映画の海

約1100本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます。(直近で観たものに限る。たまにアニメ・ドラマ・小説も)面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

②金の羊毛

映画『蜜蜂と遠雷』ネタバレなしの感想。ピアノの音で感情表現をする前衛的演出が冴えわたる

投稿日:10月 7, 2019 更新日:

■評価:★★★★☆4.5

「才能とは何か」

【映画】蜜蜂と遠雷のネタバレなしのレビュー、批評、評価

私の知り合いで、ある分野で大きな成果をあげている人がいる。
その成果というのは東大を卒業した人ですら成しえられないこともあるレベルの高いものだ。
私から見たらその人は、割と裕福な暮らしをしているように思っていたのだが、話を聞いたら数百万の借金があるのだという。

何に使ったのか?
それは自己投資だ。
その分野で成功するために、彼は人並み以上の努力と同時に、なりふりかまわず自分に金を注ぎ込み続けたのだ。そして成果を得た。
心を打たれてしまった。
一流になれる人間は、自分が成長できるためなら覚悟を決めて何でもする。何よりも自分の成長を優先させる。

あなたにはそんなものがあるだろうか?
そして、本作では「才能とは何か」を問う。
果たして才能の正体とは何なのか。

3年に一度開催される若手ピアニストの登竜門、芳ヶ江国際ピアノコンクール。かつて天才少女と呼ばれ、将来を期待されながら7年前の母親の死をきっかけに表舞台から姿を消していた栄伝亜夜は再起をかけてコンクールに望む。彼女はそこで3人のコンテスタント(コンテストに挑む者)と出会う。妻子を持ち、サラリーマンとして働きながら『生活者の音楽』を掲げる高島明石。亜夜の幼馴染で名門ジュリアード音楽院に在学する優勝候補の一人マサル・カルロス・レヴィ・アナトール。『ピアノの神様』の推薦状を持つ謎の少年、風間塵。彼らは本選で熾烈な戦いを繰り広げる。

まさに音で見る映画だ。
普通の映画は行動やセリフで、ミュージカルは歌や踊りで感情表現をするが、この映画はピアノの音でそれを行う。
これについては長くなるので、後で深掘りたい。

第一印象としては、映像の雰囲気が日本っぽくないということ。
国際ピアノコンクールっていうこともあって外国人がたくさん登場していることもあるんだが、白い靄がかかったような映像はどこか幻想的で、岩井俊二っぽい印象を受ける。
監督の石川慶がポーランドのウッチ映画大学で演出を学んでおり、ヨーロッパ映画の影響が映像に反映されている。

さりげない小道具の使い方も印象的だった。
主人公・栄伝亜夜(えいでんあや)のライバルとなる謎の天才少年・風間塵(かざまじん)は服装はキレイなのに、靴がやけに汚い。
彼は音楽大学を出ておらず、自宅にピアノすらない少年だ。
つまり、このコンテストに参加する連中に比べると育ちがいい方ではない。

一方で亜夜は20歳の成人女性だが、子供の頃、母に作ってもらった可愛らしいペットボトルカバーを使っている。
いまだ7年前の母の死を乗り越えられておらず、彼女は序盤から深い影を落としている。
観客は「その精神状態でコンテストに耐えられるのか」といった心配を抱くことになる。

強烈に印象的だったのが、中盤に差し掛かる辺りで行われる風間塵と亜夜の連弾シーンだ。
月明かりを浴びながら倉庫の中で二人はそれを行うのが、やけに官能的に映る。
この映画はピアノの音で感情表現をしており、つまりこのシーンはピアノの音で男女の感情のやり取りを行っているのだ。

普通、人は深い感情の伴った会話のやり取りをする中で距離が縮まっていくもの。
そういった過程を経て、友達として深い関係になったり、中には恋人同士になったりする。
このシーンは会話の代わりにピアノの音でそれを行っており、彼らの連弾がやけに官能的で美しく見えるのはそのため。
別に彼らは恋愛感情なんてないだろう。
だがあんなに密着してピアノを弾かれたら(感情のやり取りをされたら)、観ているこっちはドキドキしてしまう。邦画のみならず、映画史に残る素晴らしいシーンだ。
YOUTUBEに動画があったので、良かったら見てみるといい。

この映画、このような前衛的な演出が取られているため、セリフが少ない代わりに極端にピアノの演奏シーンが多い。なんていう新しさだろう。個人的にはかなり好感が持ってしまい、終始興奮しながら観てしまった。
私は仕事終わりに映画を観に行くと大抵一度は疲れて意識が離れてしまうのだが、この映画は吸引力が凄まじくてずっと画面に釘付けになってしまった。

そして、こういった演出方法の宣言されたとき、観客の意識はもちろんここに向かう。

「亜夜のトラウマはどのように払拭されるのか」
これはぜひとも劇場で確認してもらいたい。
制作陣からしたらかなりの挑戦的なパートとなったことだろう。

時間軸をちょっと戻して、コンテストの第二次予選の見所はまさにそれで、課題曲の後半部分はコンテスタント自身が作曲して演奏しなければいけない。
是非とも彼らが演奏するピアノの音で、彼らの感情を感じでほしい。
割と予想外の音を出す人がいて面白かった。
「何分かったこと言ってんだアホのくせに」って思われそうだが、ご丁寧に割と分かりやすい形で示してくれているので楽しみにするといい。

あと、後半で鹿賀丈史扮する指揮者のオーラが凄すぎておったまげる。
あんなの怖すぎだろ。豆腐メンタルの私があの場で演奏萎縮してマインドがブレてめっちゃ叱られそう。
イヤミっぽい言い方もしてくるし、まるで家系ラーメン屋の頑固店主のような圧をかけてくるから怖いったらありゃしない。

向かえるラストはもう何も言うことはない。
最高の映画だ。私にとって最高のギフトを与えてくれた。
ジョーカーが世間を賑わす中で、こんな化け物みたいな邦画が紛れ込んでいるとは恐れ入った。

是非ともこの映画を世界に発信してもらいたいものだ。
邦画として世界に誇れる素晴らしい内容だし、こういう映画に遭遇するとお金を払って観て心から良かったって思う。
テレビとかYouTubeなどの無料で観れる映像も良いが、こういったラグジュアリーで感情を揺さぶるものが観れるから、我々映画好きはついつい金を払って劇場に足を運んでしまうもの。
こういう映画を探しているから映画好きをやっている。
映画好きで本当に良かった。

しかし松岡茉優はもちろんだが、風間塵を演じた彼は素晴らしい。
まるで彼が歩いたあとの地面から草木が延びてくるようなほとばしるエネルギーを感じた。
鈴鹿央士という役者だが、彼はある映画のエキストラとして出ていたとき、広瀬すずの目に留まって彼女にスカウトされたそう。なので芸名には鈴の文字が入っている。

前置きにも書いたが「才能とは何か」といった問いは、亜夜と風間塵が連弾を行う前のセリフで回答が出される。
その時の風間塵の回答は思わず考えさせられる。
果たしてあなたにもそんなものがあるだろうか。ぜひとも観終わったあとにじっくりと考えてもらいたい。

多くの人に勧めたい映画ではあるが、あまりに演出が前衛的なため、好みは別れる。
それでもピアノのシーンの迫力は素晴らしいので、誰が観ても損することのないだろう。

蜜蜂と遠雷の作品情報

■監督:石川慶
■出演者:松岡茉優 松坂桃李 森崎ウィン 鈴鹿央士
■公式サイト:こちら
■Wikipedia:蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷を見れる配信サイト

U-NEXT:-
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:-
ビデオパス:-
TSUTAYA TV:-
Netflix:-
※2019年10月現在

蜜蜂と遠雷と関連性の高いおすすめ映画

蜜蜂と遠雷の裏ジャンルである【金の羊毛】に分類される映画。

『プレステージ』★★★☆☆3.5
19世紀末のロンドン。若手マジシャンのボーデンとアンジャーは、師匠の元で互いに切磋琢磨しながら修行していた。ある日、助手をつとめていたジャンジャーの妻が水中脱出マジックの際の事故で命を落としてしまう。その原因は、ボーデンが結んだロープにあった。それ日から、2人は決裂し、互いの邪魔をしながら熾烈な戦いを繰り広げることになる。

何といってもマジックのシーンがかっこいい。これに尽きる。
意外とファンタジー要素が強く、19世紀末のロンドンの雰囲気と相まって妙に癖になる世界観だ。
『ダークナイト』『インセプション』『インターステラー』のクリストファー・ノーラン監督らしいややこしさもあるのだが、スカーレット・ヨハンソンもやけに色っぽいし、見所が非常に多い良質なエンタメとなっている。

U-NEXT:○(見放題)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(吹替・見放題)○(字幕・見放題)
ビデオパス:-
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix: ○(見放題)
※2019年10月現在

-②金の羊毛

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名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。