■評価:★★☆☆☆2
■読みやすさ:★★☆☆☆2.5
「インターネットは鵜呑みにしてはいけない」
【小説】共生虫のレビュー、批評、評価
『限りなく透明に近いブルー』『コインロッカー・ベイビーズ』『愛と幻想のファシズム』『69 sixty nine 』『トパーズ』『半島を出よ』の村上龍による2000年3月1日刊行のスリラー小説。
【あらすじ】体内に謎の「虫」を宿した、引きこもり青年ウエハラ。彼はネットを通じ、インターバイオと名乗るグループから、その虫が殺戮と種の絶滅を司る「共生虫」であると教えられる。選ばれた存在であることを自覚した彼は、生贄を求めて外の世界に飛び出してゆくのだが……!?(Amazon引用)
私が現在、執筆している小説のテーマ『〇〇の向こう側』を描くための参考図書として、添削者の先生に本作をおすすめしてもらったため、読むに至った。
同テーマの本を読み漁ると決めてから5冊目に突入する。
西村賢太著『小銭をかぞえる』
又吉直樹著『火花』
早見和真著『イノセント・デイズ』
月村了衛著『虚の伽藍』
びっくりするほど面白い作品が多い。
冷静に考えたら、確かに同テーマを扱う作品群は面白いに決まってる。
物語はキャラクターの変化を描くもの。
同テーマを描くためには、作者の創造力を絞り出し、キャラクターを可能な限り、最高到達点にまで変化・成長させる必要がある。
(厳密には限界突破させ、決して後戻りできない向こう側にまで連れて行かなければならない)
悪魔と契約する捨て身でハイリスクな成長、あるいは読者すらも理解できない異常な決断をするのだ。
感情移入したキャラクターが身を滅ぼす危うい一手に手を染めようものなら、読者としては心が動かされまくることは必至。
生きることに執着する臆病な男がとんでもない決断をする『永遠の0』。
一流のコメディアンになる夢を追う純朴なアーサーが異常な行動を取る『ジョーカー』。
家族を守るため、贖罪の向こう側に到達する『聖なる鹿殺し』。
漫画の『HUNTER×HUNTER』で屈指の人気を誇るキメラアント編の主人公ゴンの末路はあまりに強烈だった。
このテーマは名作・傑作が多い。
そんな感じで本作も期待して読んだ。
結論から言うと、びっくりするほどつまらなかった。
主人公ウエハラを理解できなければ感情移入もできない。
引きこもりのウエハラは、サカガミヨシコという女性ジャーナリストに強い興味を持っている。
ウエハラ自身、寄生虫が体の中にいる実感があり、サカガミは寄生虫とかウイルスに対する知識があるため。
(明示されていないけど、たぶん異性としての興味も強かったと思われる。引きこもりで人との交流に後ろ向きにも関わらず、違和感を覚えるほどの執着心があったので)
サカガミにインターネット上からメールすると、サカガミの協力者を名乗る人物から、『その寄生虫は共生虫といい、寄生された人物は暴力や人の命を奪う衝動に駆られる』とのこと。
すると、ウエハラは母や、外ですれ違う通行人に対して暴力衝動が芽生えるようになる。
確かに引きこもりだったり、負の感情が内側に向いているときは破壊衝動が生まれるのは理解できる。
私も経験があるから。
家で叫びたくなったり、壁やら何やらを思いっきり殴りたい気持ちを押し殺す辛い夜は何度もある。
少なからず、あー!ってなって頭を掻きむしりたくなった瞬間は、理不尽な現実を生きる誰しもが一度は経験しているだろう。
でもさすがに人の命を奪うという衝動は理解できない。
ウエハラはコンビニですれ違った中年女性の命を奪おうと決意する。
何で彼女をターゲットにするのか分からないし、ウエハラの感情や行動は意味不明なので、何を見せられているのか良く分からない。
共生虫が引き起こす破壊衝動、といった刷り込みがされているんだが、飛躍しすぎていて、まるでウエハラに乗れない。
ストーリーもご都合主義で、ターゲットに選ばれた中年女性はストーリーの進行上、重要な意味を持っている。
しかしウエハラは感覚的に中年女性を選んだように見えるので、話ができすぎているとしか思えない。
『〇〇の向こう側』のテーマを扱っても面白くない作品があることは勉強になった。
本作は、まだブロードバンドが普及していない、インターネット黎明期に刊行されている。
ブロードバンドは定額のインターネットのサービスで、現在、我々が契約している光の一つ前の世代の通信サービスを指す。
ブロードバンド以前はダイヤルアップ接続という方式でネットが使えたのだが、速度は遅いし、通信費も高いし、とても一般家庭に普及する代物ではなかった。
そのため、本作はインターネットの負の側面にフォーカスを当てた実験小説の印象が強い。
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■小銭をかぞえる
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