映画の海

約1100本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます。(直近で観たものに限る。たまにアニメ・ドラマ・小説も)面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

⑨組織のなかで

映画『新聞記者』ネタバレなしの感想。日本の暗部を暴く

投稿日:7月 4, 2019 更新日:

■評価:★★★★☆4

「現在進行形の政治事件を扱う稀有な社会派映画」

【映画】新聞記者のネタバレなしのレビュー、批評、評価

日本人の父と韓国人の母を持つ女性記者・吉岡エリカはアメリカで育ったが、日本の新聞社で働くことを選択した。ジャーナリストだった父は誤報で自ら命を絶っており、今でも原因は別にあると信じて疑わなかった。そんな彼女の働く東都新聞社あてに、大学新設計画に関する極秘の資料が匿名で送られてくる。彼女が調査を進めると、内閣府の神崎という男に辿り着くが、直後、彼は命を絶ってしまう。一方、内閣情報調査室で働く官僚・杉原は、現政権に不都合なニュースをSNSなどで操作する任務ばかりにうんざりしていた。ある日、尊敬していた先輩・神崎の訃報でお通夜に向かうと、そこで吉岡エリカと出会う。

正直、私は政治にそこまで関心がない。
普段はエンタメばかり観ているのだが、この映画は上映前からSNS等で話題になっていたので、気にはなっていた。シナリオを勉強する身として食わず嫌いをするのも良くないと思い、劇場に出向くことにした。

これを観た日は、元Sexy Zoneの香取慎吾主演「凪待ち」との二本立てだったのだが、上映時間が長く感じた前者に対して、この映画はあっという間の二時間だった。
平日の日中という時間帯にほぼ満席だったのも驚きだ。それだけこの映画は、注目度が高い。

現政権の暗部を明るみにする目的を持つこの映画。日本人として生きるのであれば、すべての人が観るべき作品だ。
もちろん、主観で一方的に描いているだけなので、この映画に描かれているすべてが正しいとは限らない。何でもかんでも真に受けないことが大事だ。多視点から情報を得ることに意味がある。何が正しいかの判断は、そのあと自分で下したらいい。
この映画は、同名タイトルのノンフィクション本「新聞記者」が原案となっている。

この映画のメインの題材は「伊藤詩織のレイプ疑惑事件」「加計学園問題」をモチーフとしている。
前提知識として持っておくとこの映画を楽しみやすいので、まとめておく。

■詩織さん事件:2015年4月3日、詩織さんが元TBSワシントン支局長の山口敬之氏と都内で会食する。その日の深夜に薬などを盛られてホテルで準強姦の被害を受け、訴えを起こす。警察が動き、山口氏がアメリカからの帰国直後に成田空港で逮捕されるはずが、なぜか直前に逮捕状が取り下げられる。
山口氏は安倍首相と親密な関係にあったとされており、官邸は身近な自分たちにとって都合のいい人間を守る傾向にあると言われている。

■加計学園問題:「安倍首相が友人の利益のために、権力を行使したのでは?」と疑われている問題のこと。50年間、どこの大学も認められなかった獣医学部の新設が、安倍首相の友人である加計孝太郎氏が理事を勤める「加計学園」はなぜか認められた。その時、京都産業大学も獣医学部の新設を希望していたが、落選し、加計学園が選ばれる。
50年間認められなかった理由は、獣医師会が顧客を独占するため、新設に反対していたとのこと。

この映画で真っ先に違和感を覚えたのは、主演の一人が日本人ではなく、韓国人女優のシム・ウンギョンが務めているところだ。
なぜ外国人なのか。
恐らく、映画の内容がかなり攻め込んでいるため、女優が恐れて出られなかったといったことだろう。あるいは事務所NGだったか。
エグゼクティブプロデューサーを務めた河村光庸氏のインタビューでは、「キャスティングはそうでもなかったが、スタッフ集めが困難を極め、テレビ業界で干されることを恐れて断ってきた制作プロダクションが多かった」と語っている。
「そうでもなかった」といった表現なので、やはり多少はあったことが推測できる。松坂桃李の評価が相対的にぐっと高まる。

(後日調べたら、アサヒ芸能plusにて「当初は宮崎あおいや満島ひかりがオファーされていたが反政府のイメージが付いてしまうことを懸念して断った」と書かれた記事を見つける)

松坂桃李扮する杉原の職場と家庭の対比も良かった。
序盤、内閣情報調査室の官僚・杉原は首相と仲のいい記者がレイプで告発されてしまい、彼を守るためにSNSを通じて原告の女性が野党とつながりがあるというでっちあげの情報を流し、あくまで「ハニートラップだった」とウソの情報を流すように指示される。(伊藤詩織のレイプ疑惑事件がモチーフ)
何の罪もない民間人を貶めるようなクソみたいな仕事をやらされることに、杉原はうんざりする。
杉原の職場は照明も暗く、陰鬱とした雰囲気が漂っていて、観ているだけで気が滅入りそうになる。

家に帰ると、本田翼扮する妻が大きくなったお腹を撫でながら笑顔で杉原を迎える。
高層マンションからの眺めが非常にキレイなのも印象的だ。

この辺りはドローン・オブ・ウォーを連想させた。
ドローン・オブ・ウォーはとラスベガスの空調の聞いた基地から無人の爆撃機を操縦して、アフガニスタン上空からミサイルを撃ってターゲットを始末し、任務が終わると家族の元に帰る。といった日常を淡々と繰り返し、PTSDになる兵士を描いた話だ。

今作では杉原はPTSDにはならず、尊敬する命を絶ってしまった上司・神崎の仇をうつため、女性記者・吉岡エリカと組んで大学新設計画に関する調査を行う。(加計学園問題がモチーフ)
杉原からしたら、身内を売るようなものなので素晴らしい勇気だ。
私ならさっさと仕事を辞め、本田翼とラブラブな日々を送るだろう。胃をキリキリさせるのは体に悪いので。

この映画で伝えたいことは、劇中に流れる討論番組で言わせているので、耳をかっぽじって聞くといい。
聞き取りやすい音質、音量で流してくれている。

不満ってことでもないのだが最後、敵役の多田がとんでもない発言をするところ。やりすぎのようにも思える。
現政権を批判するこのような映画を普通にシネコンで流せているので、ちょっと矛盾を覚えてしまう。説得力もないし、やりすぎてて何か気持ち悪い。
この映画はあくまでフィクションのエンターテイメント作品なので、あのような大胆な発言をさせたのかもしれないが。内容は劇中で確認してもらいたい。

あと杉原の最後のあの表情もちょっと違和感を覚える。
堂々としろよ、と言いたくなる。

とはいえ、全編に渡って緊張感が漂っており、最高にスリリングな映画体験ができた。
この映画の権威の象徴で、敵役の多田を演じた田中哲司が怪演を見せてくれており、緊張感が最後まで持続しているのが素晴らしい。政治を題材としているが、スリラー映画として楽しめるところも良いポイントだ。悪役に魅力がある映画はやはり面白い。
これほどダイムリーな映画も珍しいので、あなたも関心が湧いたら1日でも早く劇場に足を運ぶといい。
劇場ではトイレが近いおじいちゃんおばあちゃんが多いので、目の前を行き来することは許してあげて欲しい。

対組織映画は、キャラクターの成長において勇気が必須となるので、観終わったあとにやたらモチベーションがあがる。
そういったところを期待して観るのもいいだろう。

この映画はインタビュー記事が充実していて非常に面白いので、関心があったら検索して観てみるといい。
特にエグゼクティブプロデューサーを務めた河村光庸氏のインタビュー記事は必見だ。
面白かったのは「桜を見る会」について。
官邸はSNSによるイメージ戦略が上手く、その時旬な芸能人や文化人を大量に招くことで、彼らが勝手にSNSでこの会について拡散してくれ、自分たちのイメージアップにつなげるというもの。納得である。

もともとこの「桜を見る会」には違和感を覚えており、その時は大して深掘りはしなかったが、確かにこの理由だと納得できる。
あくまで仮説立てには過ぎないのだが、頭のいい人間の行動には、すべて理由があるものだ。
常に世の中のすべてに目を見張り、その場の勢いで決めつけずに理由を探るべきである。

余談だが、観終わったあとに主演を演じたシム・ウンギョンが「サニー 永遠の仲間たち」の主演、イム・ナミだと知って驚いた。(日本版では広瀬すずの役)
サニーでは純朴な田舎少女だったので、真逆のキャラクターを演じている。立派に成長してくれて嬉しい限りだ。

新聞記者の作品情報

■監督:藤井道人
■出演者:シム・ウンギョン 松坂桃李 本田翼 岡山天音 田中哲司
■Wikipedia:新聞記者


出演者:
吉岡エリカ:シム・ウンギョン(サニー 永遠の仲間たち:イム・ナミ)
杉原拓海:松坂桃李(彼女がその名を知らない鳥たち、娼年、孤狼の血)
杉原奈津美:本田翼(アオハライド)
倉持大輔:岡山天音(ゆうべはお楽しみでしたね、翔んで埼玉)
多田智也:田中哲司(SPEC)

新聞記者を見れる配信サイト

U-NEXT:○(有料)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(有料)原案本
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:-
※2020年2月現在

新聞記者と関連性の高いおすすめ映画

新聞記者の裏ジャンルである【組織のなかで】に分類される映画。

『わたしはダニエル・ブレイク』★★★☆☆3.5
イギリス北東部の町で大工として働く59歳ダニエル・ブレイクは、心臓病となり、医者に仕事を止められてしまう。生活のため国の援助を得るために役所に出向く。しかし複雑な制度が立ちはだかり、一向に必要な援助を受けることができずにいた。

第69回カンヌ国際映画祭でパルム・ドール受賞作品。
監督自らがイギリスで取材を行い、作り上げた事実に基づいた社会派映画だ。
福祉がまともに機能していない現状を目の当たりにすると不安でしかない。こういったシリアスな題材をエンタメで表現するのは素晴らしい限り。

U-NEXT:
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:
ビデオパス:-
TSUTAYA TV:-
Netflix:
※2019年7月現在

-⑨組織のなかで

執筆者:

名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。