ノンフィクション本『墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便』ネタバレなしの感想。日航機墜落事故の現場の壮絶さを描く

ノンフィクション

■評価:★★★★★5
■読みやすさ:★★★☆☆3.5

「本気で生きることを辞めてはならない」

【ノンフィクション本】墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便のレビュー、批評、評価

【あらすじ】遺体は何かを語りかけてきた…520人、全遺体の身元確認までの127日を最前線で捜査にあたった責任者が切々と語る!人間の極限の悲しみの記録。

私はエンタメ小説を執筆しており、ある日、キャラクター創作の段階で、読者がキャラクターに感情移入できるための【境遇】の設定を考えていた。
参考になればと、ガールズトークのサイトのガールズちゃんねる(通称ガルちゃん)で『人生観が変わった出来事』的なワードで検索した。
書き込みを見ていると、本作を挙げている人がいて気になって読むに至った。

※当該記事のURLは下記

人生観が変わった人 | ガールズちゃんねる - Girls Channel -
・この国に行ったら人生観が変わった ・この本を読んだら人生観が変わった ・この人と話したら人生観が変わった 等々、人生観が変わった切っ掛けを教えてください。私は今人生観を変えたくて切っ掛けを探しています。皆さんのお話を参考にさせて頂きたいで...

本作は、1985年8月12日発生した日本航空123便墜落事故で、遺体の検死や、遺族に遺体を引き渡すための身元確認作業を行った刑事の人が書いたノンフィクション本。

死者数は520人で、単独機の事故としては世界最悪の航空事故。
「上を向いて歩こう」で歌でお馴染みの歌手、坂本九はこの事故で命を落としている。

日航機の事故は、私が小学生か中学生の頃に自由研究で取り扱った。
当時は母が主導して手伝ってくれたのもあり、私自身、当時は仕方なく研究作業を進めていたので壮絶な内容の詳細にピンと来ていなかった。
事故が発生した8月12日には、『日航機墜落事故が発生して〇〇年が経過しました』と、事件を風化させないためのニュースが今もなお、毎年目にする。
いかに大惨事だったのかが、年を重ねるごとに理解するようになった。

事故の詳細を知りたい思いがあり、年末年始休みで時間があるタイミングで読むに至った。

本書のページを開くと、最初の地図に圧倒される。
日航機が墜落した場所から、遺体安置所までが異常に遠い。
墜落場所が長野県の高天原山、捜査本部が群馬県前橋市。
直線距離で、70キロ近くある。
道中は山道で、実際はもっと長距離となる。
移動だけでも大変そう。

警察らが行う作業は、遺体の検屍作業、身元確認、遺族への遺体の引き渡しとなる。

冒頭からきつかった。
最初に運ばれて来たのは、腹の辺りで切断され、皮一枚でつながっているような、おむつをしている2歳くらいの幼児の遺体。

子供は善悪の存在も知らない。
ただ両親とじゃれ合うことが楽しい純粋無垢な存在。
何も悪いことをしていないのに、すごく痛い思いをして天に召された。

近所のドトールで読んでいたが、このシーンから目頭に涙が溜まった。

事件が発生時は8月なので、検屍作業や身元確認を行う第一遺体安置所の体育館は40℃を超えている。
現場の警察官は小便が出ず、すべての水分が汗で流れたらしい。
壮絶さを物語る。

現場では遺族はさまざまな反応を示す。
顎から下が圧で潰された女性の遺体が収められている棺に、日航機の職員が頭を突っ込み、「良く見ておけ、お前らに殺された娘だ」が職員の後頭部を押さえつけて棺桶に頭を突っ込ませる遺族。

掌に乗るくらいの小さな遺体を持って「まだ生きてるってことはないでしょうか」と現実を受け止められない遺族もいる。

怒ろうが、悲しもうが、関係ない。
どんな言動だろうが、最愛の存在を一瞬で失った遺族の行き場のない苦しみが伝わってきて胸が締め付けられる。

医師会派遣と赤十字の看護師の遺体修復のエピソードも記憶に残る。
故人を最後に見送るため、遺体を洗浄し、化粧もして美しい姿に仕立てていったそう。

あまりに丁寧にやるもんたから遺族が、全く関係のない遺体を修復している看護師に「ここまで丁寧にきれいにしてくれてありがとう」と感謝を述べたそう。
彼女らの思いが遺族の心のケアにつながったエピソード。読み終わった今、思い返しても目頭が熱くなる。

本作を読んで、とにかく検屍作業の大変さが伝わってきた。
検屍は、遺体が誰であるかを確認するための作業のこと。
遺体が五体満足であれば良いのだが、墜落事故なので、バラバラとなった離断遺体がほとんど。
そのため、歯型や遺体から採取した血液などを用いて本人確認していく。
だが、時間が経つにつれて、燃えて炭化したりと。なかなか一致確認のために必要なものが遺体から採取できなくなる。

亡くなった人の数は520人。
実際に回収された遺体は2000以上と報告されている。
この数字を見るだけでも墜落現場や、検屍や身元確認が行われた体育館の壮絶さがイメージできる。

最後に、私が最も印象に残ったのは、赤十字の人が語った制服を着る人のプロ意識について。
現場で検屍に奮闘する警察官や医者、看護師はもちろんのこと、事故は起こしまったが、飛行機に搭乗していたパイロット及び、CAもプロだったと。
特にCAは「もうすぐ、赤ちゃん連れの方は座席の背に頭をささえて、ベルトはしていますか、テーブルは戻されていますか」と山に墜落する直前まで機内放送をして、乗客に希望を持たせている。

自分だって怖いのに。
もうすぐ、着陸する。
もうすぐ、自分は命を落とす。
それなのに、最後の最後まで乗客に安心感を与え続けた。

私はこんな格好良い生き方を出来ているだろうか。一生懸命生きているだろうか。
読みながら何度も自問自答した。

本作を読んで人生観が変わったかどうかは分からない。
でも、定期的に本作の感情体験を思い出して、自らを鼓舞している。
死が題材なのに、本書からは多くの元気を貰っている。

人生観が変わるほどの強烈な読書体験をもたらす作品はコチラ。

■母という呪縛 娘という牢獄

墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便の作品情報

■著者:飯塚訓
■Wikipedia:日本航空123便墜落事故
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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