■評価:★★★☆☆3
■読みやすさ:★★☆☆☆2.5
「マイノリティの儚さ」
【小説】たったひとつの冴えたやりかたのレビュー、批評、評価
『愛はさだめ、さだめは死』『あまたの星、宝冠のごとく』のジェイムズ・ティプトリー・Jr.による1985年10月発表のSF小説。
【あらすじ】やった、ようやく宇宙に行ける! 十六歳の誕生日のプレゼントに両親からもらったスペースクーペを改造し、そばかす娘コーティーは憧れの銀河へ旅立った。冷凍睡眠からさめ、頭の中に住みついたエイリアンとも意気投合したが……元気少女の愛と勇気と友情を描く感動篇ほか、壮大な宇宙に展開するドラマ全三篇!(ハヤカワオンライン引用)
タイトル買いした1冊。
最近、私はSF小説を手当たり次第読んでいるが、古典、新作含めて、名の知れた作品から優先的に読むようにしている。
有名な作品には有名たらしめる理由が存在するので、もし面白がれなかったとしても、読了する価値はあるかと思われるため。
本作は、私が最近、手にしてきた『三体』『月は無慈悲な夜の女王』『タイタンの幼女』『宇宙のランデヴー』らほどの知名度はない印象。
だが、タイトルが印象的で、頭にしぶとくこびりついていた。
日常でふとした瞬間にこのタイトルが頭に湧いてくるため、成仏させてやろうと思って手にとった。
また古典なのだが、時の洗礼を乗り越え、廃盤にならずに今も尚、売られているため、支持される理由があるのだろう。
本作は表題作を含む計3編からなる中編集となる。
短編集は良く目にするが、中編集は珍しい。
また、この3篇はすべて同じ世界観の中での物語。
それぞれの話の登場人物同士の交流はないので、連作中編集といえる。
オープニングは100ページ程度からなる表題作。
十六歳の女の子コーティが親に内緒で宇宙を旅をしていると、頭に寄生するエイリアンのシルと友達になる話。
このシルの設定が面白かった。
目に見えない微小な地球外知的生命体で、脳を持つ生き物に寄生して、宿主の脳を借りて喋ることができる。
そのため、コーティは自分1人の体でシルと会話する。
コーティは孤独で友達もいないため、シルとはすぐに仲良くなる。
シルも人当たりの良い生物で、すぐにコーティと打ち解ける。
どこか、寄生獣を連想させる。
寄生獣は、主人公の高校生の右手に寄生したエイリアン、ミギーとの交流の話で、いわゆるファーストコンタクトもの。
ただ、本作はエイリアンの実体がないに等しい。
事情を知らない第三者から見たら、独り言でイマジナリーフレンドと会話している痛い少女に見えるのが滑稽。
宇宙を旅しながらシルとの関係性を深めていると、シルからとある告白をされる。
想定外の展開とまでは思わないけど、少しビックリするし、孤独なコーティには酷すぎる。
そして、最後に明かされる表題の意味。
タイトル回収はお見事だったし、この邦題を考えた人はセンスがあると思う。
中編の文量も控えめなので、そこまではげしく感情を揺さぶられるわけではない。
でも、シンプルなストーリーに魅力的なキャラが相俟って記憶に残る話。
他の2編は正直微妙だった。
特に最後の作品は、私の好みなファーストコンタクトものではあるが、設定が地味なのと、緩い空気感が長くてあまり楽しめなかった。
あと、本作は全体的に文体の癖が強くて読みづらい。
表題作は好みだったけど、最初の十五ページ読むのに1時間以上掛かった。
本作は新訳版も販売されているが、表題作のみで、他の2編は省かれている。
何となく理由は納得。
表題作のみ、人に薦めたい。
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■ゴリラ裁判の日
たったひとつの冴えたやりかたの作品情報
■著者:ジェイムズ・ティプトリー・Jr.
■Wikipedia:たったひとつの冴えたやりかた(ネタバレあり)
■Amazon:こちら、改訳版はこちら
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