■評価:★★★☆☆3
■読みやすさ:★★★★☆4
「女性の深淵に触れ、寄り添うことで男は磨かれる」
【小説】娼年のレビュー、批評、評価
『池袋ウエストゲートパークシリーズ』『4TEEN』『ブルータワー』『アキハバラ@DEEP』『美丘』の石田衣良による2001年7月5日刊行の恋愛小説。
【あらすじ】恋愛にも大学生活にも退屈し、うつろな毎日を過ごしていたリョウ、二十歳。だが、バイト先のバーにあらわれた、会員制ボーイズクラブのオーナー・御堂静香から誘われ、とまどいながらも「娼夫」の仕事をはじめる。やがてリョウは、さまざまな女性のなかにひそむ、欲望の不思議に魅せられていく……。いくつものベッドで過ごした、ひと夏の光と影を鮮烈に描きだす(Amazon引用)
今、制作中の小説のネタを先生に添削してもらったところ、本作を引用して解説していただいたので読むに至った。
現在、2024年12月だが、実写映画が6年前の2018年4月に公開されていたので存在は知っていた。
また、直木賞候補にもなった作者の代表作。
しかし、少年が体で金を稼ぐ設定に鮮度が感じられず、ずっと敬遠していた。
例えば漫画『NANA』に出てくる美少年シンくんなど、同じ仕事をするキャラは他作品でもいくつか確認しており、個人的はあまり心は動かされなかった。
私の小説を添削する先生は、本作に対して『濃密な夜の交流を繰り返すことで変化するキャラが良かった』と評していた。
主人公がどんな変化・成長をするのか興味を持って読んだ。
テンポが非常に良かった。
本作はわずか200ページ弱の中編寄りの長さの長編。
女性や恋、何なら世界に何の面白みも感じられず、未来にも期待もしていない退廃的な大学生の男リョウは、バイト先のバーにやってきたボーイズクラブのオーナー女性の静香に誘われ、その世界に飛び込む。
ムダな描写はなく、展開も早いのでサクサク読み進められて良かった。
主人公が鼻につく。
リョウは特別顔が良いわけではないらしいが、彼女が途切れたことがなく、女性に困ったことはない。
能動性皆無の受け身全開のテンション低めのクールなリョウ。
自分から何をするでもなく、他者からの提案に何となく乗っかることで話が進んでいく。
確かに自発的に何することもあるが、そのすべてはことごとく絶賛される。
まるで村上春樹小説に登場する主人公そのもの。
作者の石田衣良はユーチューブで村上春樹について良く言及しているので、強く影響を受けているのだろう。
しかし、いくらなんでも、そのまま持ち込みすぎていて違和感が強い。
また、やたらと静香や先輩スタッフに「君は才能があるよ」などと特別視されるのも引っかかる。
我々一般人は、第三者からそんなキラキラした言葉を吐かれる機会はまずない。
むしろ、労われず、褒められることもなく、淡々の苦しい日々を耐え抜いている人がほとんど。
リョウのように何も苦労せずに、トントン拍子で出世して上手くいく天才児は、私たちからすると考えられない。
最後まで主人公には共感も感情移入もできなかった。
また、描写がロマンチストすぎてむず痒かった。
コメディ要素は皆無で、ひたすら美しい描写で物語は紡がれる。
キレイな文章が好きな人は良いと思うが、私は絢爛な文体にはそこまで心惹かれないので好みは別れそう。
イメージよりも変化が控えめだった。
確かに何もかもを、退屈に感じていた主人公は、仕事を繰り返すことで心境の変化を得る。
ただ目に見えてわかるほどのダイナミックな振り幅があるわけではなく、酷く地味に思えた。
興味深く読むことは出来たが、特に新しさとか、意表を突く何かを見せてくることはなかった。
石田衣良は評価されているし、能力のある作家だが、どうも私との相性は良くない。
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■BUTTER
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