■評価:★★★☆☆3.5
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「他人の不幸は蜜の味。他人を不幸に陥れるのは愉悦の極み」
【小説】他人事のレビュー、批評、評価
蜷川実花によって映画化された『ダイナー』、2007年度『このミステリーがすごい!』国内部門一位を獲得した『独白するユニバーサル横メルカトル』の著者・平山夢明の2007年に刊行された短編集。
【あらすじ】理解不能な他人たちに囲まれているという日常的不安を描く14編を収録した短編集1編が20~30ページからなる短編集。
タイトルの「他人事」がテーマとなっており、無関心や理不尽によって人をどん底に陥れていく不条理ホラー。
一本目のタイトルと同名の話から素晴らしい。
舞台は山。
交通事故で死にかけている夫婦の近くを、男がたまたま通り過ぎた。
夫婦は必死になって男に娘の安否を尋ねる。
だが、男は「何で俺がそんな面倒なことをしなきゃいけないんだ」といった具合に、他人事で接する。
この温度差が不謹慎ながら面白い。
なかなかイカれた結末を見せてくれるので、満足度も高め。
本作はどのエピソードもどんでん返しがある。
捻りの利いたクライマックスを見せてくれるため、ついつい結末が気になって最後までページをめくってしまう。
しかも20~30ページという長さだから、読みやすくて良い。
2本目の「倅解体」もかなりお気に入り。
怪物のように巨体の引きこもりの息子を、夫婦が力を併せて命を奪うという話。
設定だけでワクワクさせてくれるのに、斜め上を行く結末を見せてくれるのが最高である。
私が本作を読もうと思った一番の理由は、漫画『HUNTER×HUNTER』の著者、冨樫義博が、本作の解説を務めているから。
冨樫義博といったら、ネームの真理に最も近い男、と称されるほどに読む人をひきつけるシナリオで我々を楽しませてくれる。
冨樫義博さんは初めて週刊少年ジャンプで連載したとき、週刊で漫画を書くことの難しさを実感した。
『厳しい漫画の世界で勝つにはストーリーを極めなければ!』と確信し、以降は絵よりもシナリオに注力することになる。
勉強として読んでいた小説が、筒井康隆や本作の著者の平山夢明なのだ。
ソースは下記の漫画に記載あり。
不条理や理不尽に振り回されるこそが現実である。
好きな女性がいても、簡単に親友が奪っていったり。
あるいは、コロナで長年、真面目に勤めていた職場を失ったり。
誰でも、不条理や理不尽を体験しているからこそ、本作が与えてくる怖さは生々しいものばかり。
街を歩けば、他人に無関心な人間なんてゴロゴロいる。
自分がピンチに陥った時、必ずしも「善人」が近くにいるとは限らない。
誰にでも本作のような悪人に、背中を押されて地獄に突き落とされる可能性を孕んでいる。
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