映画の海

約1100本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます。(直近で観たものに限る。たまにアニメ・ドラマ・小説も)面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

⑨組織のなかで

映画『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』ネタバレなしの感想。サイコパスの毒親に育てられた娘の末路

投稿日:6月 9, 2019 更新日:

■評価:★★★★☆4.5

「毒親のネグレクトに屈せず、スケートに人生のすべてをささげた破天荒な娘の物語」

【映画】アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダルのネタバレなしの感想、レビュー、批評、評価

1970年代、乱暴な母ラヴォナは、スケートの話ばかりする4歳のトーニャを黙らせるためにスケート教室に連れていく。コーチのダイアンは「初心者は受け付けない」と二人を帰そうとするが、おもむろに滑り出したトーニャを見て魅了され、指導することに。半年後、トーニャは年上選手を差し置いて大会で優勝を果たすほどの成長を見せる。一方で毒親ラヴォナの暴言・暴力による支配的な教育はエスカレートしていき……。

トーニャ本人と、彼女と関わった人物たちのインタビュー映像から本編は始まる。
話を聞いていると、どうやらトーニャは対戦相手をブッ飛ばしたらしい。
この物語は、アメリカ人として初めてトリプルアクセルを成功させたフィギュアスケーターのトーニャ・ハーディングが、リレハンメル五輪の選考会にて、ライバルであるナンシー・ケリガンを暴行して出場不能に追い込んだ史実に基づいた映画だ。

その後、トーニャの子供時代の回想シーンに入る。
トーニャは母ラヴォナと四人目の夫の元で生まれた女の子だ。
フィギュアスケートの話ばかりする4歳のトーニャを黙らせるために、ラヴォナはスケート教室に入れされるのだが、文字通り糞みたいな母親である。
ちょっとしたことでトーニャをヘアブラシで叩いたり、レッスン代を1セントも無駄にさせないとばかりに、練習中の彼女にトイレに行くことを禁じ、小便を漏らすまで練習させたりなど。ただの胸糞である。
とはいっても全編を通してコミカルに描いているので、気楽に観れる親切設計となっていることは補足しておく。

近年、虐待によって命を奪われる事件が世間をにぎわせているが、子供が親を選べないことで地獄を見る不条理さをこの映画からも痛感させられる。
しかもこの映画、監督が実際にメインキャラであるトーニャやラヴォナら本人から直接インタビューを行い、それを元に製作している。劇中で行われている目も当てられない酷い教育は、あながち誇張されてもいないだろうから驚きだ。

高校生になったトーニャは、スケート場に見学に来ていたジェフと付き合うことになる。彼女にとって初めての恋人だ。
彼をいい男だと思った最初だけで、数ヶ月後には彼から暴力を振るわれるようになる。
トーニャは彼の暴力は「自分にも原因がある」と思っていたと語る。
この発言は引っかかる。
私も子供の頃に親から言動を否定され「あんたのせいでしょ」と責任転換されるしつけを受けてきたので、大人になっても自己肯定出来ずに苦しんだ経験がある。「自分に原因がある」といった自分を責める発言は、強く共感できる。

ただし、気の強い母の背中を見て育ったトーニャもまた核弾頭のようなダイナミックレディに育ち、彼に殴られたら殴り返したり、時にはライフルで発砲して抵抗をしめしたりする。この辺りは穏やかで平和主義な私とは正反対である。

トーニャが高校生になってもラヴォナの傲慢さは変わらない。
コンテストで優勝出来ないと、ラヴォナは「仕事の金はスケートにすべてつぎ込んでるのになんてざまだ!」と怒鳴り「男と寝てるんなら家賃を払え!」と言ったあと、トーニャに対してとうとうやってはいけない暴挙に出る。
うんざりしたトーニャは家を出ることに。

自分で勝手に産んでおいて愛情をそそぐことを放棄する自分勝手な親である。
努力して成果が出なかったことをけなすなんて、子供の自信の芽を摘む最低最悪の行為だ。
あまりにトーニャがひどい環境で育っているので、観客は一気に感情移入しまい、家を出た彼女を見て思わず安堵するだろう。
母に何を言われてもトーニャはくじけず、スケートを頑張り続けるから応援したくなる。

破天荒に育ってしまったトーニャは試合会場の廊下で喫煙したりと、育ちの悪さが周囲にも知られてしまう。
そのせいで審査員は、トーニャがいくら素晴らしい演技を披露しても高得点を与えない。
フィギュアスケートという競技は技術だけではなく、演技を通じて理想的な家族像を観客に連想させることを要求されるスポーツなのだ。
でも、トーニャは理想的な家族がなく「何でスケートだけじゃあダメなの?」と猛抗議をする。このシーンは観ていて胸が苦しくなる。

国内の審査員すら敵に回し、オリンピック出場も絶望的になる。
「何とかひねり出してやる」と言って、トーニャはとある行動を選択する。
本当に素晴らしい。成果を出すためなら手段を選ばない。彼女を観ているだけでエネルギーを貰える。

しかし、この後も彼女の前には様々なハードルが立ちはだかる。
すべてを目の当たりにしたあと、あなたは「何て残酷な物語なのだろう」と心から思うだろう。そして、この映画が作られた意図を理解し、もっと多くの人に観られることを望むはずだ。

それとこの映画、ちょいちょい登場人物たちがカメラ目線で喋り、メタ視点になるときがある。
この演出の目的も見終わったあとに気づくだろう。なぜ、劇中の登場人物たちは観客に向かって台詞を放つのか。

にしても、このクレイグ・ガレスピー監督、演出が異様に上手い。
確かに彼女の人生は波乱万丈でドラマ性に富んでいるとはいえ、ここまでユニークに演出されると一度観出したら止まらなくなる。
この映画は多方面からいい評判を聞いていたので楽しみにしていたが、いくら期待しても、実際に観たらそのハードルを余裕で越えてくるハイレベルなクオリティに仕上がっている。
ジャケット画像もカッコよくてセンスが良い。

アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダルのスタッフ、キャスト

■監督:クレイグ・ガレスピー
■出演者:マーゴット・ロビー セバスチャン・スタン アリソン・ジャネイ
■Wikipedia:アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):89%
AUDIENCE SCORE(観客):88%

アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダルを見れる配信サイト

U-NEXT:○(有料)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(吹替・有料)○(字幕・有料)
TSUTAYA TV: ○(有料)
Netflix:-
※2019年10月現在

アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダルと関連性の高いおすすめ映画

アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダルの裏ジャンルである【組織のなかで】に分類される映画。

『トレーニング デイ』★★★☆☆3.5
舞台はロサンゼルス、正義感溢れる新人刑事のジェイクは、麻薬取締課に配属され、ベテラン刑事アロンゾと組むこととなる。アロンゾは「今日はお前のトレーニングデイ(訓練日)だ」と言い、押収したクスリをジェイクに吸うように勧める。マジメなジェイクは抵抗を示すが「麻薬捜査官は麻薬を知ることも仕事だ」と説得され、仕方なく吸ってしまう。この後もジェイクは彼の横暴に振り回され……。

一見バディ物のように思えるが、あくまでも組織の長であるアロンゾとの対立軸をメインとしている刑事映画である。
アロンゾに扮し、この作品でアカデミー主演男優賞を受賞したデンゼル・ワシントンの悪役っぷりは見物だ。

U-NEXT:
Hulu:
Amazonビデオ:○(吹替)○(字幕)
ビデオパス:
TSUTAYA TV:
Netflix:-
※2019年6月現在

-⑨組織のなかで

執筆者:

名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。