映画の海

約1100本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます。(直近で観たものに限る。たまにアニメ・ドラマ・小説も)面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

④難題に直面した平凡な奴

映画『サマーウォーズ』ネタバレなしの感想。細田守作品群におけるキレイごと感が拭えない理由を解説

投稿日:7月 8, 2019 更新日:

■評価:★★★☆☆3.5

「家族や親族に思い入れがある人向けの、大家族(親族)が世界を救うセカイ系ヒューマンドラマ」

【映画】サマーウォーズのネタバレなしのレビュー、批評、評価

世界中で10億人以上が利用しているインターネット上の仮想世界OZ。パソコンや携帯からアクセスし、ショッピングやゲームなどの娯楽だけではなく、納税や行政手続きもできる便利なサービスだ。高校2年生の健二は憧れの先輩・夏希にバイトに誘われる。そのバイトの内容は、夏希の曽祖母である栄おばあちゃんの90歳の誕生日を祝う26人の親族が一堂に集まる場で、「夏希の婚約者のふり」だった。そんな中、OZが謎のAI・ラブマシーンに乗っ取られてしまい……。

セカイ系とファミリードラマ要素とミックスさせたユニークな作品。
こういった特異な設定・世界観は細田守の一番の武器と言える。
確かに魅力的なんだが、肝心の内容はキレイごと感が拭えない。それについては後半で解説する。

ストーリーは、高校の好きな先輩・夏希に頼まれ、親戚の集まりに飛び込んでフィアンセのふりをするという面白そうな展開から始まる。好きな女性に振り回されるという構図は魅力的だ。
男なら誰でも1度は小悪魔系女子に振り回された経験があるので共感してしまう。面倒くさいけど嬉しいかも、みたいな淡い感覚だ。
私はMではない。
だが振り回されるのは嫌いじゃない。
むしろ振り回してくれ。

親戚が一堂に会するシチュエーションも惹かれるものがある。
あなたも子どもの頃、年始等で親戚の集まりを経験したことはなかっただろうか?
当時はわずらわしかったように思えたこのようなイベントも、大人になると懐かしく思えるもの。
この映画に出てくる親戚は総勢26人。もはや誰が誰だか分からないレベルだ。でもこの人数の多さは良い。人数の多い分、温かみが増す。

この映画のメインの対立軸は、仮想世界OZを乗っ取ったAIだ。
この世界はあらゆるものがインターネットで繋がっているという設定で、OZに侵入したAIが次々とシステムを改竄していく。
現実世界ではカーナビが狂ったり、信号が狂ったり、水道管から水が噴出したり、インフラが制御できなくなる。

世界が少しずつ瓦解していくのはやはり面白い。
この映画が流行った理由は、瓦解の経緯が前衛的なところも挙げられるだろう。
今までのセカイ系では、モンスターや病原菌などが物理的に瓦解していくのが普通だったが、この映画はネット経由でインフラが崩れ、社会が機能しなくなる。

そんな世界規模の危機をたった1つの一族が救おうと試みる。
この「一族の強い絆」こそが今作のテーマである。対比として、便利だが希薄なつながりのデジタルな世界が敵となる。
その中心となるおばあちゃんのキャラ性を上手く使ってる。
老人は先入観として、知恵や経験を持つ。その培った人生経験の中で得た人の繋がりで敵に挑む。

そして中盤。
AIが暴走した理由が判明し、畳み掛けるように衝撃な展開を迎える。

OZのビジュアルイメージも非常にユニークで面白い。
近未来的で、それぞれのキャラが持つアバターのデザインもユニーク。
細田守は彼ならではの画の魅力もある。温かく、万人受けするいい映像だ。

このように魅力的なところの多い映画だが、残念なところもある。
第一に仮想世界での戦いは、現実のものと比べると迫力にかける。
OZの中で、いくらAIに主人公サイドのアバターがボコられても、実際的な痛みはないので迫力に欠ける。
ソードアートオンラインのように仮想世界でのリスクが現実とリンクしてきたら別だ。
(ソードアートオンライン:仮想世界で冒険する話。仮想世界で命を落としたら、現実も命を落としてしまう設定)

それに、インフラが瓦解していく様子も序盤の方にちょっと描かれるだけだ。
もっと危機的状況を分かりやすく示してくれた方がいい。

伊坂幸太郎「終末のフール」は三年後に小惑星が衝突し、人類が滅亡が決まっている世界でそれぞれの最後の過ごし方を描いた連作短編小説がある。
この小説の面白いのが、常に衝突予定の小惑星が上空で輝きを放っている。この描写が節々で挟まれるから秀逸だ。
常に姿を見せている小惑星が絶望を象徴しており、妙なリアリティを与えてくれる。

しかしサマーウォーズは仮想空間でわちゃわちゃやっているだけで、現実世界への影響の描写がほとんどなく、緊迫感がない。
終末のフールのように、危機的状況を常に意識させたり、あるいは誰かが傷ついたり、誰かが餓えに苦しんだり、もっと強烈な危機の提示がないと展開にぬるさを感じる。
中盤にそういった類のことが起こるとは言えるのだが、AIがOZを乗っ取った影響だけではないのが弱い。というか、このエピソードは緊迫感が与えることが目的でもない。

いっそのこと世界規模で停電したり、水が使えなくなったりしていい。何なら無人戦闘機がAIに操作されて世界各国を空爆する、なんて流れもできる。(細田アニメっぽくないが)
こういった強烈な危機に瀕したとき、世界中のそれぞれの一族が集まって危機を脱する、といった流れだとダイナミックで最高にワクワクする。

この記事の序盤で書いたキレイごと感が拭えない理由の一つがこれだ。とにかく展開がぬるい。
そしてもう一つ。
本来、人間は多面性を持つ生物だが、それがなく薄っらい。綺麗な人間ばかり出てくる。細田監督の作品群は何となく面白いが、印象に残るキャラが誰一人いない。

近い内に感想文をアップする予定だが、「聲の形」というアニメ映画がある。
耳が聞こえない女の子が転校してくるストーリーだが、主人公・石田将也はその子をいじめまくる。彼女が学校を転校するくらいまで執拗に。
彼女をいじめた代償として自分がいじめられるようになる。
彼はいじめっこでありながら、実は片親で母親思いの側面を持っており、悲しませてしまった母や自分が苦しめた西宮の贖罪をするといった展開となる。

さらこの映画に出てくる上野という女の子もとんでもない多面性持っていて、一生忘れられないキャラとなった。

「聲の形」はキャラクターの魅力が突き抜けた作品で、これと比べると細田作品の欠点が露呈する。
例えば「サマーウォーズ」の主人公・健二は、内気な高校生で特技は数学。それだけだ。
ヒロインの夏希なんて元気がいいくらいでそれ以外何もない。酷いキャラ造形である。

あなたはこの映画を観たことはあるだろうか。
それでも細田守作品が売れているのは、その欠点が霞むほどに突出したユニークな設定・世界観を作れるところ。
画もクセがなくて観やすい。
細田監督にはもっとキャラクターをしっかり描いて欲しい。魅力的なキャラが描けたらとんでもないことになりそうだ。

サマーウォーズの作品情報

■監督:細田守
■出演者:神木隆之介 桜庭ななみ
■Wikipedia:サマーウォーズ
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):77%
AUDIENCE SCORE(観客):88%

サマーウォーズを見れる配信サイト

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Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(有料)
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Netflix:-
※2019年7月現在

サマーウォーズと関連性の高いおすすめ映画

サマーウォーズの裏ジャンルである【難題に直面した平凡な奴】に分類される映画。

TVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』および、映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版シリーズ』★★★★☆4
世界の総人口が半分失われた未曾有の大災害「セカンドインパクト」から15年後。主人公・碇シンジは別居していた父・ゲンドウから呼び出されて第3新東京市にやってくる。国連直属の特務機関「NERV」の最高司令であるゲンドウは、シンジに汎用ヒト型決戦兵器・人造人間「エヴァンゲリオン」に搭乗して使徒と戦うことを命じる。(新世紀エヴァンゲリオンより)

セカイ系の元祖である今作。
ヱヴァンゲリヲン新劇場版はそのリブート作品。全四部作で、2019年7月8日現在では、
「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」
「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」
「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」
これら3作品が公開済み。
2020年に向けて最終章、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が公開を控えている。
もしあなたがまだエヴァ自体を未視聴なら、原作の「新世紀エヴァンゲリオン」からの視聴をおすすめする。あれだけの社会現象を起こした作品なので観ないのは勿体ないし、まだ最後のお祭りにも参加できる。

アクロバットなカメラアングルによるアクション、映像、キャラクター、シナリオ、音楽、あらゆる要素が突出しており、観客を置いてきぼりにすることを厭わない唯一無二の作風だ。そういう意味で監督の庵野秀明は、期待の遥か先を行く作品をいつも手がけてくれる。期待を超える、ではなく期待の先だ。観ればわかるが、想定外のものを提示するという意味。面白い面白くないの枠を超え、常に彼の作品は驚きを与えてくれる。そこが一番の魅力だ。それは彼が手がけた「シン・ゴジラ」にも現れている。私が劇場で初めて複数回鑑賞した映画だ。
恐らくエヴァが終わったら撮るであろう、庵野秀明の師匠に当たる宮崎駿の代表作「風の谷のナウシカ」の続編にも、私は今から期待している。

U-NEXT:○(有料)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(有料)
ビデオパス:○(有料)
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:○(見放題)
※2019年7月現在

-④難題に直面した平凡な奴

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名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。