■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★★☆4
「真実なんて描かなくても面白い」
【小説】白夜行のレビュー、批評、評価
『秘密』『加賀恭一郎シリーズ』『ガリレオシリーズ』『マスカレードシリーズ』『ラプラスの魔女シリーズ』の東野圭吾による1999年刊行によるノワール・ミステリー小説。
【あらすじ】1973年の夏、大阪のある廃ビルで起きた質屋殺し。何人もの容疑者が捜査線上に浮かぶが、決定的な証拠がないまま時は流れていく。当時小学5年生だった被害者の息子・桐原亮司と、ある容疑者の娘・西本雪穂は、何かを抱えながらもその後の人生をそれぞれに歩んでいくかに見えた。しかし、二人の周囲では一見関連性のない不可解な事件が次々と起きる。
『白夜行』といえば、山田孝之と綾瀬はるかのダブル主演による、2006年放送のTVドラマの印象が強い。
私も放送していた当時、鑑賞しており、今も尚、記憶に残っているくらい面白いドラマだった。
特に悪役である、主人公との因縁が強い男を演じた渡部篤郎と、二人の主人公を執念深く追いかける刑事に扮する武田鉄矢は良く覚えている。
2009年には韓国でリメイク映画が製作。
日本でも、堀北真希の高良健吾のダブル主演で2011年に映画化されている。
世間の評価としてはTVドラマ版の人気が勝る印象。
同じ職場の人に小説版の『白夜行』ファン曰く、小説はドラマ版とは別物とのこと。
興味深かったので、レンガのように分厚い(約850ページにも及ぶ)本作を手に取った。
結論から言うと、かなり面白かった。
ドラマ版は、詳細は覚えていないんだが、シンプルなノワールものだった。
(ノワール=犯罪物語の意味で、犯罪を犯す人物を主人公としたジャンル)
犯罪を犯したであろう少年・亮司と少女・雪穂の視点で、彼らの成長や変化が描かれる。
一方で小説は正反対。犯罪を犯したであろう亮司と雪穂の視点が一切ない。
亮司と雪穂と深い関係のある人物の視点で、彼ら二人の動向が描かれる。
例えば高校生で端正なルックスを持つ園村友彦は、あまり繋がりのない同級生の亮司に声を掛けられる。
指定されたマンションに行くと、大人の女性が3人いる。
亮司には彼女らを満足させるようにと、仕事を依頼される。
といった具合。
亮司と雪穂の視点がないので、彼らの心理描写が皆無である。
何なら、亮司と雪穂が本当に犯罪を犯したのかもわからない。
ただただ、代わる代わるに、多くの彼ら二人と関わる周りの人物の視点で物語が進行していく。
小学生から30歳頃まで、実に19年間の彼らの動向が第三者視点で描かれる。
そのため、登場人物が異様に多い。
また、本作は良くあるミステリー小説のように人物表が存在しない。
私は忘れたり混乱したりしないよう、以下のように、人物表を作りながら読み進めていった。(ネタバレなし)
・中塚:班長
・古賀:後輩刑事
・弥生子:やいこ、死んだ桐原の妻
・松浦勇:きりはら質屋の店長
・西本文代:「きくや」といううどん屋で働いてる
・寺崎忠夫:半年前から文代と付き合う。アゲハ商事。
・田川敏夫:田川不動産、文世の死体を発見
・秋吉雄一:写真を撮る、メモリックス主任開発員
・菊池文彦:貧乏な少年。街の写真を借りる。弟が梶原亮司の父の死体を発見
・雪穂:藤村都子を発見する直前、家に電話
・園村友彦:ゆうこと繋がる
・奈美江:銀行員
・榎本宏:奈美江の愛人でヤクザ風。金城と繋がりあり
・中道正晴:雪穂の家庭教師
・篠塚一成:ダンス部、江利子が気になる、高宮の友人
・倉橋香苗:ダンス部。一成が好き
・高宮誠:東西電装株式会社電気部品のライセンス部、雪穂の夫
・頼子:誠の母
・三沢千都留:高宮の会社の派遣
・金城:骸骨のような風貌の男
・田村紀子:雪穂のアパレルの相棒
・今枝直巳:東京リサーチ
・安西徹:メモリックス社長。東西電装の金属加工エキスパートシステムの盗用疑い
・菅原絵里:今枝の相棒、居酒屋バイトの専門学生
・栗原典子:秋吉の恋人?
これだけ登場人物が多いので、ぱっと見は複雑そうな物語に思える。
だが、横のつながりは少なく、一つの時間軸のエピソードに対して4~5キャラ出てくる、といった感じ。全編を通しで出てくるキャラクターは一部だし、東野圭吾の平易な文体も相俟ってかなり読みやすい。
やはり、本作の特徴である、主人公の視点が不在なのが良い。
彼らがどんな感情を持って生きているのかが分からない。
そのため、彼らは恐らく犯罪者であるにも関わらず、「彼らは犯罪を犯していないのかもしれない(むしろ犯していないと信じたい)」と、読みながら、そんな感情になっていった。
本作では、彼らの内面こそが一番のミステリーである。
特に絶世の美女で、完璧主義の雪穂。
だが、彼女の虚無感に不信感を覚えて、察知する有能なキャラも出てくる。
そのキャラは、完璧な美貌を持ちながらも、何かが欠如する美女に違和感を覚えるのだ。
もし実在したとしたら、どんな人物なんだろうと、ついつい頭を働かせてしまった。
素晴らしい演出の物語である。
理不尽な境遇に立ち向かう主人公を描くおすすめ作品はコチラ。
■罪の声
■禁忌の子
■母という呪縛 娘という牢獄
白夜行の作品情報
■著者:東野圭吾
■Wikipedia:白夜行
■Amazon:こちら、ドラマ版(配信)はこちら、ドラマ版(Blu-ray )はこちら、映画版はこちら、韓国版映画(吹替)はこちら、韓国版映画(字幕)はこちら
コメント