■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★★☆4
「愛」
【小説】異邦の騎士のレビュー、批評、評価
本作は『占星術殺人事件』『斜め屋敷の犯罪』の重鎮ミステリー作家、島田荘司の初めて執筆したミステリー小説。
出版に至ったのはデビューから16年後の1988年。
出版が遅れた理由はデビュー作にするにはパンチの弱く、次回作に回すことを決めたそう。
更にタイトルが決まらなかった経緯もあり、やむなく『良子の思い出』と仮題をつけて机の引き出しに放り込んで、そのまま存在自体を忘れさられた。
結果として、読者アンケートでは島田荘司作品の中でも1~2位を争う人気作となった。
果たしてどんな内容のミステリーなのか。
【B】【あらすじ】目覚めるとベンチの上。「俺」は記憶喪失に気づく。日付は昭和53年3月18日で、今いる場所が高円寺であることは分かる。だが、ほかの記憶は戻らない。辺りを徘徊し、若い女性がサングラスをかけた若い男と争っているシーンに遭遇する。娘は「俺」の胸に飛び込むと、男は姿を消した。石川良子と名乗った女性は翌日に控える引っ越しのため、「俺」に手伝いを頼む。二人は自然と仲良くなり、良子の引っ越し先で同居を始める。平穏で幸福な毎日が続いた。ある日、家の引き出しを漁っていると、自分の運転免許証を見つけてしまい……。
結論から述べると素晴らしい内容だった。
島田荘司作品といえば、ぶっ飛んだ物理トリックに定評のある本格ミステリー作家だ。
40年前の未解決の猟奇事件の解決の依頼が舞い込み、キレ者探偵の御手洗が推理する『占星術殺人事件』。
『斜め屋敷の殺人』は傾いた屋敷で発生した事件を解決するミステリー。
この2つはアホとも思えるとんでもないトリックが使われている。
個人的には占星術が好き。
トリック単体の衝撃は斜め屋敷が強かった。
本作はそんな島田荘司作品だが、従来の大掛かりなトリックは用いられていない。
どんでん返しがいくつか用意されている程度である。
本作は人間ドラマにフォーカスを当てている。
主人公は記憶喪失の男。
右も左も分からない不安な状態。
なぜ自分が高円寺にいるのか。
自分は誰なのか。
そんな時に、たまたま見かけた若い女性・良子に手を差し伸べてもらう。
男からしたら良子は救世主だ。
どこの誰かもわからない自分に寝床を用意してくれたり、おかげで仕事にもありつけた。
男が良子に惹かれていく感情は必然である。
そんな中で、たまたま見つけてしまった自分の運転免許証に端を発し、奥底に沈んだ記憶が少しずつ蘇る。
だが、事態は次第に不穏なほうで向かってしまう。
読者としては混沌を期待しつつも、「良子との関係が破壊してほしくない」と願う。
そんな中で唐突にぶっ込まれるどんでん返しは、かなりびっくりさせられる。
探偵役の御手洗 潔(みたらい きよし)もよかった。
本作は島田荘司作品で最も人気のある御手洗シリーズの一作である。
本作は時系列的には御手洗の最初の事件。
『占星術殺人事件』や『斜め屋敷の殺人』と同様の飄々としたキャラクターは健在。
堕落した毎日を生きているのに、占星術に長けていて、あらゆる物事・事象を見透かすような超然としたキャラ。
序盤は御手洗はあまり入り込んでこない。
主人公の友達として仲良く会話を楽しんでいるだけ。
終盤になり、いつもの御手洗の怒涛の一人舞台を堪能できる。
私も御手洗シリーズは何作か読んでいるので、久しぶりに御手洗らしい素晴らしい推理っぷりに頬が緩んでしまった。
主人公が記憶喪失ってこともあって、会話文よりも地の文が多め。(心の声が多くを占める)
だが、全体的に文章は平易で読みやすいので、多くの人に薦めたい。
御手洗シリーズの長編3作目なので、最後のちょっとした仕掛けには、前作を読了している読者には驚かされる。
なので出版順となる、『占星術殺人事件』『斜め屋敷の殺人』の順番で読むことをおすすめする。
『斜め屋敷の殺人』と『異邦の騎士』の間に短編集『御手洗潔の挨拶』が刊行されている。
私はまだ未読だが、本作は問題なく楽しめた。
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