映画の海

約1100本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます。(直近で観たものに限る。たまにアニメ・ドラマ・小説も)面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

④難題に直面した平凡な奴

映画『メランコリック』ネタバレなしの感想。第2のカメラを止めるな!との呼び声も高いインディー作品

投稿日:8月 14, 2019 更新日:

■評価:★★★★☆4

「設定、シナリオ、キャラクター、すべてが面白いインディー映画」

【映画】メランコリックのネタバレなしのレビュー、批評、評価

人間は楽な道に走りがちな怠けた生物だ。
ルールやら制約やらを工夫して作って、ケツを叩かないとなかなか頑張れない。
漫画家や小説家でも連載の締切があった方が書きやすい、なんて人も多い。

これは資金にも言えることだ。
潤沢な資金があるからといって良い作品が生まれるとは限らないし、得た資金でかつてヒットした作品のリメイクや続編を作って楽して儲けようとする映画制作会社も多い。

インディー映画は当然資金なんてない。
何の実績もないので資金調達が大変だからだ。
そうなってくるとシナリオを面白くするしか、作品、および自分たちが陽の目を浴びることはない。

しかし、制約は時にとんでもない革新や創造を産む。
本作は見事にその一例となった。

東大卒業後、定職につかずに無為な日々を消耗している和彦。ある日、たまたまた訪れた銭湯『松の湯』で高校時代の同級生・百合と出会う。彼女に提案され、バイト募集をしていた『松の湯』に応募して働き出すこととなる。しかしこの銭湯、夜は人を殺す場所として使っており、そのことを知ってしまった和彦は……。

そもそも設定がぶっとんでる。
日本人なら誰もが一度は足を運んだことがある銭湯が、実は夜に殺人の場所となっている設定。
しかも、銭湯はボイラーがあるので遺体を処理にもうってつけ。
この展開を聞いて、とある映画を思い出す人も多いのではないだろうか?
あなたはどうだろうか?
そう、あの映画だ。

その映画のネタバレになってしまうのでタイトルは伏せるが、私は本作の脚本はその映画から着想を得て作られたのではないかと踏んでいる。
もちろんモチーフとしているだけなのでパクりではないことは断っておきたい。

主人公・和彦は、社会人経験もない社会不適合者。一般常識がすっぽり抜けている。
当然、松の湯が絡んでいる裏社会の暗黙のルールもわからない。
東大出身なのに人間国宝級のバカである。
こういった主人公の無知さや、芋っぽい見た目からほとばしる童貞感、これらに起因して生まれた劣等感を上手く笑いにしており、ほぼすべてのボケが劇場ではヒットしていた。素晴らしい打率である。

私が本作を観たアップリンク渋谷は58席という小さな劇場だが、5分に一度は笑い声が聞こえてきたのはシンプルに凄い。ただお笑い芸人のようなボケ、ツッコミをしているのではなく、日常のちょっとした抜け感で自然な笑いを取っている。思わず唸ってしまった。

和彦の観ている者をイライラさせるようなムカつく顔も本当にたまらない。(良い意味で)
こんなやつが近くにいたら、しこたまイジりたくなる。

和彦の運命の歯車を動かすヒロインの子のルックスも、また絶妙でいい。
特別美人ではないし、正面の顔は正直微妙だ。
しかし角度や格好によって可愛く見えるし、何よりめちゃくちゃその辺歩いてそう感がいい。中野と・高円寺辺りに住んでそう。
愛嬌もあり、和彦のプライドを高さをまるで子供をあやすようにイジる感じが男心をくすぐられる。
かなり魅力的なキャラ造形で、脚本も担った監督の技量の高さを感じさせる。

何でヒロインが童貞感丸出しの和彦に惚れるのかわからないし、同僚の殺し屋の松本が銃を持った立ち回りが無駄に手練れてていたりと、気になる箇所もないわけではない。
だが、シナリオの面白さやキャラの魅力がそういった細かいマイナス点を上書きしてしまう。いい映画の証拠である。
そもそも完璧なシナリオなんて存在しない。
魅力的なキャラやストーリーさえ見せてくれたら、些細な矛盾点なんて観客は都合良く解釈してくれるものだ。

今作は第2の「カメラを止めるな!」なんて言われているが、たぶんあそこまで社会現象になることはないだろう。
今作の方がつまらないってことではなく、「カメラを止めるな!」のシナリオがあまりに変化球だったので話題性が高かっただけだ。(もちろん内容も面白い)
本作はわりと正統派の作りだ。
だからこそ、私としては評価したい。
とにかく脚本を兼任している監督の技量の高さがほとばしっており、恐らく今後も彼は打率の高い映画を作り続けるだろう。

ただ、結末はあれで成立するのか?って印象。
私は良いのだが、物語の倫理観としてはどうなんだろうといった感じである。
ノワール物って位置付けなのでこういうものかもしれないが、受け入れられない観客も一定数現れそう。

あなたは今作に関心が沸いただろうか?
結果的に合わなかったとしても、観る価値は多いにある。
それだけ丁寧に作りこまれたいい映画だ。シンプルに面白い。

同じ日にライオン・キング(超実写版)を鑑賞したが、満足度はえらい違いだ。
ライオン・キング制作陣にこの映画をつきつけてやりたい。
恐らくこの映画の製作費は、ライオン・キング数十秒分くらいだろう。
初心を忘れてはいけない。そんなことをこの映画を観て感じさせてくれた。

メランコリックの作品情報

■監督:田中征爾
■出演者:皆川暢二 磯崎義知 吉田芽吹

メランコリックを見れる配信サイト

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Netflix:-
※2019年8月現在

メランコリックと関連性の高いおすすめ映画

メランコリックの裏ジャンルである【難題に直面した平凡な奴】に分類される映画。

『ヴィクトリア』 ★★★☆☆3.5
3か月前にベルリンに引っ越してきたスペイン人の若い女性・ヴィクトリア。ドイツ語も話せない彼女は友達もおらず寂しい日々を過ごしていた。ある日、彼女は一人でクラブで朝まで飲んで踊ったあと、外に出ると四人の男の集団と出会う。彼らに誘われ、最初は警戒しつつも徐々に打ち解けあう。しかし彼らはこのあと重要な用事があるらしく……。

138分ワンカットというむちゃくちゃな映画。
擬似ワンカットではなく、マジのワンカットである。
脚本は12ページでほとんどアドリブ、予定外のハプニングが起きてもそのまま撮影は続行されたとのこと。(映画脚本は1分1ページ)
正直、シナリオは大したことないのだが、ワンカットによる臨場感はなかなかの見応えだ。
こういった挑戦的な映画はそれだけで観る価値がある。
ただ、最近「ウトヤ島、7月22日」という72分ワンカットで撮影された映画がかなり評価が高く、こちらを先に観ていると感動が薄れる可能性あり。私はまだ未視聴だが、レンタル開始されたら観る予定だ。

U-NEXT:-
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(字幕・有料)
ビデオパス:-
TSUTAYA TV:-
Netflix:-
※2019年8月現在

-④難題に直面した平凡な奴

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名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。