■評価:★★★★☆4
■読みやすさ:★★★★☆4
「情報化社会の功罪」
【小説】スマホを落としただけなのにのレビュー、批評、評価
シリーズ累計100万部を突破する『スマホを落としただけなのにシリーズ』の一作目で、志駕晃による2017年4月6日刊行のミステリー・スリラー小説。
【あらすじ】麻美の彼氏の富田がスマホを落としたことが、すべての始まりだった。
拾い主の男はスマホを返却するが、男の正体は狡猾なハッカー。
麻美を気に入った男は、麻美の人間関係を監視し始める。
セキュリティを丸裸にされた富田のスマホが、身近なSNSを介して麻美を陥れる狂気へと変わっていく。
いっぽう、神奈川の山中では身元不明の女性の亡骸が次々と発見され……。(Amazon引用)
本作の存在は、北川景子主演の実写映画版で認知した。
監督は公開当時、とんでもない社会現象を巻き起こし、『Jホラー』というホラージャンルまで誕生させた映画『リング』の中田秀夫。
本作の制作陣はかなり気合いの入れて作ったのだろう、CMでも良く見かけたので、原作小説が存在することを知らない人も多いのではないだろうか。
ただ、チープな投稿小説のようなタイトルなので、食指がもがれ、なかなか小説版も劇場版もチェックする気にはなれなかった。
私は小説を書いているのだが、作品を添削してくれている先生が『アイディアが秀逸』ということで、本作を引用して添削してくれたので、課題図書的な軽い感覚で読むに至った。
先に微妙だった箇所から言及したい。
先生が褒めた設定は、個人的には刺さらなかった。
主人公の美人派遣社員、麻美の彼氏の富田がスマホを落とす。
やばいサイコパスが拾い、待ち受けに映る長い黒髪の美しい麻美を大いに気に入り、麻美を標的にするストーリー。
あまりにシンプルすぎて、この設定自体の魅力は感じられなかった。
そもそも私は酒を飲まないせいか、スマホや財布などの貴重品ををなくすことがほとんどない。
なので、『そもそも落とすなよ』とツッコミながら読んでいた。
題材も既視感が強い。
本作はサイコパスである男はパソコンの知識を豊富に持つハッカー。
そのためSNSやパソコンツールを駆使して、情報を集め、麻美に迫っていく。
この現代のテクノロジーを駆使して核心に迫る展開は、すでに多くの作品がやっている。
小説だと、女子高校生が探偵となって活躍する『自由研究には向かない殺人』の2作目『優等生は探偵に向かない』は、ポッドキャストを使って情報収集する展開は斬新だった。
パソコン画面のみで話が進む『アンフレンデッド』と『Search』といった映画も、現代ガジェットを駆使し、謎に迫っていくストーリー。
そのため、2025年現在、この手の作品に新しさは皆無。
だが、本作はシナリオと構成が絶妙に上手くて、物凄く楽しい作品だった。
ネタバレにないように説明する。
冒頭、サイコパスの男は麻美のフェイスブックにログインするためパスワードの解析を試みる。
次のシーン、麻美視点で『あなたのFacebookが他デバイスでログインされた形跡があります〜』のメールが届く。
我々も、この種類のメールを何度も見たことはあるだろう。
何の変哲もないこのシーン以降、とてつもなく没入させられる。
明らかにこのシーン以降から物語に目が離せなくなる。
例えば少年ジャンプの漫画『HUNTER×HUNTER』であったり『デスノート』などの心理戦が面白い作品と同じ手口で読者を巻き込むのだ。
作者はどこまで計算しているのか分からない。
作者 2020年時点で 60歳を超えている元漫画家、テレビマンの経歴を持つ。
多くのエンタメ業界を駆け抜け、身につけた技巧で、意図的にやっているだろう。
思わぬ掘り出し物といった感じで多くの人に勧めたい。
個人的には、物語作りしている人は必読書だと思う。
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スマホを落としただけなのにの作品情報
■著者:志駕晃
■Wikipedia:スマホを落としただけなのに
■Amazon:こちら
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