小説『イクサガミ 人(三巻)』ネタバレなしの感想。東海道を舞台にした命の奪い合いが佳境を迎える

エンタメ小説

■評価:★★★☆☆3
■読みやすさ:★★★☆☆3.5

「兄弟とは替えのきかないかけがえのない存在」

【小説】イクサガミ 人(三巻)のレビュー、批評、評価

『羽州ぼろ鳶組』シリーズ『童の神』『八本目の槍』『じんかん』『塞王の楯』の今村翔吾による2024年11月15日刊行のアクション歴史小説

【あらすじ】東海道を舞台にした「蠱毒」も、残り23人。
人外の強さを誇る侍たちが島田宿で一堂に会した。
血飛沫の舞う戦場に神と崇められる「台湾の伝説」が現れ、乱戦はさらに加速する――!
数多の強敵を薙ぎ倒し、ついに東京へ辿り着いた愁二郎と双葉を待ち受ける運命とは。(Amazon引用)

何とも言い難い読後感だった。
良かった点から挙げていきたい。
キャラクターの回想による深掘りが良かった。

中盤に差し掛かる辺りから、島田宿での大人数による乱闘が描かれる。
本作のメインエピソードの1つなのだが、戦闘の冒頭はひどく退屈だった。
よかった点から挙げるとは言ったが。
初めて登場し、何の事前情報も与えられていないよう分からんキャラたちの激しい交戦を、読者はどう楽しんでいいか分からない。
いつの間にか勝敗がついたり、何が決め手となり勝敗を決しているのかが意味不明。
読んでいて納得しづらかった。

そもそもバトルシーンは、いかに今から戦闘するキャラクターたちの事前情報を与えて読者をワクワクさせるかがポイント。
例えばドラゴンボールは戦闘力。
HUNTER×HUNTERでは、念能力であったり、キャラの境遇、あるいは戦闘前にどんな行動を起こしてきたのかなどなど。
あるいは、片方のキャラには読者に事前情報を与え、もう片方キャラには読者に全く情報を与えないというのもあり。
(情報のないキャラクターが、事前情報を与えられた強い印象のキャラクターを圧倒したらこいつ何者!?と関心を抱くから)

HUNTER×HUNTERの作者の冨樫さんは戦闘に極限的にスリルを与えるために、戦闘の勝敗を左右する『情報』をものすごくシビアに扱っている。
例えばHUNTER×HUNTERでは、簡単に自分の能力を敵はもちろん、味方にすら見せなかったり、
能力を見せていても、実は親友にも明かしていない能力を隠し持っていたり、
自分の能力の弱点を敵に開示することが、自身の能力の発動条件の1つだったり。
だが本作の戦闘は軽薄の極みだった。
たぶん、大して考えて作っていないんだろう。

本作は290名の蠱毒参加者の名前を全て記載している。
確かに頑張っていてすごいと思う。
でも名前を書くんだったらちゃんとそのキャラを立たせてほしい。
読者は名前のあるキャラにキャラ性を期待する。
期待してほしくなかったら名前が存在しないモブキャラにしてほしい。
『全員名前考えた。凝ってるでしょ?』って思われたいだけの作者の承認欲求が垣間見える。
それは小説として面白さとは別物。
私は面白い小説が読みたい。
ただそれだけ。

たぶんHUNTER×HUNTERのグリードアイランド編で出てくるの真似をしたかったんだろう。
カードを集めるエピソードなのだが、集めるべき指定カード100枚、戦闘などに用いるスペルカード40枚の全ての詳細を提示した。
本編で使用シーンが出てこないカードも大量に含まれている。
そのある種の無駄な労力を読者に賞賛されたから、本作の著者も真似したかったんだと思う。
だが、カードとキャラクターは別。

と、思ったのだが。
島田宿の戦闘が佳境に入ってくると、さすがに残った人物たちの境遇がたっぷり描かれ、戦闘に緊迫感が増したので良かった。
各々のキャラクターの回想には気合いが入って描かれていたので、大いに興奮できた。
できるんならこれを最初からやって欲しかった。

ちゃんとやってるのが小説の『バトルロワイヤル』。
中学3年生の1つのクラスが修学旅行中に軍にさらわれて命を奪い合うゲームをさせられるもの。
『バトルロワイヤル』では、登場人物約30人の全ての境遇を描き、その末路に悲哀を与えている。
『バトルロワイヤル』が評価された一因の1つだが、本作はその肝心な部分を若干おざなりにした印象。

進次郎の戦いは良かった。
詳細は伏せるのでもしあなたが興味あれば読んでみるといい。
本作で描かれた戦闘群の中で、一番感情が動いたかもしれない。

個人的に批判したい箇所について。
前巻では浜松宿で、愁二郎一派は蠱毒運営側である警官たちをめっちゃ斬った。
蠱毒に反旗を翻すため。
だが本作では普通に蠱毒に戻り、普通に点数を気にして札集めをするのは違和感。
命を奪われるリスクを背負って、蠱毒をぶっ壊す破壊工作に踏み込んだのに、
そのリスクを代償をまるで受けず、ゲームに戻ってるのは良くないと思う。
読者からすると蠱毒の運営に怖いイメージがなくなるので、蠱毒そのもののスリルが低くなる。
どんどん反抗したらいいじゃんとツッコミたくなる。

キャラクターの行動原理にも違和感があった。
島田宿の毒を使うキャラが出てくる。
毒使いはとある建物の屋根に立ち、壺のようなものに入った毒を宿場町一帯に霧状に振りまく凶悪なもの。
この毒使いは島田宿の乱戦で重要となる強キャラ。
命の危機を察したみんなが、毒使いを狩ろうとする。
そもそもおかしくないか。
なんでわざわざみんなの標的になるように、みんなの前で毒を使うのだろう。
リスクしかない。
毒を撒いたらすぐに隠れろよ、とツッコミたくなる。

他にも大して関係性もないのに、なぜか双葉たちを助けるキャラが出てくるのも違和感。
みんな深刻な事情があって命をかけて蠱毒に参加してるのにわざわざ助ける意味はあるのか。
ここに関しては後ほど詳細が描かれるかもしれないが。

一番イヤだったのが『HUNTER×HUNTER』の印象的な設定及び、シーンを、そのまま本作の重要なところで踏襲している点。
それは、本作終盤に差し掛かる辺りで描かれるある強敵への対策と、奥義の裏側。

『HUNTER×HUNTER』をパクりたくなる気持ちはわかるけど、もっとアレンジするなり、著者のオリジナリティを見せつけてほしかった。
堂々と踏襲してるので、引っかかりすぎて読む手が止まった。
それに『HUNTER×HUNTER』の上っ面しか掬ってないのも個人的には嫌悪感を抱く。

『HUNTER×HUNTER』ファンの私からしたら、もっと芯から震える恐怖を与えるような、1ページめくるたびのスリルを叩き込むような熱量を感じたかった。
作者はこの作品で読者を楽しませようという気概はそこまで強くないように思えた。

次巻で最終巻なので最後まで読むが、私はこの著者の直木賞受賞以降の作品はよっぽどのことがない限り、手に取らないと思う。
期待していただけに肩透かし食らったし、やっぱり多作の人って、良くも悪くも手癖で書いちゃうんだなって確信が強まった。

命の奪い合いに胸が熱くなるドラマが描かれるおすすめ作品はコチラ。

■同志少女よ、敵を撃て

イクサガミ 人(三巻)の作品情報

■著者:今村翔吾
■Wikipedia:イクサガミ
■Amazon:こちら

この記事書いた人
柴田

子供の頃は大の活字嫌い。18歳で初めて自分で購入した小説『バトルロワイアル』に初期衝動を食らう。実写映画版も30回くらい観て、映画と小説に開花する。スリラー、SF、ホラー、青春、コメディ、ゾンビ、ノンフィクション辺りが好き。小説の添削でボコボコに批判されて凹みがち。

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