映画の海

約1100本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます。(直近で観たものに限る。たまにアニメ・ドラマ・小説も)面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

⑤人生の節目

映画『惡の華』ネタバレなしの感想。純朴そうな花にも裏がある。騙されるな

投稿日:10月 3, 2019 更新日:

■評価:★★★★☆4

「青春変態白書」

【映画】惡の華のネタバレなしのレビュー、批評、評価

男だったら誰もが共感できるであろう中学生時代のリビドーは、とんでもない爆発力を秘めている。
例えば、北海道に住んでいて「東京にすぐでもやらしてくれる女子がいる」なんて話を聞いたら、その瞬間にお年玉貯金を下ろしてノータイムで飛行機に乗り込む、なんてことは割と普通である。
男が精通を体験するのが小学校高学年から中学生くらいとなっており、もっともリビドーの強い時期が今作の舞台となっている。

オープンで明るい男子だったら、自分の性をおっぴろげにして割とあっさりと性体験も済ませてしまうだろう。
逆に内気な男子だったらどうだろうか。
自分の性欲をこそこそと充たし、決して人に自分の性事情は打ち明けない。
そんな過敏な内気男子の性欲を刺激して弄ぶ女子生徒が現れたらどうなってしまうのか。

地味で内気な男子中学生・春日高男の趣味は読書で、中でもボードレールの『悪の華』がお気に入り。ある日の放課後、彼が憧憬を抱いている清楚な見た目のクラスメイト・佐伯奈々子の体操着を見つける。衝動的にそれを掴み、その場を立ち去ってしまう。その一部始終を目撃していた寡黙なクラスの問題児・仲村佐和は彼をとっ捕まえてこう伝える。「秘密にしてあげるから私と契約しようよ」。その日から、悪夢のような主従関係が始まった。仲村に支配された春日は数々の変態的な要求に翻弄され……。

人物描写が凄まじい。
この一言に尽きる。
この映画は同名タイトルの漫画が原作だが、少年誌で連載されていたとは思えないほどに内面描写が緻密だ。一筋縄ではいかないキャラクターたちが己の尊厳をかけてぶつかり合っている。

少年マガジンでの連載当時はかなり話題となっていたが、その理由といったら設定のユニークさだ。
中学生男子が好きな子のブルマを盗んで、サイコな同級生女子がその弱味につけこんでひたすら変態行動をさせる。
思春期に訪れるリビドーをこんな形でもてあそぶなんて笑えるし、同時に甘美で刺激的だ。
この破天荒さは漫画的ではあるが、なかなかのクリエイティビティを刺激してくれる愉快な設定で素晴らしい。

2019年現在だと女子中学生の体操服はショートパンツやハーフパンツが普通みたいだが、昔はブルマだ。1992年以降一気に消滅していったという。
産経新聞に寄稿していた『ブルマーの社会史 女子体育へのまなざし』の著者であるブルマ専門家・掛水通子さんによると、ブルマは、ブルーマーさんの名前に由来しており、なんと女性解放の歴史と重なっている。

もともと19世紀欧米で、女性はコルセットで束縛し、広いスカートで動きにくい格好が主流だった。ゴスロリっぽい格好だ。
その身体を解放する目的でブルマは考案された。
日本でも動きやすい格好ということで体操着としてブルマが採用されたが、以前とは異なる女性開放の対象として消えていくことになる。
あなたもわかる通り、男性の性的なまなざしの対象になるということだが、こういった象徴的に扱われるものが減ってしまうのは寂しいものもある。(あくまでの芸術的観点で。本当だって)

映画に話を戻すが、純朴少年の春日くんを支配する仲村さんは普通に耐えられず、毎日を退廃的に過ごしている変態=マイノリティだ。
テストは空欄で提出し、そんな彼女を注意する先生をクソムシ呼ばわりするイカれたドS少女。

物語の舞台は山に囲まれた田舎町で、彼女は山の向こう側に行くことを強く望んでいる。
この「向こう側」は劇中に何度も飛び交う重要なワードだ。
向こう側=希望。
クソムシだらけのつまらない町から抜け出したい。

これは田舎町出身の人なら共感できるだろう。
私も田舎からの上京組なので彼女の願いは物凄く理解できる。
仲村さんは鬱屈した日々を過ごす中で、ブルマを盗んだ春日くんを目撃してしまうのだから、そりゃおもちゃにしたくなる。

そんな春日くんが一目惚れしているのがクラスの男子からの人気を集める清楚系、佐伯さん。
彼女のことを陰で「ミューズ(女神)」なんて呼ぶ自意識過剰な根暗男で、彼は子供のころから小難しい本『惡の華』を愛読している。

ボードレーヌの著作『惡の華』。
この物語で一番面白いアイテムで、春日くんの大切なモノ。
あなたがこれからこの映画を観るのであれば、劇中に登場する女性たちの惡の華の扱いに注目してもらいたい。
仲村さんや佐伯さんは惡の華を前してそれぞれ異なる行動を見せる。

「どちらの女性を選択したら春日くんは幸せになれるのか」。
観客はこんなことを考えながら観ることになるが、実はこの選択肢には罠がある。
それは物語中盤辺りで春日くんの口から明かされる。ネタバレになるので、直接観て確かめて欲しい。この多層構造には思わず唖然としてしまった。

そして、高校生編に現れる第三のヒロイン・常磐文(ときわあや)の惡の華の扱いにも注目だ。
またこの女の子が切ない。

常磐さんはスタイルが良くて美人。男子から人気のある女子生徒だ。
この子は属性的には佐伯さんの『精神』が成長した女の子となっている。
彼女の趣味は小説を書くことだ。この趣味にも注目してもらいたい。なぜ彼女は小説を書くのか。

とにかくこの映画、比喩発言の応酬によって物語が進むので、観客はキャラの思考を読み解きながら観ることになる。
直接描写は少ないので、ぜひとも彼らの真意を探りながら楽しんで観てもらいたい。
なぜこんな行動を取るのか、なぜこのような発言をするのか。

最後、海で春日くんがある女性に伝えるセリフは良かった。
これこそが原作者の言いたいことだ。

不満点というか希望なのだが、序盤での教室に忍び込んでとあることを行うシーン。
序盤の見せ場となる重要なシーンで、ここで春日くんは心の変化が訪れる。
その際に出来ることなら仲村さんは春日くんに対して求愛行動を取ってあげて欲しかった。
もちろん、キスなんていうつまらないことではなく、変態チックな彼女らしく、鼻の穴を舐めたり、何なら眼球を舐めたりしても面白い。

あと最後、二人は電車の中でするべきことがあったはず。
なぜなら、それをしなかったからあの食堂に行く選択を取ることになったのだから。

この映画、多くのキャラクターが魅力的な多面性を持っているので愛しくて仕方ない。
劇中では何度も目頭が熱くなってしまった。

もし、この物語の意味が良く分からなくても、潜在的に訴えかけてくるものはあるはず。
私は連載している当時に原作を読んでいたが最後は意味がわからなかった。それでも惹かれたものだ。
多くの人に薦めたい傑作青春映画である。

余談だが、中村さんは原作者、押見修造の奥さんがモデルとなっているそう。
リアルでもメールでクソムシって言われたことがあるらしく、つまり押見修造はただのドMである。
この記事を書いている最中に公式サイトの監督と押見修造の対談記事を読んでいたのだが、M話に花が咲いていてちょっと笑えた。私も参加したかった。リンクは下記にあり。

あとボードレーヌの『悪の華』は複数の訳書が存在するが、一番読みやすいのが阿部良雄訳の『ボードレール全詩集』のようなので、関心が沸いたらぜひ。
私もチャレンジしてみたいが、果たしてIQ5の私が読めるのだろうか。
原作漫画はこちら。

同じ日に観た『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』も確かに面白かったけど、青春映画のひな形を辿っていて、正直食傷気味なところがある。
が、本作は尖った角度から思春期の節目を描いていて最高だ。

惡の華の作品情報

■監督:井口昇
■出演者:伊藤健太郎 玉城ティナ
■公式サイト:こちら
■Wikipedia:惡の華

惡の華を見れる配信サイト

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※2019年10月現在

惡の華と関連性の高いおすすめ映画

惡の華の裏ジャンルである【人生の節目】に分類される映画。

『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』★★★★☆4
高校に入学した大島志乃は、人と上手く話せない吃音症を抱えていた。学校初日の自己紹介の際に自分の名前を言えず、それがきっかけでひとりぼっちの学生生活を過ごすこととなる。ある日、ひょんなことがきっかけで同じクラスの加代と仲良くなる。音楽が好きで、ギターは弾けるが音痴な彼女は、思いがけず聴いた志乃の歌声に魅了される。二人はバンドを組み、文化祭に向けて猛特訓が始まる。

惡の華と同様、押見修造著の同名漫画の実写映画。
彼自身も中学時代に吃音を患っていて、より彼のパーソナルに踏み込んだ内容となっている。

主な登場人物は3人だが、みんな死ぬほど不器用で、そんな中でもがき苦しむ姿を思い出すだけで切ない。
観終わったら骨が折れるほどに3人を抱きしめてやりたくなること必至。

U-NEXT:○(有料)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(有料)
ビデオパス:-
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:-
※2019年10月現在

-⑤人生の節目

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名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。