小説『爆弾』ネタバレなしの感想。自称霊感持ちの冴えない中年男が爆弾の爆発を予言する

スリラー
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■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★☆☆3.5

「人は力に屈し、翻弄される」

【小説】爆弾のレビュー、批評、評価

『スワン』『おれたちの歌をうたえ』『Q』『白い衝動』の呉勝浩による2022年4月20日刊行にミステリー・スリラー小説。
本作はこのミステリーがすごい!2023年版 国内編第1位、ミステリが読みたい!2023年版 国内編第1位を獲得している。

【あらすじ】些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。
警察は爆発を止めることができるのか。(Amazon引用)

本作はX等のSNSでめちゃくちゃ評判が良かった。
あまりに多くの称賛を目の当たりにして目が爆発するかと思った。
続編の『法廷占拠 爆弾2』も2024年7月31日に刊行され、更には2025年10月31日には実写版映画の公開も予定されている。

特に世間でフィーチャーされている本作の悪役であるスズキタゴサクは、新世代のヴィランとしてどんな極悪な立ち振舞を見せるのか。
大きな期待を持ってページをめくった。

テンポが凄まじく良い。
本作はタイトルより爆弾魔の話なんだろうと推察できる。
冒頭三ページ目で早速、1つ目の爆弾が秋葉原の古いビルを襲う。
あまりのスピード感に笑える。

ちょっと昔の映画や小説だと、最初の事件が発生するまでもっと焦らしていた印象。
例えばサメ映画の金字塔『ジョーズ』は、サメが人間を襲うのは物語中盤の開始1時間辺り。
『ジョーズ』は低予算の関係でサメ演出をふんだんに行えなかった苦肉の策として、1時間かけてサメに対する恐怖を煽る演出に踏み切った事情はある。

にしても本作の爆弾する早さは、タイパという言葉が流行語になる2025年の今の時代ならでは。
4ページ目では、章が変わり、本作の裏の主役であるヒールのスズキタゴサクが、取調室で刑事と会話するシーンからスタートする。
メインディッシュを冒頭から次々と放り込まれるので、お腹いっぱいに感じる間もなく、次へ次へと先の展開を摂取したくなる。

スズキタゴサクは前評判通りの魅力があった。
見た目はデブでハゲの49才の冴えない中年男。
酒屋の店主と些細なトラブルで暴行を働き、警察署へ連行されたスズキタゴサクは、ひょうひょうとした態度で取り調べを受ける。
唐突に等々力刑事との会話の脈絡を無視して「私、実は霊感があるんです。1時間後に秋葉原で爆発が起きます」と口にする。

何言ってんだ、と等々力は聞き流すが、本当に爆発は起きてしまう。
ここから警察総出で、スズキタゴサクから次の爆弾による爆発やスズキタゴサクそのものの情報を引き出すための心理戦が始まる。

心から面白かった。
スズキタゴサクの知性が凄まじく、中盤から、登場する切れ者刑事の類家との知力による攻防は見応え抜群。

いまだかつて、ここまでルックスの悪いのに頭は良い凶悪なヴィランは居ただろうか。
『羊たちの沈黙』のレクター博士は中年だけど品があり、アートを楽しむ高尚な男。
漫画作品となると、悪役はみんなイケメン。
スズキタゴサクの造形は新鮮さがあり、私も夢中になった。

個人的には類家もかなり気になった。
本庁に所属するエリート刑事。
スズキタゴサクの趣味の悪い爆弾に関するクイズに対して、スズキタゴサクを狼狽させる頭の良さを発揮する。
だが類家はスズキタゴサクと似通った危うさがある。
具体的には直接、読んで確かめてもらいたい。
類家は分かりやすい善人ではない。
だからこそ、スズキタゴサクとの戦いでえぐられる類家の感情に深みが生まれる。

描かれるテーマに新しさは感じられなかった。
すでに他の作品で描かれてる印象があり。

とはいえ、面白い作品であることは間違いない。
映画版はスズキタゴサクを佐藤二朗さんが演じる。
『勇者ヨシヒコシリーズ』の福田雄一監督常連のコメディ俳優の印象が強い。
だが、『岬の兄妹』『ガンニバル』の片山慎三監督のスリラー映画『さがす』では、なかなか見応えのあるシリアスな演技で観客の感情をかき乱した。

個人的には宇野祥平さんで観てみたかった気もするが、佐藤二朗さんも適任者だと思うし、期待したい。

一度知ったら忘れられない強烈な悪が登場するおすすめ作品はコチラ。

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爆弾の作品情報

■著者:呉勝浩
■Wikipedia:呉勝浩
■Amazon:こちら、続編はこちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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