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⑨組織のなかで

映画『ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』ネタバレなしの感想。史実だがエンタメ性は強烈、ナチス物の傑作

投稿日:8月 11, 2019 更新日:

■評価:★★★★☆4.5

「魂を削られるような緊張感が2時間持続する」

【映画】ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦のネタバレなしのレビュー、批評、評価

私はナチス物に疎く、そもそも歴史にまったく興味がない。小説家志望なのにダメなんだろうけど、過去のものはどうも遺物に思えてしまい、知る気になれないのだ。
それでも積極的に取り入れていこうとはしており、その一環として本作を鑑賞した。結果的にとんでもない傑作だった。
ナチスマニアになってしまいそう。
敵地に降り立ち、標的を狙う。ただそれだけの話なんだが、映画で久しぶりに涙を流してしまった。

1941年12月、チェコスロバキア亡命政府より、スロバキア人のヨゼフ・ガブチークとチェコ人のヤン・クビシュの二人の軍人がナチス占領下の祖国にパラシュートで降下した。祖国を統治している「金髪の野獣」「プラハの屠殺者」と呼ばれるナチス親衛隊の幹部ラインハルト・ハイドリヒを暗殺する『エンスラポイド作戦』を遂行するために。

ナチスの知識がなくても楽しめる一作で、エンスラポイド作戦を映像化したのが本作だ。
過去にもエンスラポイド作戦を題材とした「暁の7人」という映画があり、実質リメイクである。
当時の時代背景を簡潔にまとめたい。

1941年、ヒトラーはヨーロッパのほぼ全土を支配しており、ドイツ軍はソビエト連邦の首都モスクワに肉薄していた。
ベーメン地方(チェコ共和国西部)はドイツ軍の戦車や軽機関銃などを多く生産する軍需産業地となっていた。
チェコスロバキア亡命政府は、自国民に希望を与えるため・連合国側であることを示すため、
ベーメンを統治していた実質ナチスNO.3でホロコーストを主導した極悪人、ラインハルト・ハイドリヒの暗殺を決める。
その作戦名こそ『ANTHROPOID/エンスラポイド』である。

敵だらけの土地に侵入するなんて、まるでHUNTER×HUNTERのキメラアント編を彷彿とさせるストーリーだ。
(キメラアント編:キメラアントと呼ばれる動物や昆虫、人間までに捕食する蟻が、NGLという国に流れ着き、その土地の生き物を根こそぎ食いつくしてしまう。キメラアントは異種交配をする特殊な生き物のため、さまざまな動物の能力を宿した凶悪のキメラアントが大量発生してしまう。世界レベルの危機が視野に入ってしまい、キメラアントの王を討伐するため、少数精鋭のハンターによる討伐チームを結成し、NGLに侵入する)
キメラアント編もスリリングな話ではあったが、本作の持つ【史実】という重みもあって、まるで魂が削がれるような別次元の緊張感を体感することとなった。

本作は物々しい字幕の直後、二人の軍人がパラシュートにて敵占領下の祖国に侵入するシーンから本編は始まる。
スピーディーな展開で好感が持てる。

メインキャラクターの二人・ヨゼフとヤンは対照的な性格だ。
それは協力者の女性・レンカを前にしてそれは顕著となる。
爽やかイケメン・ヤンはすぐに彼女に恋人の有無を訊ねるのに対し、いかにも実直そうな男・ヨゼフは常に仕事モード。女なんて眼中にない。
これは国への忠誠心やナチスへの憎しみの強さなどではなく、精神安定の手段の差異によるものだ。

余談だが、実際に死が迫っている実感があると、人間は性に執着するようになるとのこと。子孫を残す本能が強くなるためだ。
お笑い芸人の千原ジュニアは以前、バイク事故を起こして死にかけているのだが、当時自分を病院に搬送してくれているナースに急に襲いかかったそう。性的な意味でだ。
自分には自覚がなかったらしく、自分でも驚いたそう。にけつというトーク番組で語っていた興味深いエピソードだ。
ヤンの一見軽薄そうに見える行動も科学的に説明がつくのだ。

話を戻すが、序盤でナチの残虐性を示すために、見せしめのシーンを挿入してもらいたいと一瞬思ったのだが杞憂に済んだ。それがなくても一定の緊張感は産み出している。
二人は常に気を張った言動を見せている。
街では協力者と遭遇するとアイコンタクトを細かくとったりと警戒を怠らない。
更に協力者の女性・レンカに他に女の仲間を紹介させ、外を出る際は恋人のフリをしてナチスの視線をくぐる。

こういった細かい演出が状況の深刻さを描いている。実にお見事だ。
更に序盤では、『ナチにより、反ナチを密告したら金が貰える』ことも提示されており、誰を信用していいのかわからない状況も作られている。息が詰まるほどにスリリングな状況だ。

二人は指揮官的な男と会い、本格的な作戦会議が行われる。
ハイドリヒの行動パターンや、どのタイミングで犯行に及ぶかなどが議論され、最後に青酸カリが渡される。具体的な使い道は明かされないが、見当は付くだろう。
こうした説明を廃した演出が徹底されているが、監督の意向によるもの。
本作のショーン・エリス監督は「ブロークン」という作品のインタビューでも「セリフにより説明過多の映画にうんざりする」と語っている。非常に映画的な映画だ。

印象的なシーンはいくつがあるが、終盤でヨゼフが弾丸一発を持ってあるセリフを口にするのは、特に頭に残っている。
この言葉、というか一発の弾丸に安堵感を覚えるのだから狂ってる。それだけ狂った状況であることをこの一言で示しているのだ。

あなたはこの映画に関心が沸いただろうか。
ナチス物の導入としては最適なエンタメ作品だ。

とにかくヨゼフを演じたキリアン・マーフィがいい。
28日後やクリストファーノーラン監督作品など著名な映画には多数出ているみたいで、まったく印象には残っていなかった俳優だが、この映画で一発でファンになってしまった。
何だろう、この哀愁をにじませながらも印象的で力強い目は。彼の顔を思い出すだけで泣けてくる。

ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦の作品情報

■監督:ショーン・エリス
■出演者:キリアン・マーフィ ジェイミー・ドーナン アンナ・ガイスレロヴァー
■Wikipedia:ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):66%
AUDIENCE SCORE(観客):70%

ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦を見れる配信サイト

U-NEXT:○(見放題)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(字幕・有料)
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:○(見放題)
※2019年11月現在

ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦と関連性の高いおすすめ映画

ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦の裏ジャンルである【組織のなかで】に分類される映画。

『イングロリアス・バスターズ』★★★★☆4
1941年、第二次世界大戦中のドイツ占領下のフランスの田舎町。この地に赴任した「ユダヤ・ハンター」の異名を持つナチス親衛隊のランダ大佐は、行方不明となっているユダヤ人一家の手がかりを探して、酪農業を営むラパディットを尋問する。床下に一家が匿われることを突き止めたランダはとある行動を取ることに。

ナチ物を扱ったフィクションの群像劇。
映画ファンが敬愛して止まないクエンティン・タランティーノ監督作品。私が彼の作品群の中でも1~2を争うほどに好きなのが本作である。
スリラー演出がとにかくお見事で、本作の要となるクリストフ・ヴァルツ扮するランダ大佐がむちゃくちゃ魅力的。狡猾で、最低最悪の極悪人だ。
悪役が素晴らしいと、映画そのものが面白くなる典型である。

U-NEXT:-
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(吹替・有料)○(字幕・有料)
ビデオパス:○(有料)
TSUTAYA TV:○(見放題)
Netflix:○(見放題)
※2019年8月現在

-⑨組織のなかで

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名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。