■評価:★★★☆☆3.5
「突如、10年後の自分が現れて彼女を作らされる青春アニメ」

【映画】HELLO WORLDのネタバレなしのレビュー、批評、評価
私はTVアニメは全く見ないんだが、アニメ映画は結構好きであり、それには明確な理由がある。
それは作家性が強い作品が多いということ。
岡田斗司夫が以前、YOUTUBEでシン・ウルトラマンの回にてこんなことを語っていた。
「実写映画のTVアニメの違いは実物かというよりか、すべてをコントロールしたがるのがアニメで、俳優や天気、環境などある程度偶然に任せるのが実写」と語っており、めちゃくちゃ納得してしまった。
この本質を踏まえて考えると、アニメ作家の方がこだわりの強い人が多いということ。
著名なアニメ作家の名前を思い浮かべてみると、確かに納得である。
そんな期待をもってHELLO WORLDも観に行ってみたら、なかなかの楽しい映画体験となった。
自信がなく、決断力のないことがコンプレックスとなっている堅書直実は2027年の京都に住む男子高生。ある日、三本足のカラスに本を奪われ、後を追った先で、10年後の2037年からやって来た自分自身を名乗る謎の男「先生」と出会う。彼によると直実が暮らすこの世界は現実ではなくアルタラと呼ばれるシミュレーターの中に仮想世界として再現されている過去の京都であり、今から3か月後、直実は同級生の一行瑠璃と恋人同士になるが、彼女は落雷によって命を落とすことを知らされる。「先生」はせめて仮想世界の中だけでも彼女を生かしたいということで、直実に「これから起こる出来事を記したノート」を使ってアドバイスをしながら、一行瑠璃との距離を縮めさせる。さらに、もしもの時のために仮想世界の事象を魔法のように操れる手袋「神の手(グッドデザイン)」を授ける。
とにかく作り手の熱量がすごくて圧倒される。
そういう印象を持つ映画はあんまり遭遇することがないので、観に行って本当に良かった。
人や映画に限らず、元気を与えてくれるものには価値があるのだ。
本作の脚本を担当している野崎まどの原作は二作読んでいたが何も面白くなかった。
「死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~」「小説家の作り方」の二作だが、結末すらも覚えてないくらいの印象の薄い内容で、この映画も当初はスルーするつもりではいた。
が、やたらレビューがいいので見に行ったら、とんでもない伏兵である。
序盤の彼女を作る展開は良かった。
少しずつ普通に男女の距離が縮まっていく流れって、物語では実はあんまり見掛けない。
大体がフィクションらしい、非現実的な出来事の過程で距離が縮まるものがほとんど。(君の名は。の入れ替わる中で距離が縮まったりなど)
この映画は地味な出来事の積み重ねで仲良くなる。
「これから起こる出来事を記したノート」を用いるのでチートではあるが、このパートは新鮮で良かった。
このように序盤はキャッチーな展開となるが、中盤に差し掛かると一気にサイエンス色の強い方向に舵を切る。
自慢じゃないが私はおつむが弱いので、完璧には理解できずに置いてきぼり感は否めなかった。
が、それでも怒涛のダイナミックな映像に圧倒されて、内容というより視覚的に楽しめた。
細かいところは無視して大枠を理解するように観ると話にはついていけるので、そういった見方をおすすめする。
混乱させられた箇所は観終わったあとに考えればいい。
あとこの映画、恐らくだがインセプションがモチーフになっていると思われる。
ターゲットの夢の中に入り、考えを植え付ける、といった内容のミッションを行う話で、ようは改ざん作業だ。
この映画も当初のミッションは仮想世界上での一行瑠璃の死の歴史を書き換えるといった内容。
更にインセプションを連想させる象徴的なシーンをオマージュしているので、実際に見て確認してもらいたい。なかなかインパクトのある映像となっている。
実際インセプションも中二病っぽい内容をバカっぽくなく見せた映画であり、この映画との共通点は非常に多い。ボーイミーツガール版インセプションといったところ。
大きなどんでん返しは三回訪れる。
『ラスト一分に世界がひっくり返る』といったキャッチコピーとなっているが、どう考えても最初のどんでん返しが一番ビックリさせられる。
ラスト一分のは正直あってもなくても成立する。
何ならインパクトのあるキャッチコピーのために後から付け加えられたようなもので、あんまり好感は持てなかった。
全体的に楽しい映画ではあったんだが、後半の展開はあまり盛り上がれなかった。
中盤以降のロジカル展開が完璧に理解できていないってこともあるんだが、意外とヒロインの一行瑠璃がキャラ立ちしていないところが気になる。
普段はクールな彼女なので、感情的になる瞬間も見せて欲しかった。
あるにはあるんだが、印象に残るものではない。
魅力的な多面性が描けていないので、テーマである「ボーイミーツガール」の映画としてはだいぶ非力なヒロインといった印象。
よって、最後もあまりカタルシスは感じられず。
とはいえ、熱量のある映画なので、観ていて元気を貰える。
作り込まれた脚本に、この世界観をダイナミックに映像化して見せてくれた監督及びアニメーターにはただただ感嘆させられた。
ここ最近観た中では、一番人に勧めたい映画である。
HELLO WORLDの作品情報
■監督:伊藤智彦
■出演者:北村匠海 松坂桃李 浜辺美波 福原遥
■公式サイト:こちら
■Wikipedia:HELLO WORLD
HELLO WORLDを見れる配信サイト
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※2019年9月現在