映画の海

約1100本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます。(直近で観たものに限る。たまにアニメ・ドラマ・小説も)面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

⑤人生の節目

映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』ネタバレなしの感想。タランティーノが愛される理由を解説

投稿日:9月 4, 2019 更新日:

■評価:★★★☆☆3.5

「中年の危機に苦しむ落ち目の俳優の奮闘ドラマ」

【映画】ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのネタバレなしのレビュー、批評、評価

タランティーノ監督といったら、クセの強い作風の映画作家で知られている。
筋金入りの映画オタクで、彼は22歳の頃、ロサンゼルス南の小さなレンタル・ビデオ屋で働きだす。そこで膨大な数の映画を観て、それが今の映画作りの基盤となっている。
日本映画にも造詣が深く、北野武、塚本晋也、深作欣二などの作品を好む。
そんな彼の作品の特徴といったらバイオレンス、映画のオマージュ・パロディ、ストーリーと関連性のない会話劇、といったところだろう。

多くの映画好きが彼の作品を好んでいるが、私が観る限りだと万人受けはしない。
なのでライトな映画好きに、タランティーノ作品をすすめることはまずない。
本作はハリウッド2大スターである、ブラッド・ピット、レオナルド・ディカプリオの共演ということで、一般層も劇場に足を運んでいる。果たして彼らはクセが凄いタランティーノ映画を楽しめたのだろうか。

俳優としてピークを過ぎたリック・ダルトンは、今ではTVラマの悪役ばかりをこなす日々を過ごしている。いつか映画スターへ返り咲く日を夢見ており、そんな彼を支えるのが専属の付き人兼スタンドトマンのクリフ・ブースだ。二人は親友同士でもある。ある日、リックの隣の家に、『ローズマリーの赤ちゃん』の大ヒットで時代の寵児となった映画監督ロマン・ポランスキーと彼の妻である新進の女優シャロン・テートが引っ越してくる。落ちぶれる二人とは対照的に輝きを放つ二人。そんなとき、リックは再び俳優として陽の目を浴びるため、イタリアでマカロニ・ウエスタン映画の出演を決意するが……。

今回はクライマックスまで物語の起伏がない、という情報を事前に聞いていたのであまり期待しないで観に行った。
結論からいうと結構楽しめた。

タランティーノ全9作品でランク付けするなら、今作は真ん中くらい。
私はイングロリアル・バスターズ、レザボア・ドッグス、パルプ・フィクションの順で好んでいる。

このブログではタランティーノ映画を初めて扱うので色々書きたいことはあるんだが、この記事では主に「ストーリーと関連性のない会話劇」と「彼が愛される理由」についてを語っていきたい。
まずは前者。タランティーノ映画で何かと話題にされているこの演出。果たしてどのような意図を持って行っているのか。

今作では、その演出がインスタ映え間違いなしの爆盛りとなっている。
小説や脚本では、ストーリーに関係のないエピソードの挿入は基本的にはNGだ。
冗長に感じてしまうし、何よりどうせ上映時間を割いて描くのなら、ストーリーに絡めた会話やエピソードを挿入した方が観客の感情を揺さぶれるからだ。

ではなぜ、タランティーノはこのような演出をするのか。
私の主観だが、こんな感じだろう。大きく外してないとは思う。
①キャラクターの魅力を伝えるミニコントがしたい
②タランティーノ自身のキャラクター性の再確認、および明瞭化

タランティーノはどうやら話すことが好きな人らしい。
今回のプロモーションで来日した際、映画好きのラッパー宇多丸がラジオの企画で彼にインタビューしていたが、まあー良く喋るオッサンだ。
宇多丸が投げたお題に対して、「ここまで話すのか?」ってくらいに膨大な回答をしてくれている。
宇多丸の質問が良かったということもあるんだろうが。
YOUTUBEにアップされていたので、貼り付けておく。

良く芸人は、楽屋でミニコントをする。
で、このミニコントをしたがる芸人の特徴は、普段からも喋るのが好きな奴らだったりする。
フジモンとか、中川家礼二とか、友近など。
逆に普段おとなしい芸人、オードリー若林らは、むしろ彼らから距離を取る。
タランティーノは前者の彼らと似ていて、とにかく話すのが好きなのだ。
つまり、彼の映画に頻出する意味のない会話演出の正体はミニコントだ。
キャラクターの特徴を生かしたミニコントを展開させて、キャラの魅力を伝えようとする意図がある。

何なら、タランティーノ自身がキャラクターの特徴を確認するための重要な作業のようにも思える。
これをやっておいた方が自分の中でキャラクター性が確立されていく、といった感じだ。
確立さえすれば、キャラをストーリーに放り込んだとき、いくらでも勝手に動いてくれる。

ただ、喋るのが好きなヤツって長い時間ずっと喋ることも苦にならない。
そのせいで、彼の映画は上映時間がどんどん長くなっていくのだ。
今作は161分。
前作「ヘイトフル・エイト」はなんと167分といった長尺ぶり。
このような捉え方をすると、タランティーノはキャラクター映画を撮りたいようにも思える。
現に『イングロリアス・バスターズ』『ジャンゴ 繋がれざる者』でアカデミー賞助演男優賞を受賞している。

今作はこのミニコントが全体の7割くらいを占めている。
私の一番のお気に入りは落ちぶれた俳優リックと、天才子役の女の子とのミニコントだ。

撮影の休憩中にリックは本を読もうとして、手頃な場所を探していると、静かなところで子役の女の子が本を読んでいる。
その隣に空いた椅子があったので「そこ座っていいかい? 君の読書の邪魔はしない」とリックは丁寧に訊ねる。
女の子はうざそうな素振りを見せるが「どうかしら?」と言って、仕方なく受け入れる。

リックは本に夢中になっている彼女を気遣って静かに隣の席に座るのだが、彼の様子がおかしい。
彼はアル中で、この日も前日にウイスキーを8杯飲んで現場に来ているのだ。
このあとのリックの行動が笑える。

このシュールなシーンの詳細は省くので劇中で楽しんでもらいたい。
二人は本の会話をしたりするのだが、落ちぶれたリックに対して、あまりに意識高い系の彼女との対比が面白くて仕方ないのだ。
もちろん、このシーンはストーリーに何の絡みもない。正にミニコントだ。
ただ、テーマには関わっている。
今作のテーマは「60年代ハリウッドの光と闇」だ。

こういったミニコント、つまりストーリーと関わりのない会話劇の多いタランティーノ映画は、なぜこんなにも愛されるのか?
彼は役者の魅力を引き出す天才である。
まるで彼の作品に出ると、その役者のキャリア史上最大のポテンシャルが引き出されるのだ。

彼の作品に多く出ているサミュエル・L・ジャクソンなんて毎回異様なキャラ立ちを見せている。
ディカプリオもそう。性格の悪い金持ちをやらしたら最高に輝く。
こんなキャラクター像は彼のキャリアではありえなかったし、『ジャンゴ 繋がれざる者』での彼は一度観たら忘れられない。

日本で言うと、作風は全然ちがうが是枝監督もそうだ。
彼の映画に出る役者は妙に生き生きしている。

あとは映画監督ではないが、バラエティー番組のゴッドタンでお馴染みの佐久間プロデューサーにも通じるものを感じる。
ちなみにゴッドタンでは多くの芸人を発掘している。
おかずクラブ、三次郎、EXIT、あとはアーティストの眉村ちあきもそう。
彼のポリシーは「その芸人の輝く側面に焦点を当てたい。それはすでに世間に認知されているものではなく」のようなことを語っている。
例えばある芸人は売れたくて七転八倒しているが、逆にそれが面白いので、その面に焦点を当てる、といったことだ。
みんなが気付いてないその人の面白い側面を引き出そうとしてる。

タランティーノも人間の内面を見るのが得意(あるいは好き)で、上手くその役者が輝く面を引き出しているのだろう。
だからミニコントも結構楽しく見れてしまう。
魅力的なキャラクターさえ確立すると、ただ会話しているだけでも面白いものだ。
昔『THE3名様』なんていう漫画原作の実写ドラマDVDがあったが、ただ3人の青年がファミレスで話しているだけなのに普通に観れてしまう。
『セトウツミ』って映画も似たようなコンセプトだ。

ストーリーについても軽く言及したい。
終盤までストーリーなんてあってないようなものなので、クライマックスについての感想を話したい。

タランティーノは直近の過去作で映画の中で悪しき歴史の改変を行ってきた。
『イングロリアス・バスターズ』ではナチスとユダヤ人について、『ジャンゴ 繋がれざる者』では南北戦争直前の黒人と白人について。

で、今作はシャロン・テート事件だ。
この事件の詳細は省くが、恐らく多くのタランティーノ映画ファンの観客は「この事件をどのように改変するのか?」といった期待を持って観に行っただろう。

結果的には、私が予想した形とは全く異なっていた。
今作はあくまでリックとクリフの物語なので、あのようなクライマックスとなったのだ。
本作のテーマはあくまで「ハリウッド60年代の光と闇」であり、光の象徴としてポランスキー夫妻、闇の象徴としてリックやクリフ、チャールズ・マンソンー率いるヒッピー集団となる。

あとは直接観て確かめてもらいたい。いったいどのような結末を迎えるのか。
私はかなり好きだった。
というか、構造上嫌いな人は少ないだろう。

正直、微妙なミニコントもあったし、60年代のハリウッドにはそこまで関心は強くないので、楽しめた箇所とそうでない箇所がはっきり別れたが、全体的には良かった。ブラピ扮するクリフがワンワンにエサをあげるだけでも面白いっていう。あのシーンの演出は凄すぎ。
YOUTUBEに動画あったのでアップしておく。

ブラピはカッコよかったし、ワンワンの活躍も見れて嬉しい。
ただ、今作もそこそこの映画好きじゃないと、楽しむのは厳しい。

やはりミニコントが上映時間のほとんどを占めているので、これに理解がない人が観るのは難しいだろう。
今作は、タランティーノ映画にある程度教育されている人が楽しめる内容だ。
タランティーノ作品初心者は、キル・ビル、パルプ・フィクションあたりをお勧めしたい。
この辺りならだいぶ入りやすい。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドの作品情報

■監督:クエンティン・タランティーノ
■出演者:レオナルド・ディカプリオ ブラッド・ピット マーゴット・ロビー
■Wikipedia:ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):85%
AUDIENCE SCORE(観客):70%

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドを見れる配信サイト

U-NEXT:-
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:-
ビデオパス:-
TSUTAYA TV:-
Netflix:-
※2019年9月現在

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドと関連性の高いおすすめ映画

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドの裏ジャンルである【人生の節目】に分類される映画。

『スリー・ビルボード』★★★☆☆3.5
ミズーリ州エビングで、女子高生のアンジェラ・ヘイズが強姦されたあと、焼かれて命を奪われる残忍な事件が発生する。7ヶ月後、一向に捜査が進展しないことに苛立った彼女の母親ミルドレッド・ヘイズは、町外れの道路沿いの事件現場付近にある3枚の広告板(スリー・ビルボード)に5000ドル支払い、「娘はレイプされて焼かれた」「未だに犯人が捕まらない」「どうして、ウィロビー署長?」といったメッセージを載せた。みんなから愛される署長を名指しで批判する広告を出したミルドレッドは、町民から多くの批判を浴びるようになり……。

ワンハリは俳優業が上手くいかず中年の節目に苦しんでいるのに対して、スリー・ビルボードは最愛の娘の命を奪われてしまった別離の節目を描いている。
この映画はとにかくキャラクターが魅力的だ。
そして、この映画に出てくる多くのキャラがそれぞれ、何かしらの人生の節目を迎えている。
ミステリー形式で進んで行くが犯人探しが目的の映画ではないので、そこを期待しない方がいい。
あくまでヒューマンドラマである。

U-NEXT:○(有料)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(吹替・有料)○(字幕・有料)
ビデオパス:○(有料)
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:-
※2019年9月現在

-⑤人生の節目

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。