映画の海

約1100本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます。(直近で観たものに限る。たまにアニメ・ドラマ・小説も)面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

⑧バカの勝利

映画『宮本から君へ』ネタバレなしの感想。ぶっちぎりで2019年ベスト

投稿日:10月 10, 2019 更新日:

■評価:★★★★★5

「観たものすべてに元気を与えるドーピング映画」

【映画】宮本から君へのネタバレなしのレビュー、批評、評価

※ドラマ版のネタバレしてます

3年ぶりに劇場で泣いた。
私は劇場で泣くことはめったにないのだが、せき止めていたものが宮本の熱量にぶっ壊された。
そのくらい衝撃的で、猛烈に熱い映画だった。

3年前の2016年は、とにかく邦画の勢いが凄い年だった。
大泉洋主演の『アイ・アム・ア・ヒーロー』やエヴァの庵野秀明監督による実写映画『シン・ゴジラ』、アニメを含めると『君の名は。』『聲の形』『GANTZ:O』と、映画ファンにとっては御馳走のようなラインナップだ。
そんな傑作が蔓延るなかで強烈な印象を残したのが『ヒメアノ~ル』だ。

笑い、恐怖、悲哀、あらゆる感情を振り子のように揺さぶる内容で、観終わったあとは観客に深い影を落とす。こんな映画を見たら一生忘れられるわけがない。

翌年は正直、洋画邦画含めてハズレ年といった感じで、映画そのものから距離を置いてしまった。
そして迎えた2019年はまさに邦画の当たり年だ。
特に9月10月はすごい。
惡の華』『蜜蜂と遠雷』と傑作が続いてからの『宮本から君へ』。

しばらくはこれを超える映画は出てこないだろう。
見ている時間はずっと幸せだった。

文具メーカー「マルキタ」で営業として働く宮本浩。彼は笑顔が作れず、お世辞も言えない。金もなければ仕事もできないが、人一倍正義感は強くて情熱だけは誰にも負けない不器用な男だ。そんな宮本は会社の先輩・神保の仕事仲間である大人な女性・中野靖子と恋に落ちていた。ある日、宮本は営業先の真淵部長と大野部長に気に入られて彼らのラグビーチームに入り、マネージャーとして参加する靖子も連れて彼らの飲み会に行く。気合いを入れて日本酒の一升瓶を飲み干し、泥酔してしまった宮本を送るために真淵は息子の拓馬を呼びつける。そこに現れたのはラグビーで鍛え抜かれた巨漢の怪物だった。その後、2人に人生最大の試練が訪れ……。

正直、ドラマ版を観なくても問題ない。
ドラマ版に出てくるキャラクターがストーリーに大きく関わらないし、あくまで新キャラとのやり取りがメインとなっている。
とはいえ、宮本のキャラクターを知っておいた方がより楽しめるので、時間があればドラマ版から観るといい。1話24分しかないので、すぐに全部見られるだろう。

簡単にドラマ版についてネタバレありでレビューをしたい。
宮本は稚拙で不器用で、でも熱さだけは誰にも負けない。
とくに彼が後半の仕事編で見せる執着心には心動かされた。
あなたはバカにされる宮本ほど熱くなったことはあるだろうか、情熱を持って何かを取り込んだことがあるだろうか。

結果的にドラマ版の宮本は何も手に入らない。
情熱だけで人生、何とかできるわけがない。大人になってからは特にだ。

が、彼のほとばしるエネルギーに突き動かされ、最初は冷たい目で見ていたみんなが彼を手助けをするようになる。
人の感情を動かす人間は素晴らしい。
人を元気にさせる人間って素晴らしい。
物凄く価値があると思う。

最後、あの甲田美沙子とかいうクソ女を突き返すことで成長を見せてくれたのは良かった。
序盤は甲田美沙子に振り回されっぱなしだったが、後半の仕事編でのニチヨンとのコンペで自分に対して誠実に生きることの清々しさを学んだのだろう。
何の成果を得られずに終わるという不完全燃焼っぽい終わり方ではあるが、宮本は成果よりも大事な成長を得られたので、私は満足した。

ドラマの後半に出てくる中野靖子に扮した蒼井優もすごく良かった。
まるで『ペンギン・ハイウェイ』のお姉さんそのものだ。

ペンギン・ハイウェイは突如ペンギンが街に発生し、好奇心旺盛な少年がその謎を探り、お姉さんが彼の手助けをするといった内容。
少年をまるで聖母のような暖かいまなざしで支えるお姉さんのキャラクターが魅力的なアニメ映画で、声を蒼井優が担当している。

中野靖子を演じるのも彼女で、アホで無能で情熱しかない子供っぽい宮本を大人の目線で叱る。
暴力的なところはあるけれど、ペンギン・ハイウェイのお姉さんが帰ってきたような錯覚に陥って嬉しかった。

何より印象的だったのが松ケン扮する宮本の会社の先輩・神保だ。
ニヤケ顔で取引先のおっさんの母親の体まで心配する人情派。
そんな彼は「仕事に私情を持ち込みたくない」なんて冷徹なことを言いつつ、誰よりも真摯に仕事と向き合っている。
宮本はそんな彼が大好きで尊敬しているのだ。
松ケンのキャリア史上最高の演技の1つ。あんな魅力的な彼を観たことがない。

ここからは映画について。

オープニングから混乱させられる。
ドラマ版の後半にちょろっと出てきた中野靖子と宮本の距離感がやけに近くて仲睦ましい。どうやら二人は付き合っているようだ。
なぜか宮本の腕はギブスで巻かれてて、前歯もない。
観客の頭に?が満たされる。

宮本は靖子を連れて自分の実家に連れていき、両親の前で結婚を宣言する。しかも彼女の腹の中には子供がいる。
結婚するのに靖子は宮本のことを「宮本」と名字で呼ぶのがなんかいい。
バカでガキな宮本に対して、精神的に成熟している靖子っぽさがあってしっくりくる。

しばらく見ていると場面が切り替わり、歯が生えている宮本が靖子の独り暮らしの家に招かれる。
靖子は宮本のことを「宮本くん」と呼ぶ。
どうやらまだ付き合いたてのよう。
本編は、こんな感じで過去と現在を交互に映す形で進んでいく。

二人がご飯を食べているところに元カレが乱入してきたりと、穏やかではない展開がありつつも、まあ平和だ。
その後も幸せそうな日常が淡々と描かれる中、突如として二人に悲劇が起きる。
思った以上にショッキングなため、内容は控えたい。公式サイトのあらすじにも書かれていないので直接見て確かめてもらいたい。
なぜこのエピソードがドラマではなく映画で描かれたのかは納得である。
映画でなければ耐えられない内容だからだ。
果たして二人は、この強大な試練にどう立ち向かうのか。

ドラマ版にも言えることだが、映画版もとにかく魅力的なキャラクターであふれている。
特に敵役の男がたまらない。
宮本が参加することになったラグビーチームに所属している真淵部長の息子の拓馬だ。
体型が宮本の2~3倍くらいある巨漢男でまさに化け物。
見た目や喋り方から悪役然とした感じがたまらないし、何より良かったのが彼の内面が一切描かれないこと。
よって観客は彼に感情移入することなく、宮本と靖子をひたすら応援する形となる。

この映画は宮本がこの拓馬と戦うといった、私のようなアホでもわかる内容だ。
だが、相手は見るからに強い。
観客は「こんなやつにどうやって勝つんだ」と心配することになる。
さらにもうひとつのストーリーと平行しており、それが靖子との関係性だ。
彼女も事件の当事者であり、このことがきっかけで宮本と靖子の関係が壊れてしまう。
宮本と靖子は再び繋がることができるのか。

本作の見所といったら言うまでもない、宮本のバカさ加減だ。
肝心な時でも彼は言動は変わらないので、そういった時ほど彼の不器用さが浮き彫りとなって滑稽で笑える。
あまりに単細胞すぎてワンピースのルフィに見えてきたくらい。クソ弱いルフィだ。

テーマは「親」だ。
繊細なテーマだが、ここは宮本。
力ずくのみでこのテーマを描いちゃうから面白い。

倫理とか常識とかそんなの関係ない。
すべてを情熱のみでぶっ壊す。
それが最高に気持ちいい。

プロポーズのシーンとか死ぬほど笑える。
劇場では後ろにいた女性客がゲラゲラ笑っていて、何だかいい雰囲気に包まれていた。

最後の戦いなんかもほんとブサイクすぎて笑える。なんだよあれ、むちゃくちゃじゃねーか。
それなのにラストシーンはアホほど泣ける。
笑って泣けるってエンターテイメントからしたら、ただの最強じゃんかよ。

一個だけ不満があって、序盤で靖子の家に元カレ・裕二が乱入してくる際に、何やかんやあって飼っている金魚が水から飛び出てバタバタしているシーンがある。
ここは宮本と靖子には救って欲しかった。彼らはそういった温かい人間性を持っているので。
序盤はずっとこのシーンが引っかかってしまった。
ただ、このシーンでさらっと放つ裕二のひと言が、彼の多面性を描いているので注目してもらいたい。

とはいえ、元気をもらえるいい映画だ。
余計なことをごちゃごちゃ考えて悩みがちな人は見るべき。一発でもやもやした気持ちが晴れるだろう。
私の中のバイブルになってしまいそう。

意外と私が観た回は一人で来ている女性が何人もいたのが印象的。
連続ドラマの映画化だから、女性ファンも多いのだろう。
しかしこの内容が女性の支持を受けるっていうのも面白い話だ。なぜなら間違いなく現実に宮本がいたとしたら女性受けしない。
どんな現実的な問題も、情熱のみで解決するのだから。ある意味現実逃避である。
でもフィクションならではの、彼みたいにエネルギーを与えてくれる存在は厳しい現実に生きる我々には価値がある。

正直、同時期に上映しているジョーカーよりこっちのが世間の話題をかっさらってもらいたいもの。
歯抜けの仮面を付けた情熱人間が世間に蔓延したらやっかいだが。
でもジョーカーに比べると、この映画が我々に与えてくれる影響は健全だし、何より元気になる。
我々だって宮本のようになるべきときがある。

3年前のヒメアノ~ルの衝撃が凄くて、私はずっとこれに匹敵する映画を探していた。
ようやく見つかって嬉しい。
宮本越えを見せてくれる映画はまた3年くらい年を跨ぎそう。長い旅になりそうだ、宮本。

宮本から君への作品情報

■監督:真利子哲也
■出演者:池松壮亮 蒼井優 井浦新 一ノ瀬ワタル 佐藤二朗 ピエール瀧
■公式サイト:こちら
■Wikipedia:宮本から君へ

宮本から君へを見れる配信サイト

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Netflix:-
※2019年10月現在

宮本から君へと関連性の高いおすすめ映画

宮本から君への裏ジャンルである【バカの勝利】に分類される映画。

『パッドマン 5億人の女性を救った男』★★★★☆4
舞台は2001年の田舎の村。発明好きのラクシュミは、妻ガヤトリが生理処理の際、汚れた布を使っていることを知る。彼女の体を心配して薬局で生理用ナプキンを購入するも、高額だったため、彼女に返品するように言われる。村の医師に相談し、「不衛生な布を使用するせいで不妊や死に至ることもある」と聞いたラクシュミは、彼女を守るため、ナプキンを自作するようになる。しかしインドでは生理=ケガレといった認識があり、「これ以上自分の生理には関わらないでほしい」とガヤトリに警告される。それでもラクシュミは開発を強行するのだが……。

この映画も宮本同様、情熱だけは一人前な男の話だ。
ただこの映画は、情熱しか持たないラクシュミのブレーンとなってくれる協力者が現れてくるのが宮本とは違うところ。
それもそのはず、史実に基づいた映画なので、非常に現実的な内容となっている。
インド映画で一番好きな映画。とくに男は観るべき内容だ。

U-NEXT:-
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(DVD)
TSUTAYA TV:-
Netflix:○(見放題)
※2019年10月現在

-⑧バカの勝利

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名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。