映画の海

約1100本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます。(直近で観たものに限る。たまにアニメ・ドラマ・小説も)面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

⑩スーパーヒーロー

映画『プライベート・ウォー』ネタバレなしの感想。実在した隻眼の女性戦場記者メリー・コルヴィンの半生を描く

投稿日:9月 18, 2019 更新日:

■評価:★★★☆☆3

「恐怖と戦いながらも、大衆の関心を向けるために戦場に赴き続けた女性記者の話」

【映画】プライベート・ウォーのネタバレなしのレビュー、批評、評価

人生と賭してまでやりたいことは誰にでも一つはあるだろう。
当然私にもあるんだが、メリー・コルヴィンはそれが奇しくも命に関わることであった。
記者として、戦場の最前線で命がけの取材を行っていた彼女は2012年、シリアで取材中に爆撃に巻き込まれて命を落としている。本作は2001年から、彼女が命を落とすまでを描いた伝記映画だ。

英国サンデー・タイムズ紙の特派員のアメリカ人ジャーナリスト・メリー・コルヴィン。2001年、彼女はジャーナリスト入国禁止を無視してスリランカのバンニ地域に乗り込み、シンハラ軍とタミル・イーラム“解放のトラ”との銃撃戦に巻き込まれて左目を失明する。2003年、イラク。バグダッドで出会ったフリーのカメラマン・ポール・コンロイを雇い、12年前にサダム・フセイン政権によって命を奪われたクウェート人の遺体を見つけるため、地元民の協力を得てブルトーザーで塹壕を掘りおこす。そこで大量の遺体を見つけ、彼女はスクープを手にするも、ただならぬ喪失感に襲われてPTSDに掛かってしまう。それでも彼女は現場に復帰したい思いに駆られていく。

彼女がタバコを吸うシーンは印象的だ。
というかタバコをくわえていないシーンの方が短いくらいである。
タバコは百害あって一理無しなんて言われているが、一応鎮静作用はあるので、心を落ち着かせたい時に吸いたくなるもの。
ドラマなどでも、身内などが事故や病気などで手術している最中に震える手でタバコを吸うシーンは、パニック状態を示唆した演出である。

黒い眼帯をつけた気丈そうな女性に見えるコルヴィンだが、戦場で大量の遺体を目の当たりにして涙したり、国に帰ったら恋人との性行為に明け暮れる。

つまり、彼女は普通の人間だ。
われわれと同じ感性を持っているため、戦場は怖くて仕方ないし、タバコや酒、性行為を繰り返すことで精神を安定させないと戦場記者は務まらないのだ。
だが、戦場の惨状は彼女の精神をいとも簡単に破壊し、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を植え付ける。

それでも彼女は戦場に出向きたい思いに駆り立てられる。
観客は「なぜそこまでして取材することに固執するのか」疑問が湧く。

彼女は親になることが出来なかった。
かつては結婚を意識したこともあったのだが、二度の流産を経験しており、断念している。
これ以上は劇中では語られなかったのだが、恐らく彼女は子供を産んでいたら戦場記者を辞め、子育てに熱中していたように思える。
もともとエネルギッシュであった彼女は親になれなかった代替行動として信念・使命感を世界平和に傾け、戦場に憑りつかれてしまったのではないだろうか。
物悲しい表情で語る彼女から、そんなことが伝わってきた。

他に記憶に残ったのは彼女は戦地の市民たちから、熱心に話を引き出そうとしていたこと。
彼らの話を物語として記事にすることで、読者の関心を向けようとしていたのだ。
この辺りからは彼女のプロ根性が感じられる。

なぜなら、彼らの物語はすべてが悲劇だ。それも生半可なものではないことは言うまでもない。
感情移入してしまい、自分自身の精神を蝕むこととなる。
劇中でも、パソコンで記事を書きながら暴れ出すようなシーンが何度か見られた。

こういった興味深いシーンも多いのだが、今作は満足度はそう高いものではなかった。
メリー・コルヴィンという超一級な題材に対しては、ちょっと物足りない。

ジェイミー・ドーナン扮するポールをもう少し深掘ってほしかった。
コルヴィンの相棒でありながら、ほとんどバックボーンは描かれないのはちょっと物足りない。
主要キャラである彼の印象の薄さに違和感を覚えた観客も多いはず。

個人的にジェイミー・ドーナンという役者は思い入れがあり、とくに『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』でキリアン・マーフィと並び、とんでもない存在感を湛えた演技を見せており、焦点を当てて欲しかった思いもある。

それと、先月劇場鑑賞した『存在のない子供たち』に比べたら臨場感が弱い。
この映画はシリア難民で溢れ、貧困化が進む中東の国・レバノンのスラム街を生きる少年を主人公とした話だ。

『存在のない子供たち』の主人公は難民当事者であるに対して、コルヴィンは一記者だ。
普段は安全地帯にいて、可能なときに前線に出向いて戦争被害に遭っている市民に取材する形なので、この映画はあくまで戦場の悲惨さというより、コルヴィンの信念や生きざまをテーマとした映画といった印象が強い。
なので戦場の臨場感を期待して観ようとすると肩透かしを食らう可能性がある。

あと物語性が弱く、戦場と居住しているロンドンを行き来を繰り返すだけて若干淡白に思えた。正直、後半ちょっと睡魔が襲った。
脚本をもう少し推敲してほしかったところ。
観終わったあと、すすり泣く声も聞こえてきたのだが『存在のない子供たち』との比にならないほどにごくわずか。

本作は「カルテル・ランド」「ラッカは静かに虐殺されている」などのドキュメンタリーを撮っているマシュー・ハイネマン監督の初劇映画である。
物語に起伏を与える作りに慣れていなかったのかもしれない。
あるいはWikipediaに書いてあったんだが『戦場記者に求められる自己犠牲を称えないように、あえて抑えている』といった評が書かれており、もしかしたら監督も意識的にそのような作りにした節がある。

ただ、そうなると映画としては物足りなくなってしまうので、良い選択とは思えない。
物語だと割り切って、こちらの感情を本気で揺さぶりに来てほしかった。
そういう作りの方が観客の心のいつまでも残り続ける。メリー・コルヴィンが戦地の市民たちの物語を記事にして、読んだ人の関心を集めようとしていたように。

とはいえ、彼女の生きざまは十分に伝わる内容にはなっている。
普通の人間である彼女が戦場を駆け抜ける姿は、観る者の心を突き動かすパワーがあり、観る価値は大いにある。

プライベート・ウォーの作品情報

■監督:マシュー・ハイネマン
■出演者:ロザムンド・パイク ジェイミー・ドーナン スタンリー・トゥッチ
■Wikipedia:プライベート・ウォー
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):89%
AUDIENCE SCORE(観客):64%

プライベート・ウォーを見れる配信サイト

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※2019年9月現在

プライベート・ウォーと関連性の高いおすすめ映画

プライベート・ウォーの裏ジャンルである【スーパーヒーロー】に分類される映画。

『パッション』★★★☆☆3.5
弟子や民衆から尊敬を集めるイエス・キリストを疎ましく思ったユダヤ教の権力者、主にパリサイ派は、イエスに対して罪をねつ造して捕縛する。イエスからの贖罪ではなく、物理的なローマからの解放を望むユダヤ人は、ローマへの武力抵抗を行う組織熱心党ゼロテの罪人バラバを釈放し、イエスを処刑するように総督ピラトに訴える。それによってイエスはムチ打ちや石打ちの拷問を受けることになり……。

当然、聖書なんて一度も読んだことのない私だが、妙に印象に残る映画。
キリスト教徒によると新約聖書に書かれた四つの福音書を忠実に再現しているとのこと。
劇場公開された当時は連日、この映画のニュースが流れていた。
イエス・キリストがひどい拷問を生々しく描いた映画で、あまりの凄惨の映像の連続に、鑑賞したキリスト教信者が何人もショック死したからだ。

見所は群集心理によって、ひとりの人間が標的にされるところ。
メディアやネットによって扇動される今を生きる現代人が観たらはっとさせられるテーマである。

余談だが、アメリカ映画でありながら全編アラム語とラテン語となっていて、メル・ギブソン監督の意向により、吹き替えは一切制作されていない。さらに字幕の表示箇所も監督の意向であらかじめ指定されているという徹底っぷりである。

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Amazonプライムビデオ:○(DVD)
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※2019年9月現在

-⑩スーパーヒーロー

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名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。