■評価:★★★☆☆3
■読みやすさ:★★★★☆4
「猟奇事件を発生させる心のスイッチがONになる心理」
【小説】ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子のレビュー、批評、評価
第21回日本ホラー小説大賞読者賞受賞を受賞した内藤了著の2014年刊行のスリラー小説。
【あらすじ】藤堂比奈子は警察学校を優秀な成績で卒業した新人刑事。一見明るく真面目な態度で勤務する彼女だが、心に深い闇を持っており、興味の対象は殺人犯が人を殺害する心の”スイッチ”は何かという疑問を解明すること。個性豊かなメンバーと共に捜査をしていくうちに、様々な性格を持った猟奇的犯罪者と対峙していく。はたして彼女の抱く疑問の答えは見つかるのか?
2016年に波瑠主演で連続ドラマとして実写化されている。
当時、1話だけ鑑賞したのだが、波瑠が扮する藤堂比奈子が印象的なキャラクターで、何となく頭に残っていた。
今回、ホラー小説を読みたいと思って調べていたところ、たまたま見掛けた小説レビューサイトで本作がおすすめされていたので手に取った。
改めて藤堂比奈子のキャラクターは何とも不思議だった。
普通の女性刑事なのだが、常にポケットには七味の入った小さな缶を忍ばせている。
今は亡き母から譲り受けた地元の長野県産の七味。
刑事というハードな仕事に就きつつも、持っているアイテムが素朴で面白い。
更に藤堂のキャラを特徴付けるのが、驚異的な記憶力。
なぜか、未解決事件に異様な執着心を持っている。
まるでパソコンのデータベースのように過去の未解決事件の被害者の名前や年齢などの情報を、いつでも引き出すことができる。
そんな一風変わった藤堂と、ベテラン刑事の厚田と若い男刑事の東海林がメイン・キャラの物語となる。
事件がものすごく魅力的だった。
かつて犯罪者だった人間が、次々と謎の自害を遂げていく。
現場はひどく凄惨。
自死を遂げた連中は、かつて自身が被害者に行った悪の所業を、自分に行って天に召されていくのだ。
女性を強制的に性的な暴行を働いた宮原という卑劣な犯罪者がいる。
宮原は犯行時、女性の陰部にコーラの瓶をぶっこんだりしたそう。
宮原も自害を遂げるのだが、宮原の遺体には、自分の下半身をナイフで何度も斬りつけられた痕があった。
まるで、女性に行ったことを贖罪のように、自らの体を痛めつけて天に召される。
刑事連中は洗脳を連想する。
洗脳で人は簡単にコントロールされる。
だが、洗脳には人間の自衛本能を越えるコントロールをすることができない。
痛覚を越えて自分を痛めつけたり、あるいは人の命を奪うようなことはさせられない。
一体、なぜ宮原は自害したのか。
犯人がいるならどのようにして、宮原を死に追いやったのか。
まるで予想もできない謎に興味が湧いて、次々とページを捲った。
なぜなら、自分なら命を落としたいって思っても、必ず楽な方法を選ぶから。
自分の体にショック死するほど、痛みを与えるなんて恐くてできるわけがない。
結論として、オチはあまり私の好みではなかった。もっと現実的な物理トリックを期待していた。
まるで警察が予想もできないようなユニークなトリックでもあるのかと思っていた。
実際は非現実的な手法だったので、期待とは少しずれていた。
ディティールまで説明してくれているので納得はできる内容ではあるんだが。
あと、もう一つの不満点は藤堂のキャラクター。
ドラマ版はもっと恐くて冷徹な印象があった。
命を奪われた事件にしか興味がないドライなキャラクターとして描かれていた記憶がある。
本作の藤堂は、変わった箇所はあるけれど、普通に人間味のあるその辺にいる女性だった。
それ以外が普通だったので、ドラマ版のクールな印象とは真逆だったのは、期待とは少し違っていた。
全体的には悪くはない物語だった。
斬新だと思える内容はほとんどなかったので、満足度は普通。
■登場人物一覧
藤堂比奈子:主人公の女性刑事。常に七味唐辛子を持ち歩く
東海林:先輩刑事宮原秋雄:失踪した運送業者
厚田巖夫:ベテラン刑事、通称・ガンさん
石上妙子:検視官、通称・死神女史
宇田川早苗:町工場の事務員、宮原による強姦未遂の被害届を提出するが、すぐに取り下げる
斉藤文隆:宇田川早苗の婚約者
中島保:心療内科医、早苗の担当医鮫島鉄雄:スーパー・グッドライフ強盗事件の犯人。独居房で命を落とす
壬生(みぶ):定年間際の看守
早坂雅臣:ハヤサカメンタルクリニック院長
大友翔:15歳のとき、母を殴って命を奪う
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ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子の作品情報
■著者:内藤了
■Wikipedia:ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子
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