映画の海

約1100本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます。(直近で観たものに限る。たまにアニメ・ドラマ・小説も)面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

⑤人生の節目

映画『未来のミライ』ネタバレなしの感想。問題作となった理由を解説

投稿日:7月 7, 2019 更新日:

■評価:★★☆☆☆2.5

「子育てに悪戦苦闘した経験のある人向けのファミリー映画」

【映画】未来のミライのネタバレなしのレビュー、批評、評価

出産のため、しばらく家を空けていたおかあさんが帰ってくる。4歳のくんちゃんは、おかあさんに「仲良くしてね」と言われ、約束する。しかし両親は、未来と名付けられた妹の世話に時間を取らてしまう。今までのように構ってもらえなくなったくんちゃんは、次第に未来に嫉妬するようになる。ある日、自分を未来と名乗り、くんちゃんを「おにいちゃん」と呼ぶ高校生の女の子が現れる。

細田作品は世界観は魅力的なんだが、どうもキャラクターが弱く、ぬるい展開のものが多い。
今作はその最たるものだ。3食おかゆを食べさせられているような感覚である。味の濃い肉が恋しい。
とにかく睡魔との戦いで、こうなったのは私だけではないはず。理由ははっきりしているので後で説明する。

言いたい放題言ったが、好きな箇所もある。
家の構造が不思議で魅力的だ。ファンタジーな世界観を家でアプローチするのは斬新で面白い。
実際の建築家に依頼して設計されているらしく、割と現実的に生活できるような作りにはなっているとのこと。

未来など一部を除き、「おかあさん」「くんちゃん」などと、本名が設定されていない点もユニーク。
あくまで4歳の子供から観た世界観を徹底して作っており、斬新な試みで面白い。

ぬるい時間がずっと続くのは耐え難いものがあったが。
この映画が問題作となった一番の理由は、くんちゃんの動機が弱い(危機レベルが弱い)ことにある。

過去作で例えると「サマーウォーズ」では、ショッピングに納税・行政手続きなどの様々なサービスを利用できる仮想空間OZがAIに乗っ取られて世界レベルの危機となり、主人公らが世界を救うために立ち上がる、という強烈な動機がベースとなる物語だ。
「おおかみこどもの雨と雪」もそう。
主人公の女性が愛した人が狼男で、出来た子供は感情が高まるとオオカミに変身してしまうおおかみこどもだ。その為、必要以上の人との交流を避け、人里離れた田舎での生活を選ぶ。
この作品も主人公の危機レベルは高い。集団で生きる人間が孤立した生活を選ぶ=命に関わる危険行為である。

しかし今作のくんちゃんの危機は「妹が生まれて、親の愛情がすべて彼女に奪われてしまった」ような気がする、だ。
前2作に比べると、あまりにぬるすぎる。

兄弟のいる人は、こういう経験はあるかもしれない。
しかしほとんどの人は、当時の辛さは小さすぎて覚えていないだろう。
私の園児の頃の記憶は、自転車の前籠に入って保育園に送り迎えしてもらったり、当時流行ってたキョンシーのお札を友だちに盗まれてボロクソに泣いたことくらいだ。
とにかく、くんちゃんの葛藤は精神年齢の低さゆえのそれであり、共感するのは難しい。万人受けを狙って作ったようには思えない内容だ。

例えばくんちゃんが食い物を粗末にして、くんちゃんと未来を食い物の貴重な戦時中などの世界にぶっ込んだりして必死に生きる、みたいな設定だとドキドキハラハラしそうだ。
あくまで一例だが、こういった命の危機くらいに厳しいハードルを主人公に与えないと、大人の鑑賞には耐えられない。

くんちゃんの両親の教育にも違和感を覚える。
彼に対する接し方が適当すぎる。
両親が未来に付きっきりでくんちゃんがごねるても、「はいはい」って感じでスルーすることがほとんど。
それはいいが、その後、くんちゃんに甘えさせてあげる描写があってもいいものだ。それが自然だろう。
その手のフォローが全然ないのは気になる。

さらにくんちゃんは、嫉妬の限界を迎えたとき、未来をおもちゃで叩こうする。
そのとき、母親はただ「やめなさい」と叱るだけだ。
「自分の立場だったらどう思うの?痛いって思わない?イヤじゃない?」といった視点の教育はしないのだろうか?
子どもを持ってない私ですら間違っていると思えるしつけをしている。
そういったしつけをした上でごねさせたら、「家族の繋がり」といったこの映画の持つテーマが際立つ。
「未来ちゃん嫌い」と言って叩くが、家族という強固な繋がりがある以上、受け入れなければならないのだ。

ただし、この演出をすると、くんちゃんはワガママに映るだけなので観客に相当嫌われるだろうが。
まともなしつけをしても、くんちゃんは「未来ちゃん嫌い、おかあさんもお父さんも嫌い」こんなことばかり言う。観客は面倒臭い子どもだと思うだろう。
そもそも4歳の子どもを主人公にした物語は、難易度が高すぎる。
この設定で、上手くエンタメに仕上げられる作家はいるのだろうか。

他に気になる点は、くんちゃんの成長のためだけに未来のミライや過去の人間が登場する印象が強く、壮大なご都合主義としか思えない。
くんちゃんのわがまま発動→未来のミライが現れる→成長。
くんちゃんのわがまま発動→過去のとある男の人が現れる→成長。

これを繰り返しているだけだ。
1つのエピソードを1つの点とするなら、点と点が線となり、さらに線が広がりを見せてクライマックスで大きなドラマを描いてくれるから物語は面白い。
しかしこの映画はそれぞれの点が繋がっていない。ただの短編集だ。長編映画として成立していない。

なぜこんな不完全なシナリオになったのか気になったので調べると、答えはあっさり判明した。
今まで細田映画の脚本を手がけていた奥寺佐渡子が、今作は参加していないとのこと。

「時をかける少女」「サマーウォーズ」の脚本は彼女の単独クレジット。
「おおかみこどもの雨と雪」では細田守と共同。
「バケモノの子」では脚本協力という形で彼女がクレジットされている。
しかし今作は細田守単独の脚本となっている。

私は1年間学校に通ったり、別の先生に単発でプロット添削してもらった経験があるが、「キャラの動機が弱い(危機レベルが弱い)」「点と点が線にならない(エピソードに繋がりがない)」などの問題は、シナリオ初心者には非常にありがちなミスだ。
この映画の敗因は、ただのシナリオ勉強不足である。

この映画は不思議と海外で評価されている。
その理由を調べたのだが、単純に映像のクオリティが評価されているとのこと。他にも「逃れることできない家族の繋がり、不安を詩的に描いてる」などが理由らしい。

いろいろ書いたが、次回作に期待。

未来のミライの作品情報

■監督:細田守
■出演者:上白石萌歌 黒木華 星野源 麻生久美子
■Wikipedia:未来のミライ
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):91%
AUDIENCE SCORE(観客):81%

未来のミライを見れる配信サイト

U-NEXT:○(有料)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(有料)
ビデオパス:○(有料)
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:-
※2019年7月現在

未来のミライと関連性の高いおすすめ映画

未来のミライの裏ジャンルである【人生の節目】に分類される映画。

『花とアリス』★★★★☆4
高校受験を控えたアリスと花。ある日、花は駅のホームで見掛けた地味な高校生に一目惚れする。無事、彼が通う高校に入学した花。アリスも同じ高校に合格し、二人は高校生となる。花は彼の帰り道をこっそりつけていると、シャッターに頭をぶつけて倒れてしまうところを目撃する。花はその場のおもいつきで、意識が朦朧としている先輩に「私に告白したことは覚えていますか?」とウソをつき、強引にすり込ませることに成功する。

唯一無二の世界観を作る岩井俊二監督作品。
ラストのバレエのシーンはお見事としか言いようがない。
映像、シナリオ、音楽の三位一体が見事に決まった彼の代表作。
余談だが、人見知りの彼がしゃべくり007に出たとき、ホリケンにアホほど弄られてたのが忘れられない。

U-NEXT:○(見放題)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(有料)
ビデオパス:-
TSUTAYA TV:○(見放題)
Netflix:-
※2019年7月現在

-⑤人生の節目

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

映画『卒業白書』ネタバレなしの感想。トム・クルーズ少年がお姉さんにふりまわされる青春ドラマ

「マジメな男子高校生の両親が、旅行で家を空けた間に巻き起こす騒動を描く」

映画『トイ・ストーリー2』ネタバレなしの感想。自分の人生の使命とは

「おもちゃたちの冒険譚」

映画『タリーと私の秘密の時間』ネタバレなしの感想。育児に疲れた妻が、夜だけのベビーシッターを雇う

「子を持つ妻の苦悩」

映画『ザ・コール』ネタバレなしの感想。異なる時代に生きる2人の女性が1つの電話で繋がる

■評価:★★★☆☆3.5 「今を生きるということ」 【映画】ザ・コールのレビュー、批評、評価 私は未鑑賞だが、いずれ鑑賞したいと思っている名作の一つに『オーロラの彼方へ』主人公がアマチュア無線機をいじ …

映画『mid90s ミッドナインティーズ』ネタバレなしの感想。90年代中盤のロサンゼルスで生きる少年たちを描く

「あの頃の仲間の素晴らしさ」

名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。