映画の海

約1100本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます。(直近で観たものに限る。たまにアニメ・ドラマ・小説も)面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

⑥バディとの友情

映画『君の名は。』ネタバレなしの感想。アニメにおいて人類の到達点の一つ

投稿日:6月 23, 2019 更新日:

■評価:★★★★★5

「ロマンチズム溢れるセカイ系恋愛映画」

【映画】君の名は。のネタバレなしの感想、レビュー、批評、評価

岐阜県糸守町に住む宮水三葉は17歳の女子高生。大自然に囲まれた美しい町だが、何もない田舎にうんざりしていた。ある日、彼女は朝起きると東京の男子高校生、立花瀧の姿になっていた。一方その頃、瀧も目が覚めると三葉の姿になっており……。

結論から言うと、奇跡としかいいようのない出来栄えだ。
今回記事にするにあたって3回目の視聴をしたのだが、この映画の素晴らしさは言葉で表現できる類のものじゃない。あなたがまだ観ていないのなら、こんなブログはさっさと閉じて、配信なりレンタルなりで観るべきだ。日本人ならなおさら。同じ民族が起こした奇跡を1秒でも早く堪能するべき。例え結果的に自分に合わなかったとしても、実績があまりない新海という男が世に投下した、単発のアニメ映画でこれだけの社会現象を引き起こしたこの作品を観ないという選択は、機会損失でしかない。

記事にしようと思って改めて観たので、あえて言葉でこの物語について語っていく。もはや以下の文章すべて蛇足だ。
本作は二人の主人公、男子高校生の瀧と女子高生の三葉が入れ替わるシナリオだ。その際は本体(中身)の表記で記事を書いていく。

オープニングから鳥肌ものだ。
天より降り注ぐ流星が雲を破り、大地へと向かう映像は息を呑むほどに美しい。惚れ惚れする。
その後、新海らしい主人公二人による自意識の強いナレーションが挟まれて、RADWIMPSの「夢灯籠(ゆめとうろう)」が流れる。
まるでPVのように完璧にシンクロした映像と音楽は観ていて心地いいし、新海とRADWIMPSはかなり密に話し合って作り上げたため、完成度が異常に高い。良くできてる。できすぎている。

物語は主人公の一人でヒロイン、宮水三葉の視点から始まる。
三葉は岐阜県糸守町という田舎に住んでいる。
彼女が通学のために外に出ると、広大な湖と山と緑の大自然が姿を現す。美しい。
画も普通に美しいのだが、特に光と影のコントラストを強めている印象。絵に関して私は明るくないのだが、奥行が生まれるのだろうか。とにかく光の差し込みとそれによって生まれた影が、やたらと臨場感のある美麗な映像を産んでいる。
キャラの表情も非常に豊か。表情の変化を観ているだけで吸い込まれる。

そんな美しい景色の広がるところに住む三葉だが、カフェすらなく、一件あるコンビニは21時で閉まり、その割にスナックは2件ある退屈な田舎町にうんざりしていた。
そして神社の神主の子供として生まれた三葉はある日の夜、人前で口噛み酒を捧げる儀式を行う。
口噛み酒は、口に含んだ米を噛んで吐き出して放置し、自然発酵させることでアルコールになるという世界最古の酒である。実際に存在するもの。

思春期の三つ葉は、こういった姿を同級生に見られることに恥ずかしさを感じており、儀式後は「生まれ変わったら東京のイケメン男子にしてくださーい!」と山地にある神社から湖に向かって叫ぶ。

三葉がいつも髪を止めるのに使う組紐や、口噛み酒などといった古い歴史を持つ宗教感の強いアイテムを出すことが、入れ替わりという不思議な現象を扱うこの物語を上手い具合に補強してくれる。

そして、三葉の高校の古典の授業で語られる万葉集から引用した黄昏時(たそがれどき。糸守の方言ではカタワレ時)という概念。
『誰そ彼と われをな問ひそ 九月の 露に濡れつつ 君待つわれそ』
つまり夕方、昼でも夜でもない時間。彼が誰だかわからなくなる時間。人ならざるものに出会うかもしれない時間を指す。
こういった概念を古い言葉の引用で説明することによって、特に軽いテイストになりがちな恋愛映画に程よい荘厳感を与える。

瀧のパートでは、三葉が入れ替わった状態からスタートする。
まさに願いが叶うのだ。都内に住むイケメン男子に。
しかし急に男になってしまった瀧(三葉)は異なる環境やジェンダーギャップに戸惑う。
瀧の親父に朝飯当番をサボったことを注意されたり、男としての初小便など、一挙手一投足で女っぽいリアクションをする瀧(三葉)が可愛い。劇場でもかなり笑い声が聞こえてきた。

瀧(三葉)は外に出ると、自分が望んでいた都会の景色が広がっている。
新海の手にかかると都内の冷たいコンクリートジャングルですら、暖かみのある美しさで描かれるから凄い。

そして、瀧(三葉)は学校に向かう。
迷ってやっとこさ昼休みに到着したわけで、弁当なんか用意する余裕はない。
そんな瀧(三葉)を見た彼の友達二人組は、笑顔で自分たちのご飯を分けてくれるシーンはほほえましい。

私は気づいてしまったんだが、人って食い物を分けてくれる人に無条件で好感を持つということ。そんな友達を持つ瀧もだが。
アラジンも盗んだパンを腹を空かしている子供にあげることで、我々観客は良い印象を持った。
厳密には分けてくれるわけじゃないが 、誰かと飯を食いに行ったときシェアを提案してくれる人もそう。人としての温かさを感じられる、あるいは自分に対し心を許してくれている印象が強い。
食べ方でキャラクターを描くフード理論なんてものもあるが、食べ物は物語において重要なアイテムであると改めて気づかされた。
フード理論は大きくわけて3つ。
①善人を描きたい場合は、おいしそうに食べさせる
②正体不明者を描きたい場合は、フードを食べさせない
③悪人を描きたい場合は、フードを粗末に扱わせる

このあと瀧(三葉)は二人にカフェに誘われるのだが、まるで真夏の太陽のように目を輝せて喜ぶ。
普通に三葉姿の三葉も可愛いと思うのだが、瀧の姿で喜ぶのが新鮮で可愛い。
私は男だがゲイではない。

カフェにいる犬2匹が三葉を見て、ちぎれんばかりに尻尾を振ってるのもいい。
三葉のピュアな人間性が自然と観客に刷り込まれる。
そんなツインワンコを、真夏の太陽のように頬を真っ赤にして笑顔で眺める瀧(三葉)もまた可愛い。
私はゲイではない。

翌日、瀧は目が覚めると体が戻っている。
三葉も今日は通常だ。
三葉は普段通り学校に行くと、クラスメイトたちから好奇の目で見られる。
実は瀧も三葉に入れ替わっていたのだ。さらに彼は弱いのに好戦的な性格のため、クラスで三葉のイヤな噂話をしている連中に対して机を倒したり脅したりと、今までの純朴な三葉とは考えられない態度を取っていた。

ここは注目ポイントだ。過去作との大きな違いの1つである。
今までの新海映画の主人公の男は、村上春樹的男子が多かった。
村上春樹的男子とは、どこか日常にうんざりしており、達観していてクール。だけどモテる。能動性は薄め。こういった特徴を持つ。実際に新海は村上春樹を愛読している。

今回の主人公・瀧は、明るくてTHE 健康優良児。
この辺りは新海の感性にないので、プロデューサー・川村元気の功績といえる。
川村元気は脚本にもかなり口を出したようで、新海はイラっとしたときが何度かあったそう。インタビューで語っている。

さらに瀧は、三葉に入れ替わるたびに自分のおっぱいを揉む。
コメディ描写+性を匂わせるといったところも、過去作にはない要素だ。この辺りが、かつて作家性が強くアート作寄りだった新海映画のエンタメ化を目指すにあたって補強した箇所である。
このおっぱいシーンは全編を通して3回くらい流れるのだが、劇場では毎回笑い声が聞こえていた。

話を映画の内容に戻すが、二人は周囲の反応も含め、夢の中で入れ替わっていることに気づき、RADWIMPSの「君の名は。」が流れる。
テンポも早く、コミカルでキャラクターの長所と短所(隙)をしっかり描く。完璧すぎる起だ。

この映画の素晴らしいと思った1つに、結に差し掛かるときにもコメディ要素を取り入れているということ。
キャラがコミカルなのは序盤だけで、中盤以降はずっとシリアスな映画はよくある。
それでもいいんだが、寂しさは残る。ずっとシリアスな空気感は疲れるし、何より観客はもっとキャラクターのいろんな面を観たいのだ。
その点、「君の名は。」は終盤の最高にシリアスなときに、ちょっとした緩和を入れて笑わせに来てくれたのは嬉しかった。もちろん劇場でも笑いは起きていた。

他に細かい気づきを挙げるなら、奥寺先輩が瀧くんを好きになっていたということ。
タバコのシーンがその証拠。
最後の入れ替わりで、瀧(三葉)が飲むお茶には茶柱が立っている。本数に注目。
三葉の母も祖母も入れ替わりを体験していたという事実もそう。直後、三葉(瀧)の心の声による仮説にも注目したい。

三回も観ると細部まで気付けるものだ。
良く言われている中盤の大オチに対して、確かに二人が気づかないのはおかしいが、映像はキレイでテンポはいいし、力業ではあるが勢いで上手く誤魔化しているので、私はあまり気にはならなかった。

設定の甘さは相変わらずといったところ。そもそも新海はキャラや世界観を素晴らしく描けてさえいれば、多少の設定の穴があっても観客は都合良く解釈してくれるもの、とでも思っているのだろう。

あり得ないご都合主義の連続に関しては、ある種のロマンチズムだろう。
自意識が強い人にありがちで私も昔はそうだったんだが、「頑張ったから後は神様何とかしてください」的なこと。新海は神のご褒美的なことにロマンチズムを感じていると思われる。
瀧君も頑張り、三葉も頑張り、その頑張りを見た神様がご褒美にと、幽閉されたアイツを解放する、といった流れだ。

あなたはこの映画をすでに鑑賞済みだろうか。
あまりに突出したクオリティ。
三度目の視聴にしてなおもエンディングを迎えたあと余韻に浸ってしまう。
アニメ映画において人類の到達点の一つである。

2019年7月19日に公開される新海誠の最新作「天気の子」は、再び川村元気プロデューサーのもとで作られている。
以前に新海はインタビューで「このチームであと1~2本作りたい」と言ってたので、もしかしたらこの空気感の映画は天気の子で最後かもしれない。
私は楽しみにしているし、恐らく興行収入100億前後は行くとは思うが、川村元気との別離以降、新海がどんな作品を作るかの方に関心は移っている。

君の名は。の作品情報

■監督:新海誠
■出演者:神木隆之介 上白石萌音 長澤まさみ
■Wikipedia:君の名は。
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):97%
AUDIENCE SCORE(観客):94%

君の名は。を見れる配信サイト

U-NEXT:
Hulu:-
Amazonビデオ:
ビデオパス:
TSUTAYA TV:
Netflix:-
※2019年6月現在

君の名は。と関連性の高いおすすめ映画

君の名は。の裏ジャンルである【バディとの友情】に分類される映画。

『イニシエーション・ラブ』★★★☆☆3.5
舞台は1987年。体型が太めで自分に自信のない鈴木夕樹は、友人に誘われた合コンに参加する。そこで成岡繭子というキレイな女性と出会って恋に落ちる。後日、合コンメンバーで海に行き、その際に鈴木は繭子と連絡先を交換する。鈴木は繭子にふさわしい男になるため、自分磨きをすることに。

原作を読んでからの鑑賞。
映像化不可能としか言いようのない内容だが、原作者が映像化に当たって面白いアイディアを思いつき、それを元に今作が誕生した。
繰り返し観る類のものではないが、一度は観るべき怪作。
どうせ観るなら、原作→映画、がおすすめ。2度楽しめるため。
原作はかなり読みやすく、本が苦手でも1日で読めるレベル。その理由はトリックを際立たせるため。

U-NEXT:
Hulu:
Amazonビデオ:
ビデオパス:
TSUTAYA TV:
Netflix:
※2019年6月現在

-⑥バディとの友情

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名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。