小説『アキハバラ@DEEP』ネタバレなしの感想。オタク6人組が強大な組織と闘う

青春

■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★★☆4

「持たない者同士が結集した強さ」

【小説】アキハバラ@DEEPのレビュー、批評、評価

『池袋ウエストゲートパークシリーズ』『娼年』『4TEEN』の石田衣良による2004年刊行の青春小説。

【あらすじ】オタクである6人の若者たちが、高度な人工知能による画期的な検索エンジン「クルーク」を作り上げる。しかし、成功や注目とともに、その価値を奪おうとする組織から狙われることになる。

ミステリー小説家の七尾与史がYOUTUBEでおすすめに挙げていたので拝読した。
ジャンルでいうと青春サイバービジネス小説、といった感じだろう。
秋葉原を根城とする、社会において半人前のオタクたちが、集団で大きな力を発揮する、といったチームもの。

本作で一番好きだった箇所はキャラクターの素晴らしさ。
点滅する光を見るとフリーズするキャラ。
潔癖症かつ、女性恐怖症で、コンパニオンがくれた飲み物にも、ウェットティッシュで除菌してから飲むキャラ。
吃音で、会話は基本的にパソコンで行うキャラ。
上記のように、3人は大きな欠点を持っているが、同時に特技も持っている。
例えばDTMで音楽を作るのが得意だったり、独創的なアイディアを練られたりなど。
どのキャラも分かりやすい特徴があるので感情移入しやすかった。

ヒロインの癖が強さも良かった。
メイド喫茶で働いている少女なのだが、格闘技がやたらと強くて、キャット・ファイトで無敵を誇っている。
普段着はアメリカ軍やフランス軍の軍服を愛用している。
軟弱な男たちの中で、最も腕っ節が強いのがヒロイン、といったユニークさである。
持たざる者は魅力的だ。
私の好きな映画に『バーニング 劇場版』という映画がある。
もともとは村上春樹の『納屋を焼く』というタイトルの短編を原作とし、長編用に引き延ばされた韓国映画。
『バーニング 劇場版』の主人公は、田舎の今にも崩れそうな一軒家で、落ちぶれた生活を送っている。
主人公の家の近くは、北朝鮮との国境が近い。
そのため、北朝鮮からプロバガンダ放送が流れている。
この退廃した雰囲気に妙に引き込まれるし、持たざる者が奮闘する姿は心を打たれてしまう。

話を戻すが、悪役のキャラも魅力的だった。
頭のいかれた性癖はインパクトがあって個人的には良かった。
伏せておくので、是非とも直接、確かめてもらいたい。

チームの中で、一人だけほとんど機能していないキャラがいたのは気になった。
ダルマという、弁護士資格を持っている引きこもり男。
本作はあまり法律関係に話が発展しなかったので、このキャラだけは削除して、わずかな役割だけを誰かに統合すれば良かったのでは、と思った。

他に好感触だったのは文章。
本作は純文学ではない、普通のエンタメ小説。
でも文章が素晴らしかった。良くこんな表現を思いつくなあ、といった文章を何度も見掛けた。
さすがは直木賞を受賞するだけある作家。
読みやすいし、エンタメとしての完成度も高い良質な青春小説。

チームで困難に立ち向かう青春もののおすすめはこちら

■でぃすぺる

アキハバラ@DEEPの作品情報

■著者:石田衣良
■Wikipedia:アキハバラ@DEEP
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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