■評価:★★★★☆4.5
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「子供は特別な存在」
【小説】禁忌の子のレビュー、批評、評価
第34回鮎川哲也賞受賞作。
2025年本屋大賞ノミネート。
週刊文春ミステリーベスト10第3位
現役医師の山口未桜による2024年10月10日刊行のミステリードラマ小説。
【あらすじ】救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。自らのルーツを辿った先にある、思いもよらぬ真相とは――。過去と現在が交錯する、医療×本格ミステリ!(Amazon引用)
刊行当初、ゲームクリエイターの小島秀夫さんが、Xで本作を勧めていたので興味を持った。
人気ゲームクリエイターである小島さんは日々の仕事に忙殺されながら100冊以上の小説を読む読者家。
小島さんは様々なメディアでおすすめの小説を紹介しており、私が読んだ限りは今のところハズレはゼロ。
例えば安部公房『砂の女』、夢枕獏『エヴェレスト神々の山嶺』など、古典からエンタメまでジャンルを横断して読んでいて、どの作品も満足度が高かった。
私にとっては信頼できるレビュアーの一人なので、本作には大きな期待を持って読むに至った。
また、本作は2025年の本屋大賞のノミネート作品でもあり、一定の水準の面白さは保証されている。
本屋大賞は最終選考委員を作家が務める従来の文学賞と異なり、審査員が一般人の本屋店員。
そのせいか本屋大賞に選定される作品は万人受けするイメージがある。
本の内容に話を戻す。
冒険、魅力的な展開に引き込まれる。
救急医を務める30歳の男、武田は当直中、心肺停止の患者が運ばれてくる。
すぐに絶命確認が取られた男の遺体は、なんと武田と瓜二つ。
顔だけではなく、体格から剛毛な尻毛まで一緒。
しかし武田は一人っ子。
キュウキュウ十二という暫定名(身元不明の患者はこのように番号で名前を割り振られるとのこと)は果たして何者なのか。
武田とはどういった関係があるのか。
なぜ命を落としたのか。
これらの謎がメインエンジンとなって読者を牽引する。
誰しもが真っ先に思いつくのは一卵性双生児の双子だろう。
物語冒頭では武田が母子手帳を確認する。
やはり兄弟がいる痕跡はない。
ますます謎が深まるばかり。
医療行為のリアリティに溢れていて臨場感抜群だった。
本作の著者は現役の女性医師。
武田は救急医という職業柄、時折、作品内で患者の蘇生シーンが描かれる。
難解な医療用語が頻出する描写は緊迫感があって、世界観に引きずり込まれる。
読者に気を遣って、変に誰にでも理解できるような平易な言葉に置き換えていないのが潔くて良い。
たまに読みやすさ=面白さ、なんて言う人がいるけど、本質からはズレている考えだと思う。
キャラクターの魅力は普通だった。
特段、印象に残る言動を見せるキャラクターは皆無。
探偵役で、武田の同級生のイケメン医師・城崎は、共感性にかけるいわゆるサイコパスのような特殊な人物造形。
でもこの手の冷徹なキャラは今まで多くの作品でたくさん描かれているので目新しさはない。
また、作者はあまりコメディ演出が得意ではなく、ユーモアな表現がことごとく古臭くて小っ恥ずかしかった。
恐らく、これまでの人生でお笑いには触れてこなかったんだろう。
本作はシナリオが秀逸だった。
ミステリーなのでこれから読むかもしれないあなたの楽しみを奪わないため、詳細は伏せるが、意味深で魅惑的なタイトル『禁忌の子』の意味が分かったときはアゴが外れそうになった。
本作は子供を持つ母であり、医師である作者にしか作れない作品だった。
唯一無二で読む価値しかない。
女性の子供に対しての強い思いが痛烈に伝わってくる。
作者は子供に対して並々ならぬ想いがあるのだろう。
母性に溢れていて、両親と疎遠になってる私からすると強く心を動かされた。
他の本屋大賞ノミネート作品は読んでいないので分からないが、本作が1位を獲得しても遜色ないパワフルな内容だった。
小説好きのみならず、多くの人に手にとってもらいたい。
子供を題材にしてるので、女性にはより刺さる。
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■火花
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■プロジェクト・ヘイル・メアリー
禁忌の子の作品情報
■著者:山口未桜
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