■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「つたない人間たちにとって世界は生きづらい」
【小説】人間のレビュー、批評、評価
お笑いコンビ・ピースの又吉直樹による2019年10月10日刊行の青春小説。
【あらすじ】大人になっても青春は、痛い。
38歳の誕生日に一通のメールが届いた。
呼び起こされる痛恨の記憶と目前に立ち上がるあの日々の続き。
漫画家を目指し上京した永山が住んだ、美術系の学生が集う共同住宅・通称「ハウス」。
飯島、田村、仲野、めぐみ、奥……住人達との生活の中で降って湧いた希望と、
すべてを打ち砕いたある騒動。そして「おまえは絶対になにも成し遂げられない」という仲野の予言。
神様はなんで才能に見合った夢しか持てへんように設定してくれんかったんやろ。
それかゴミみたいな扱い受けても傷つかん精神力をくれたらよかったのに。
何者かになろうとあがいた青春と何者にもなれなかった現在、
上京以降20年の歳月を経て永山が辿り着いた境地は? そして「人間」とは?(Amazon引用)
私が今、執筆している小説の題材『●●の向こう側』に該当する作品として、添削者の先生に参考図書として本作を勧められたため、読むに至った。
又吉さんは、デビュー作の『火花』で芥川賞を受賞する鮮烈デビューを飾った。
私も2度、読んでいるのだが、圧倒的な完成度でめちゃくちゃ大好きな作品。
純文学として扱われ、文壇から評価されているが、芸人ならではの軽妙なユーモアの掛け合いは抜群に面白くて、エンタメ性も高い。
起承転結もあるので読みやすい。
冒頭、主人公、徳永は師匠として崇めることになる神谷と衝撃的な出会いを果たす。
何者でもなかった徳永は、師匠との交流を重ね、立場も精神も変化を遂げる。
またクレイジー芸人の神谷も衝撃的な決断を見せ、最高の読後感に浸れた。
『火花』はあまりに良くできた作品なので、又吉さんのその後の作品は読む気になれなかった。
ジャンル等を変えない限り、『火花』と比べてしまい、満足度の高い読後感を得るのは難しいと思ったため。
だが、本作も『火花』に通する何者かなろうとする青年たちが描かれる。
(メインは青春期を経たその後)
勧められたきっかけもあったので手に取った。
相変わらず、緻密なキャラクター描写が凄まじい。
主人公、永山の一挙手一投足のすべてに感情が乗っている。
私の稚拙な説明で上手く伝わるのか怪しいのだが、すべての行動に永山なりの理由があり、読者は永山のキャラクターとしての言動に信頼を寄せられる。
そのため、キャラクターの実在感がハンパない。
まるでこの世界のどこかで息しているんだろうなと思わせられるリアリティが文字の海に広がっている。
『火花』にも感じる感想であり、純文学ならでは良さだ。
エンタメ小説はストーリーを描く必要があるので、過剰とも思えるキャラクター描写に遭遇することはない。
私はエンタメ志向ではあるが、たまに人間臭さを押し付けてくる作品に触れるのも悪くない。
もちろん、永山以外のキャラクターも魅力的。
一人称小説なので、他キャラの細かい感情は分からないけど、永山を通じて描かれる連中の誰もがこの残酷な世界で拙い自分を表現しようと一生懸命、生きている。
また、メインキャラの一人である影島も興味深い。
ポーズというお笑い芸人コンビを組んでいる影島は、青臭い時代が過ぎた永山に影響を与える重要人物。
影島は、又吉さんの思考を自己投影したキャラと思われる。
影島が長々と主張するシーンは、メッセージ性が強烈で、又吉直樹の作家性が存分に発揮されている。
あまりに思想が強いので好みは分かれそうだけど、私は良いと思った。
ストーリーはあまり楽しめなかった。
前半は創作者が集まって暮らすハウスでの生活が描かれる。
中盤は、ハウス出身者同士の対立等が生まれ、大きなトラブルに至る。
最終章では急に永山の父が描かれる。
明らかに最終章は浮いており、この章が書かれた意味を考えてみたが、私の平凡な脳では理解できなかった。
父のキャラクターは魅力的に描かれていたのは良かったが。
テーマについて。
この小説では、何かと『自分なりに普通だと思っていた思考や行動を批判され、大人に矯正されることの生きづらさ』を語る。
私からすると又吉さんは幸せだと思う。
筋を無視した自分の思想を高純度で吐き出せる小説を、商業で出版できる立ち位置に到達したのだから。
私は、周りと同じような人生を生きるのがどうしても難しく、小説で食えたらと思って十年書き続けている。(2025年現在)
でも一向に成果は出ない。
年齢も40すぎだし、将来は不安で仕方ない。
永山が語る、『神様はなんで才能に見合った夢しか持てへんように設定してくれんかったんやろ』は、又吉さんより私のほうが共感するわ!と思った。
とはいえ、見えないところで、私よりも苦しい人生を送ってる人はたくさんいるだろう。
なので私は謙虚に生きようと思う。
私も人間はつたないけど、懲りずに夢を追い続け、必ず欲しいものは手に入れる。
頑張って逞しく生きようと改めて思った。
何より『HUNTER×HUNTER』の最終話を見届けるまでは何が何でも生き延びたいからね。
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