしたいた。
そんなとき、サムのもとに1歳違いの11歳の女の子セイディ・グリーンがやってくる。
セイディは遊び相手の姉が赤痢で入院し、さみしくしていたところでサムと出会う。
2人はゲームを通じて仲良くなる。
ずっと内面世界に閉じこもっていたサムはセイディに心を開くようになる。
色々あって疎遠になったが、大学生になった2人はたまたま街で再会する。
セイディが授業で作ったゲームをサムはプレイし、天啓を受け、「一緒にゲームを作ろう!」とセイディを誘う。
漫画『ONEPIECE』の主人公ルフィが、仲良くなったやつに「一緒に海賊やろう!」みたいな爽やかさがあって良い。
若さならではの勢いで、サムのルームメイトのマークスが会社を興し、三人はゲーム会社を設立する。
ここまでが起承転結の起にあたる。
パワフルで、エネルギッシュで、3人の瑞々しさはおっさんの私からしたら眩しいし、羨ましい。
序盤は、スムーズにゲーム作りがはかどる。
リリースした作品は世間から良い評価を得て、3人のゲーム制作は順調そのもの。
でも、現実は残酷である。
ものづくりは批判がつきもの。
世間の厳しい評価に、心が傷つき、作り手は感情的な言動を取ってしまうこともある。
また、サムは足に爆弾を抱えている。
サム以外の2人はどこか、サムの足を気遣いながらあらゆる物事を決断している。
また、サムはサムで自分の足を気遣われたくないと、強く願っている。
三人は男女。
恋愛や友情が争いの種の元になるのも真っ当な話。
たくさんの爆弾の火種を抱えながらゲームづくりをする三人を見ているとヒヤヒヤする。
対立することもあるけど、決して誰も悪くない。
確かに感情的になるのは良くないけど、でも原因の根っこを辿ると誰も非はない。
ただ3人とも仲間を愛し、ゲームを愛しているだけに過ぎない。
世間ではゲームをすると、バカになるとか槍玉に挙げられる機会も多い。
本作はゲーム讃歌であり、コミュニケーションツールとしてのゲームの素晴らしさを説いた良質な青春譚だった。
翻訳小説ならではの読みづらさは強い。
日本語では馴染みのない表現、冗長な説明、描写の数々は、日本のエンタメ小説のみを読む人にはおすすめしづらい。
私は翻訳小説のクセのある文体が好きで、読み慣れている自負はあるが、それでも読むのに多くの時間を要した。
Kindleで600ページ超という長さも相俟って。
また、時系列が入り組んでいる読みづらさがある。
主に現代、メイン回想、少年(少女)期の三つの時間軸で描かれる。
メイン回想が描かれていると思ったら、章分けやスペースによる区切りがなく、地続きでいきなり少年(少女)期が描かれるなど、読者への配慮のある描き方は皆無。
私はシナリオ勉強のため、小説や映画などの物語はあらすじ(ログライン)をメモしながら読み進めたり鑑賞したりする。
だが、あまりに自由に三つの時代を行き来するので、メモ作業の心が折れそうになった。
(後で見返しても分かるように、今は何の時代が描かれているのか、5W1Hまでメモしているため)
翻訳小説ならではのクセのある文体に、ぐちゃぐちゃな時系列。
読みづらいと思うので、本作を手に取る人は覚悟したほうがいいと思う。
読み終えた頃には深い感動が待っているので、ぜひともあなたには楽しんで欲しい。
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■極悪女王
トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモローの作品情報
■著者:ガブリエル・ゼヴィン
■Wikipedia:ガブリエル・ゼヴィン
■Amazon:こちら
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