■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★☆☆3.5
「生まれた環境が人の運命を決定する残酷さ」
【小説】テスカトリポカのレビュー、批評、評価
『QJKJQ』『Ank: a mirroring ape』の佐藤究による2021年2月19日刊行の社会派スリラー小説。
第34回山本周五郎賞と第165回直木三十五賞を受賞。
【あらすじ】メキシコのカルテルに君臨したバルミロ・カサソラは、対立組織との抗争の果てにメキシコから逃走し、潜伏先のジャカルタで日本人の臓器ブローカーと出会った。二人は新たな臓器ビジネスを実現させるため日本へと向かう。川崎に生まれ育った天涯孤独の少年・土方コシモはバルミロと出会い、その才能を見出され、知らぬ間に彼らの犯罪に巻きこまれていく――。海を越えて交錯する運命の背後に、滅亡した王国〈アステカ〉の恐るべき神の影がちらつく。人間は暴力から逃れられるのか。心臓密売人の恐怖がやってくる。誰も見たことのない、圧倒的な悪夢と祝祭が、幕を開ける。(Amazon引用)
賞レースの受賞作品は世間の注目を集めるし、その本が売れるきっかけになる。
だが、面白さの観点で考えると、信用度はそこまで高くなかった。
個人的にだが、特に本屋大賞は顕著だ。
本屋大賞はプロの作家が審査する他の賞レースとは異なり、一般人の書店員が票を持っている。
そのせいか本屋大賞はキレイにまとまった無難な作品が1位を獲得している印象が強い。
一癖あるパンチの効いた作品は万人受けしないため、1位を獲得しづらいと思われる。
本屋大賞はノミネート10作が獲得した票順にランキング形式で発表される。
何なら2位以下のが読む価値あるんじゃないかと捻くれたくなる。
エンタメ小説の最高峰である直木賞に、最近強く興味を持っている。
第172回直木賞候補作の『虚の伽藍』という作品をたまたま読んだのだが、めちゃくちゃ自分好みだった。
マジメなお坊さんが、私欲にまみれた坊主が蔓延る自身が傾倒する仏教の宗派、称念寺派を正すため、反社連中と組んで悪事を働く犯罪小説。
設定から尖り倒したこの作品がすこぶる面白かった。
『虚の伽藍』は受賞を惜しくも逃した。
だが、エンタメ小説の賞の頂点に君臨する格式高い直木賞が、この手の挑発的な作品も拾い上げる懐の深さを感じたのだ。
そして過去の直木賞作品を調べようと、作家の石田衣良さんのYouTubeを漁っていたところ、本作『テスカトリポカ』に到達する。
怪物的な小説だと石田さんは語る。
問題作で、明らかに人を選ぶハードなノワール小説。
直木賞受賞作となった本作について石田衣良さんが語っている動画は下記。
結論から言うと石田さんの言う通り、とんでもない内容だった。
とにかく内容がエキサイティング。
主人公のメキシコ最大のいけないお薬を密売するカルテルのリーダー、バルミロ。
色々あって、敵対組織に自身のカルテルが壊滅される。
もう一度金や力を手に入れて復讐するため、日本人の闇医者の末永と組み、日本で心臓密売人のビジネスで荒稼ぎするストーリー。
そもそも心臓密売人の職業が禍々しい。
お薬を密売するってなると、どういう風に商品が流れるのかイメージはつく。
だが心臓密売人って何だよって思う。
人の心臓を盗むというのか。
ハンター×ハンターのキルアのように。
更に、バルミロにはメキシコでは『粉』という謎めいた通り名がある。
バルミロには同じ生業をする兄弟が自分を除いて3人いる。
指、ジャガー、ピラミッドとそれぞれ異名はあるのだが、粉は最も意味不明。
と言うか怖いイメージはわかない。
粉の由来はバルミロの、一風変わった敵のいたぶり方にある。
捉えた敵を椅子とかに拘束し、ボンベに入った液体窒素を四肢にぶっ掛けて瞬間凍結させて、ハンマーで砕いて粉々にする。
この一連の動作を顔色1つ変えずに行うバルミロは粉と呼ばれる。
イカれすぎている。
だが粉と呼ばれる人間に育つような過酷かつ特殊な環境を生き抜いてきているので、バルミロも残酷な現実の被害者だ。
その不幸な境遇も多くのページを割いてみっちり描かれているのが良かった。
とにかく本作は悪ばかりが登場する。
闇医者の末永とか、バルミロが日本で作った戦闘集団の面々とか、救いようのないサイコで溢れかえっている。
そんな中、異彩を放つ大男の少年で、もう1人の主人公、コシモには目を見張った。
明確には描かれていないが、恐らく発達障害で精神が成熟していないコシモ。
彼は正義と悪の両方に揺れる。
果たしてバルミロとコシモの2人の末路はどうなるのか。
最後は意外とあっさりだった。
メキシコから始まるスケール感の大きさがあるので、結末に向けて尻窄みした感は否めない。
でもキャラも世界観も何もかもが魅力的。
改めて、本作のような倫理的にどうなんだ、とツッコミたくなる強烈な作品を受賞させる直木賞は信頼に値する。
Netflixくらい資金力がある制作会社が携わらない限り映像化は難しい。
この手の小説でしか楽しめないような作品を手に取れると読書家冥利に尽きる。
次の、直木賞は候補作品を読破して発表を楽しみに待とうと思う。
突き抜けた怪物作品はコチラ。
■虚の伽藍
■母という呪縛 娘という牢獄
■エヴェレスト 神々の山嶺
■三体
■墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便
コメント