小説『祝山』ネタバレなしの感想。著者の実体験を基にしたリアルホラー

ホラー

■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★★☆4

「実体験という怖さ」

【小説】祝山のレビュー、批評、評価

加門七海による2007年9月6日刊行のホラー小説。

【あらすじ】ホラー作家・鹿角南のもとに、旧友からメールが届く。ある廃墟で「肝試し」をしてから、奇妙な事が続いているというのだ。ネタが拾えれば、と軽い思いで肝試しのメンバーに会った鹿角。それが彼女自身をも巻き込む戦慄の日々の始まりだった。一人は突然の死を迎え、他の者も狂気へと駆り立てられてゆく―。

何年か前にホラー小説を無性に読みたくなり、『ホラー小説 おすすめ』で検索し、どこかのブログか何かで紹介されていた一作。

本作は著者の実体験をベースに執筆されている。

ホラー映画やホラービデオ作品では、実録物という人気ジャンルがある。
「あれは2000年の夏に経験した出来事だ」
といった感じの、主人公のナレーションから始まる作品群を指す。

主人公が実際に体験したというニュアンスが含まれた説明から始まるため、リアリティが抜群で人気を博しているジャンル。
デメリットとして、主人公の語りから始まるので、劇中で主人公がどんなに命の危機に晒されようと、必ず生き残ることは保証されている。
だが、ホラー作品はリアリティが怖さを助長する。
実録ものは実体験というバイアスが緊迫感を生むため、頻繁に目にする演出の1つ。
そのため、基本的にはフィクションである。

だが、本作は本当の実体験らしい。
そのため大きな期待を抱いてページをめくらせていただいた。

序盤から不穏で不思議な出来事の連続でワクワクさせてくれる。
主人公の作家・鹿角は、自作のホラー小説の執筆が進まない。
そんなとき、久しぶりに連絡の来た友人の友人の女性・矢口から肝試しをしたら怖い体験をした、との話を聞く。
小説のネタの足しにでもなればと、肝試しメンバー全員に会いに話を聞きに行く。

田舎の山の中にある廃墟に行ったらしく、肝試し時の撮影した写真を見せて貰う。
良く心霊番組で言及されるオーブ(白い玉のようなもの)が撮影されている写真がある程度で、鹿角は萎える。
たしかに私も心霊番組をよく見るのだが、オーブの映った写真や、映像が流れて「えー怖いんだけど!」と、わざとらしくビビる出演者にはうんざりしていた。
いや、何が怖いんだと。ただの白い玉じゃん、ってな感じ。
視聴者としては人型の何かとか、もっとはっきりと映った映像に期待している。
そのため、鹿角には共感できて少し笑える。
また、オーブに対してのツッコミが入るということは、オーブ以上の何かが映った写真がこの後に出てくるんだろうな、というメタな期待も煽られてワクワクさせられる。

話を戻すが、肝試しメンバーには神社の娘で霊感があると思われる女の子がいる。
鹿角が写真を見せてもらっているとき、その子が何か言いたそうな表情をしていたので、鹿角は個人的に後日、会うことに。
そこで話される彼女の言葉には鳥肌が立たされる。
詳細は伏せておくので直接、確かめて欲しい。
今後の悲劇を予感させる内容で、そこからはページをめくる手が止まらない。

また徐々に肝試しメンバーがおかしくなるのも生々しくて怖かった。
特に矢口の異変が酷く、口にする言葉も支離滅裂。
おかしくなった矢口から送られたメールは恐怖でしかない。

今後も鹿角はやっかいごとに巻き込まれ、不気味な体験をすることになる。
どの現象も興味深いし、実際にこんなことがあったなんて信じられない不可思議な出来事の連続。
気軽に山に入るのが怖くなる。

正直、本作はクライマックスが微妙だった。
実話ベースなので、ある意味リアルなのかもしれない。
ただどうしても、期待を煽られた分ほどの盛り上がりはなかったので、若干の物足りなさはある。
だが、本当にこんなことを作者が体験したと思うと、十分な怖さはある良い作品だった。

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■禍

祝山の作品情報

■著者:加門七海
■Wikipedia:加門七海
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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