■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「空虚な対象の上に立つ女」
【小説】授乳のレビュー、批評、評価
『コンビニ人間』で芥川龍之介賞を受賞した村田沙耶香による2005年2月刊行の純文学。
【あらすじ】受験を控えた私の元にやってきた家庭教師の「先生」。授業は週に2回。火曜に数学、金曜に英語。私を苛立たせる母と思春期の女の子を逆上させる要素を少しだけ持つ父。その家の中で私と先生は何かを共有し、この部屋だけの特別な空気を閉じ込めたはずだった。「―ねえ、ゲームしようよ」。表題作他2編。
久しぶりに純文学小説を読んだ。
エンタメ小説と比べると、純文学はキャラの深掘りに主軸が置かれるため、物語の起承転結はそっちのけの作品もしばしば。
そのため、エンタメ嗜好の自分は手に取る機会が少ない。
『ホンタメ』というYou Tubeチャンネルがある。
本好きの男女二人が出演するチャンネルで、主に小説関連の動画をアップしている。
「何度も繰り返し読んだ本」のテーマの動画で、齋藤明里という出演者の女の子がおすすめしていたので興味を持って手に取った。
当該動画のURLは下記。
高校生の齋藤明里が初めて純文学を手に取ったのが本作だった。
『最初は緻密に感情が描かれているので気持ち悪かったが、今では登場人物と同じ気持ちになりたいときに手に取る』と語っていた。
一体、どんな感情猫写しているのか気になったので読んでみた。
本作は、表題の「授乳」と、「コイビト」「御伽の部屋」の合計3つの短編から構成されている。
順番通り、「授乳」から読み始めたが、第一印象としては無理矢理、緻密に猫写する文章が多くて若干読みづらかった。
私自身、読むのはエンタメ小説がメインだからなのかもしれないし、本作は村田沙耶香のデビュー作なので、猫写の仕方にムラがあるのかな、と思った。
ただしばらく読み進めると、慣れたからなのか何なのか、違和感なく読めるようになった。
「授乳」で印象的だったのが猫写の細かさ。
主人公の少女の母は父のことを嫌っていて、父との洗濯物を分ける。
母も、主人公の娘には父と洗濯物を分けるように勧める。
だが、主人公は父だけでなく、どこか母のことも軽蔑している。そのため、あえて自分の洗濯物を、父の洗濯物と結んで洗濯かごに入れるのだ。
母に対する反抗を示すシーンが生々しい。
私もあまり好きではない人に対して、期待とは正反対の行動を取りたくなるから、とても共感できる。
こんな感じで全編に渡って、繊細な感情を細かい行動猫写で表現される。
齋藤明里が当初、気持ち悪いと思ったのは何となく理解できる。
でも良いと思う。
神経質とも思える緻密な感情表現はエンタメ小説にはないので新鮮に感じられた。
あと主人公が先生が抱える空虚さの本質を見抜き、潜在的に欲しがっているものを差し出すシーンは何だか感動した。
私も先生と同じ男なので。
同じもので、心の隙間を埋めたいと思ったことは何度もある。
そのため、主人公より先生側に感情移入する作品となった。
2作目の「コイビト」も面白かった。
ハムスターの人形だけに心を開く女性が主人公。
彼女の元に、同じようにオオカミの人形を溺愛する少女が登場する。
二人が出会ったために生まれた主人公の感情の変化が面白い。己を客観視できる瞬間が分かりやすく描かれていた。展開もなかなかぶっ飛んでいて面白かった。
3作目の「御伽の部屋」では、何でも受け入れてくれる男の家に入り浸る話。
作者の村田沙耶香が求めていた男性像なのかなと思った。
男の部屋で女子大生の主人公がどんなことをしても怒らず、諭してくれる男。
女子大生は「いつか要司の介護をする」と心に決めている。
今の空虚な自分の心を埋めてくれるお返しのように。
というか全体を通して、主人公が対峙する異性や愛する存在は、空虚さが漂っている。
話を戻すが、天地がひっくり返るような大きな展開があったのはびっくりさせられた。
個人的に、最後の話は難しくて良く分からなかったので、チャンスがあれば、巻末の解説も含めて再読したい。
純文学ではあったけど、読みやすい部類の作品で楽しめた。
村田沙耶香は私が現在ハマっているSFのジャンルも多く手掛けているので、積極的に触れていきたいところ。
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