■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★★☆4
「孤独の苦しみは人生を左右する」
【小説】52ヘルツのクジラたちのレビュー、批評、評価
『カメルーンの青い魚』で女による女のためのR-18文学賞の大賞を受賞し、デビューした町田そのこによる2020年4月18日刊行のドラマ小説。
2021年の本屋大賞受賞作品。
2024年3月1日には実写映画版も公開されている。
【あらすじ】「わたしは、あんたの誰にも届かない52ヘルツの声を聴くよ」
自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年。
孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会う時、新たな魂の物語が生まれる。(Amazon引用)
『本屋大賞』という文学賞は、1位を獲得した作品がもれなく映画化などのメディアミックスされる。
毎年、本屋大賞の発表時期になれば、小説好きがこぞって注目する影響力の強さがある。
そのため、本屋大賞作品のクオリティには一定の信頼がある。
私も少しではあるが、過去に1位を取った『成瀬は天下を取りに行く』『ゴールデンスランバー』などを読んでおり、好きな作品も多い。
本作は、小説レビューYouTube番組の『ほんタメ』で何度か取り上げられていて、前から気になっていた。
今回、知り合いにおすすめされたのも相まって読むに至った。
結論から言うと、いい話だったが、あまり好みではなかった。
一部のキャラクターは魅力的だった。
主人公のキナコは二十代にも関わらず、訳ありで、大分の田舎町の丘にある祖母が残した古い家に移り住む。
ミステリアスな空気感が良いし、意外と好戦的な性格なのは笑える。
そもそも冒頭2行目で、家の修繕業者の男、村中にキナコかビンタするシーンから始まる。
感動できるドラマ小説だと思っていたので、スタートが暴力描写でびっくりした。
またラジオ体操に参加するシーンがある。
キナコが引っ越した小さな村はすぐに情報は広がるため、個人情報はあってないようなもの。
ラジオ体操を先導する老人会会長の品城というおじいさんに、「あなたは仕事をしていないようだね。子供の教育にも良くないから早く見つけなさい」と指摘される。
腹が立ったキナコはこう切り返す。
「人の事情を無遠慮に詮索することも子供の教育に良くないと思いますけど?」
今後、ずっと暮らしていくとなると、普通なら村民に対して角が立つ発言は避けるだろう。
だがキナコはお構い無しに自己主張全開で反撃する。
強い女性は好みなので、かなり好きなシーンだった。
ただ、微妙なキャラも多い。
例えば、キナコの親友の美晴。
友人たちに何も言わずに突然、東京を去った美晴は急にキナコの元に訪れる。
仕事を辞めてまでキナコを探し、キナコが移住した田舎に来たらしい。
親友のためとはいえ、普通そこまでするだろうか。
このシーンで描かれる会話は、美晴に対する恐怖、警戒心が芽生え、穿った目で見てしまった。
また本作のキーパーソンであるアンさんもしっくりこない。
アンさんはキナコに対して大切な人。
冒頭からキナコはたびたび、目の前にはいないアンさんに語りかける。
キナコにとって大切な人なのだと推測できる。
物語が堤 回想シーンが始まる。
アンさんとの出会いのシーンが描かれる。
だが、割と早い段階でアンさんとキナコが交流するシーンが描かれなくなる。
そのため、何でキナコがそこまでアンさん惹かれるのか理解に苦しむ。
ただ、アンさんの一連の行動には感情は強く動かされた。
強烈な内容だったので。
ストーリーもあまり好みではなかった。
本作は7割が回想で占める。
時制が現在ではないため、いくら過去で大変なことがあっても、リアルタイムで発生している出来事と比べると、臨場感に乏しくなる。
結末も想像を超えるものどころか、想定内のところにすっぽりと収まっただけ。
いい話ではあったけど、本当に本屋大賞1位作品だろうか。
ウィキペディアに書いてあるのだが、一般の本屋店員が投票して決めているため、
『突出した、異彩を放つような作品が受賞しておらず、ラインナップも含め平均化されているという声もある』とあり、本作はまさにこれに該当する作品だと思った。
パワフルで、刺激的なストーリーを求める人にはおすすめしがたい。
孤独に苛まれる主人公が葛藤するセンシティブな作品はコチラ。
■イノセント・デイズ
■トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー
52ヘルツのクジラたちの作品情報
■著者:町田そのこ
■Wikipedia:52ヘルツのクジラたち
■Amazon:こちら
コメント