■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「凶悪な災害はなぜこうも人を魅了するのか」
【小説】右園死児報告のレビュー、批評、評価
『棺の魔王』でラノベ作家としてデビューした真島文吉による2024年9月3日刊行のSFホラー小説。
【あらすじ】右園死児案件が引き起こした現象の非公式調査報告書である。明治二十五年から続く政府、軍、捜査機関、探偵、一般人による非公式調査報告体系。右園死児という名の人物あるいは動物、無機物が規格外の現象の発端となることから、その原理の解明と対策を目的に発足した。(Amazon引用)
本作の紙の本は、やけに簡素な装丁だなあ、と発売当初から認識していた。
禍々しさを感じさせるタイトルからホラー作品を連想していたが、『報告書』という文言が、小説とは違うのか?といった疑問が頭の中を占めていた。
内容がまるで想像できなかったので、手に取らずに敬遠していたが、『池袋ウエストゲートパークシリーズ』『娼年』の小説家、石田衣良がYouTubeで本作をを紹介していたので、興味を持って読むに至った。
当該動画のURLは下記。
実際に読むとその記述の形式に驚かされる。
本当に小説ではなく、報告書の形体が最後まで続く。
例えば、一番最初の報告は以下のように書かれている。
報告一号
報告案件 貯水池
報告者 佐竹正吉(市役所職員)
市内貯水池の登録名称が正当な手続きを経ず右園死児に変更されていると市職員が通報。迅速に改称されたが〜
このような形式の報告が、全部で100以上から構成されているのが本作となる。
報告内容は数行から、長くて3〜4ページ程度なのでサクサクと読み進められる。
報告一〇ぐらいまではすべて独立した内容で、次第に別の報告と関連する報告も発生し始める。
更には過去の報告の続編だったり、あらゆる切り口の報告を楽しませてくれる。
次第に事態が混沌化していき、日本がとんでもない境遇に追い込まれていくことが報告より明らかになっていく。
先に微妙だった点を挙げたい。
おわかりの通り、一般的な小説の形式ではなく、報告という体裁で説明されるだけなので、没入感は皆無。
ちゃんと主人公的な存在が悪に立ち向かっていく内容だが、いかんせん小説的な描写は皆無なので迫力には欠ける。
目を覆いたくなるようなハードな内容と、この特殊な表現方法を受け入れられるなら、ぜひとも読んだほうがいい。
とにかく世界観が決まってる。
右園死児という言語によって生き物、物体が呪われ、変質化していく最悪の災害を描く。
とにかく右園死児の影響力が凶悪。
学校でいじめられていた少女は右園死児と呼ばれ、更に返事をすることを要求された。
後日、その少女の片目が消失した。
ある男は姓名を右園死児に改名した。
ある日、青森県の海岸に打ち上げられたクジラの体内から発見された。
ある日、見つかった彗星に右園死児と名付けた人物がいた。
海外のニュースに取り上げられ、右園死児の名前が世界に知れ渡った。
名付けた人物と海外ニュースを読んだ人物は、命を落としている。
とある民家から右園死児の名が刻まれた刀剣が発見された。
試しに数回、素振りをした男の血圧が消滅。
さらに試し切りした藁の切断面が数秒後に発火。
ひたすら作者の右園死児大喜利を見せられている感じ。
どれもイマジネーションに溢れていて面白い。
個人的には上記に記した『刀剣』と『歩く遺体』が好み。
右園死児化した歩く遺体は損壊されると、そのダメージをそっくりそのまま相手に返すカウンタータイプ。
めちゃくちゃ強いので物語後半では重要な立ち位置を占める。
何となく漫画『HUNTER×HUNTER』の暗黒大陸編を連想させる。
暗黒大陸編では五大厄災という概念があり、リターンを得るには人類滅亡クラスの破滅的な厄災を攻略する必要があるという話。
この厄災の凶悪さが、右園死児と通ずるものがある
恐らく作者は多くの作品からインスパイアされて作ったんだろうが、ハチャメチャな世界観を良くここまで作りあげたなあと感嘆した。
また作者が最も影響されたとされる『イルミナエ・ファイル』という海外SF本も、本作のような報告形態で作られており、かなり緻密に世界観を作っているとのこと。
読みたい。
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