■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★★☆4
「私の血肉は映画や小説で形成されている」
【本】創作する遺伝子 僕が愛したMEMEたちのレビュー、批評、評価
『メタルギアソリッドシリーズ』『DEATH STRANDING』を制作したゲームデザイナー小島秀夫によるエッセイ本。
【説明】「メタルギアソリッド」シリーズ、『DEATH STRANDING』等を生んだ天才ゲームクリエイターの創作力は、本、映画、音楽への深い尊敬と情熱によって焚きつけられていた――。散文集『僕が愛したMEME(ミーム)たち いま必要なのは、人にエネルギーを与える物語(ミーム)』を再構成し改題。
本作は、物作りを生業とする小島秀夫が、ゲームの創作や人生観に影響を与えた本や映画、漫画を紹介する内容だ。
読んだ経緯としては、私が小島秀夫の作家性に心底、魅力を感じているから。
映画や小説、音楽、ゲームなど、クリエイティブというのは、売れるための法則が存在する。
多くのクリエイターは本やら指南講座やらで学び、法則に基づいて制作する。
そうやって出来た作品群は確かに面白い。
だが、過去の成功の筋道を踏襲しただけの作品は、どこか物足りなさを覚えることが多い。
対して小島秀夫が手がけるゲーム群は、ジャンルそのものまで作ってしまうほどの強い作家性を誇る。
例えば『メタルギアソリッドシリーズ』はステルス・ゲームというジャンルを確立した人気シリーズ。
もともとは、任天堂のファミリーコンピュータの当時のライバル機種であるMSX2というゲーム機で、当時コナミで働いていた小島秀夫が開発した『メタルギア』というゲームの制作がシリーズの起源となっている。
当時のアクションゲームは銃でバカスカ撃ったりする内容が主流だった。
低予算かつ、MSX2という性能の低いゲーム機で開発するということも相俟って、小島秀夫がひねり出したアイディアは、戦うではなく「隠れる」ことをメインとしたコンセプト。
それがステルス・ゲームだ。
見事に狙いは成功し、多くのゲーム・ファンの心を掴んだ。
「ステルス(隠れる)要素を完全に取り入れた最初のビデオゲーム」としてギネス記録にも認定されている。
更にPS4等でプレイできる『DEATH STRANDING』は、アクションゲームではあるが、戦闘ではなく、荒廃した世界で物を「運ぶ」ことで、分断された人との繋がりを築いてくことをメインとするゲームになっている。
私は『DEATH STRANDING』で初めて小島秀夫の世界観に触れたが、感動した。
私はFFやドラクエなど、多くのメジャーゲームをプレイしてきている。
『DEATH STRANDING』はまるで新しいゲーム体験をさせてくれた。
運ぶというアクションがめちゃくちゃ面白いのだ。
地面のわずかな隆起で、操作するキャラクターの足がもつれて転び、荷物にダメージを与えてしまう。
主人公が運ぶ荷物を狙う盗賊のような連中を回避する必要もある。
複合的な要素が絡み、気付いたら運ぶだけの作業に没頭している。
すっかり私は小島秀夫のファンになった。
彼の独特な作家性を築いた礎となる作品群に触れたくなり、本作『創作する遺伝子 僕が愛したMEMEたち』を読むに至った。
本作以外でも、小島秀夫はXで、定期的に鑑賞した映画や小説で面白かった作品を紹介している。
2019年にアカデミー賞にノミネートされて話題になった『ジョーカー』や、オーストラリアがイギリスの植民地時代のある女性の復讐劇を描く2020年公開の『ナイチンゲール』などは、小島秀夫が賞賛していたために鑑賞した。
いずれも傑作だった。
『創作する遺伝子 僕が愛したMEMEたち』の中身についても言及したい。
もともと小島秀夫は子供の頃、鍵っ子だったらしく、本が唯一の友達だった。
本や映画は、鍵っ子の小学生には経験し得ない海外や宇宙などの遠い場所に連れていってくれたり、異なる性別の人間の感性、価値観を教えてくれる。
小島少年が物語の沼にどっぷりと浸かるのは必然だ。
本屋に通うことは、大人になった今でも習慣にしている。
理由は、本屋で並んでいる本を一通り見回ることで、今の流行が一発で分かるから。
ネットと違って、自分の無関心なジャンルまで目に入るので、今の時代のトレンドを把握するには、本屋が最も適していると語る。
タイトルにも含まれている聞き慣れない言葉の「MEME」は、文化や価値観、習慣などを次世代に継承していく情報を指す言葉。
進化生物学者のリチャード・ドーキングが提唱した概念である。
天才ゲームデザイナーである小島秀夫を形成した一部が、本作には紹介されている。
本作のお陰は、ただでさえ積ん読だらけの私の読みたい本リストにたっぷりと新しい本が追加されてしまい、非常に困っている。
本著で紹介されている作品はコチラ。
■砂の女
■エヴェレスト 神々の山嶺
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