■評価:★★★☆☆3
■読みやすさ:★★☆☆☆2.5
「稚拙が知性を奪う」
【小説】華氏451度のレビュー、批評、評価
アメリカ人SF作家レイ・ブラッドベリによる1953年刊行のSF小説。
【あらすじ】華氏451度──この温度で書物の紙は引火し、そして燃える。451と刻印されたヘルメットをかぶり、昇火器の炎で隠匿されていた書物を焼き尽くす男たち。モンターグも自らの仕事に誇りを持つ、そうした昇火士(ファイアマン)のひとりだった。だがある晩、風変わりな少女とであってから、彼の人生は劇的に変わってゆく(Amazon引用)
舞台は、テレビやラジオだけが許され、知識や情報が詰まった本を所有することを禁止された近未来。
主人公は本を焼く、昇火士として働いている。
仕事として、何の疑問もなく本を焼き、たまに誤って本を所有する人までも焼いてしまう日々を過ごす主人公が、不思議な少女と出会い、変化する様が描かれる。
本作は禁書、つまり本を手に入れたり読んだりすることを禁しされた世界となる。
個人的には禁書の世界観に昔から興味があった。
恐らく最初に接触した禁書の物語は、週刊少年ジャンプの連載漫画『アウターゾーン』第87話の『禁書』。
暴力やセクシー描写などの過激な描写がある漫画が禁じられ、健全な漫画のみが許された世界で、主人公の少年は、知り合いの中年男の有害指定された漫画コレクションをこっそり満喫する話。
小学生の頃に読んだのだが、当時の私は漫画が好きだった。
当時の少年ジャンプは『ドラゴンボール』を始めとするバトルものや、ややセクシーな描写で子供をドキドキさせる『DNA2』など、刺激的な漫画が多かった。
そのため禁止されたら何の楽しみもなくなるなあと、ディストピア世界の怖さに浸る妄想に耽りながら読んでいた記憶がある。
本は娯楽のみならず、知的好奇心を満たしてくれる重要なメディアの一つ。
「知りたい」という欲求は人間の生存本能の一つだから、大好きな本を禁じられる世界なんて想像しただけでも息苦しさに絶望する。
人気漫画の『チ。地球の運動について』も描かれるテーマの本質は同じ。
天動説が当たり前の時代に、地動説の可能性を知った主人公。地動説の研究がバレたら国から命を奪われる時代に、主人公は、命がけで真実を突き止めようとする話。
知識欲は崇高な欲求だ。
話を戻すが、本作『華氏451』はかなり興味深い話だった。
本作の世界では、本を禁ずる理由の1つとして、知識人の弾圧がある。
知能指数がそれほど高くない多数に対して、少数派である知識人の存在を消すことを目的とした愚民政策を実施しているのが本を焼く目的。
つまり情報弱者が社会的優位に立ち、強者が劣位に回る構図だ。
これって今の時代でも当てはめられるなぁと考えた。
例えば、エンタメの多様化が加速する今の時代の十代二十代の若者の月の読書の割合は、なんと0冊が6割を超えている。
にわかには信じられない状況。
恐らく、6割の人は大して脳を使わない情報量の少ないスマホゲームやYouTube、Tik Tokなどのショート動画に多くの時間を費やしている。
6割の彼らが権力を持ち、本などの情報濃度が高いメディアを破壊することが描かれている、と考えると、本作はとても怖く思える。
また、今ではコンプラの関係でテレビも丸くなり、すっかりつまらなくなった。
尖った内容は有料の配信サービスでしか楽しめない。
ただ、情報濃度の低いエンタメが流行っているのは平和の象徴なんだろうなと、思う。
未来への危機感が薄いために、最も貴重な資源である時間を浪費できるのだろう。
私は月5、6冊ほど本を読んでいるが、一番の理由は将来への危機感が強烈なビビリだから。
私にとっての読書は小説家になるべく、情報を得るための理由が7割。
(残り3割はシンプルに小説やノンフィクション本が好きで楽しいから。後、学歴コンプレックスである専門卒の私は知識欲が強く、専門性の高い本を読むと快楽を覚える)
そのため、ジャンクなエンタメ中毒者に本作を勧めたいのだが、不幸なことに文体の癖があって読みづらい。
エンタメというか純文学寄りでもあり、読書を日常的に行っていないと本作の読了は難しいと思う。
劇的な展開もないが、描かれるテーマは考えれば考えるほど面白いスルメのような小説。
抑圧された世界・厳格なルールが敷かれた世界を生きる主人公のおすすめ作品はコチラ。
■横浜駅SF
コメント