映画の海

約1100本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます。(直近で観たものに限る。たまにアニメ・ドラマ・小説も)面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

⑨組織のなかで

映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』ネタバレなしの感想。伝説の小説家の半生を描く

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■評価:★★★★☆4

「反逆の先に待つもの」

【映画】ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーのネタバレなしのレビュー、批評、評価

J・D・サリンジャーといったら連想するのは小説『ライ麦畑をつかまえて』だ。
1950年に出版された当時は若者からの熱い支持を受け、一大ベストセラーとなった。
未だに世界では毎年25万部売れているというから驚きである。

この青春小説の金字塔は、日本では野崎孝訳『ライ麦畑をつかまえて』と村上春樹訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の2種類が刊行されており、後者は『天気の子』にも登場していて、物語を読み解くキーの一つにもなっている。
この記事を書いている現在、私も村上春樹訳を読んでいるのだが、肝心の内容はいまいちピンとこない。

文体は口語調で、唐突にあるクリスマスの出来事を語りだす形で進む。
読者を置いてきぼり感が否めない。
だが、そんなこと知っちゃこっちゃない、といった印象を受けるかなり挑戦的な内容となっている。

彼はどうやら長編はこの一冊しか出版していないとのこと。
ライ麦畑~以降はいくつか短編を書いたあとに発表が途絶えてしまった。
果たして何が原因で書くのをやめてしまったのか。
本が売れて書く必要に迫られなくなったからか、あるいは他に理由があるのか。本作はそんなサリンジャーの内面に迫っている。

1939年のニューヨーク。20歳のサリンジャーは親の反対を押し切って作家を志していた。編集者バーネットのアドバイスをもとに短編を書き始める。バーネットや文芸誌『ストーリー』の編集者にダメ出しを食らいながらもくじけずに書き続ける一方で、劇作家ユージン・オニールの娘ウーナと恋に落ちる。青春を謳歌している最中、第二次大戦勃発してサリンジャーは入隊することになるが……。

この映画を見ていると、本当にサリンジャーは書くことが好きであることが伝わってくる。
文芸誌に持ち込んで不採用を何回食らおうが、決してあきらめない。

とくに印象的だったのが、女の子を部屋に連れ込んでいざ!ってときに面白い小説のアイディアがパッと浮かんでしまう。
普通の男ならそんなの後回しにして、さっさと目の前にいる可憐な娘に襲いかかることだろう。(言うまでもなく私も然り)
彼はなんと、この場をお開きにして書くことを優先しようとするのだ。
この辺りは普通の作家志望とは違うというわけである。

現在劇場公開中の「蜜蜂と遠雷」でも才能についてを問いかけている。
無数の答えが存在するだろうが、その中の一つをサリンジャーの行動からも見て取れる。

親に恵まれてないところも印象に残る。
熱心に小説を書くサリンジャーに対して、「お前に語ることがあるのか(小説を書けるほどの深い人間なのか)」というセリフを吐いてしまうのだから、なかなかの毒親っぷりである。

余談だが、毒親の定義は「相手にネガティブな感情を引き起こして心理コントロールする傾向に高い人間」を指す。
人前で叱ったり、何かを頼まれて断ったら「はいはい、もういいですよ」などとイヤミな言い方をしたりして、自分の都合のいいように動かそうとするということ。
親に限らず、こういった思考の持ち主には注意が必要だ。一緒にいることで自分にとってマイナスでしかない。すぐに切るべき。
もちろん、親に何を言われようともサリンジャーは書くことはやめないのだから強い男だ。
サリンジャーの書く事に対する意志の強さ、執着心はこういったところからも伝わってくる。

他に面白かったシーンといえば恋人・ウーナ絡みだ。
中盤にさしかかるあたりでウーナはある男に寝取られるのが、それがとんでもない大物でビックリさせられる。
サリンジャーは事実が発覚したときめちゃめちゃに苛立っていたが、私だったらここまで大物だと逆に優越感を覚えてしまいそう。
これほどの大物に見初められる程の女性と仲睦まじい関係にあったのだから。(小物ですみません)

サリンジャーが第二次世界大戦勃発を機に陸軍へ入隊するエピソードも考えさせられるものがある。
戦争が愚かである理由の1つに、人の才能を潰すことだ。
そもそも戦争なんて政治的利権やら宗教がらみやらで、結局のところ被害被るのは国民だ。
サリンジャーのような文学の才能のあるものを戦地に送ってPTSDを与えて、それを奪う。
こういった事実を知ると愚か以外の何も浮かばない。

漫画「HUNTER×HUNTER」でも、同じようなことを描いている。
世界中に凶悪なアリがはびこってしまうキメラアント編にて、それは語られる。
主人公率いるハンター一味はアリ退治のため、彼らの根城への侵入を試みる。
一方で、アリの王メルエムは欲望のままにあらゆる生命を奪っていた。
次第に退屈さを覚えて、軍議(将棋のようなテーブル競技)をたしなむようになる。
そこで目は見えないし力は弱い女コムギと対戦することになるのだが、彼女は軍議においてはとんでもない腕の持ち主だったのだ。
メルエムは気づく。バカの一つ覚えに力を奮って命を奪うということは、何か重要な間違いをもたらしているのではないかと。
コムギとの出会いでメルエムに変化が訪れるのだ。
しかし、そこには主人公率いるハンター一味が迫っており……
といった内容だ。
少年漫画なのに深いテーマに触れていて感心してしまう。

映画に話を戻すが、こういった激動の時期に生きるサリンジャーは時代に翻弄されながらも、『ライ麦畑をつかまえて』を出版する。
大成功と同時に代償を支払うことにもなり、最後の選択に繋がる。
正直、サリンジャーの奇行とも呼べる最後の選択は理解出来なくもない。
発信するということは代償が伴うものだ。

本や音楽、映画はもちろんSNSなんかはもっと分かりやすい。
発信すれば人の感情を動かすことになり、感動させるかもしれないし、あるいは傷つけることだってある。
その結果、人がどんな行動を起こすのかは発信者の想像の範疇を超えることだってありえる。

そして、ある意味サリンジャーはむちゃくちゃ頑固だ。
普通、成功するためには人の助言を聞いて、人のニーズに答えるような行動を取る必要がある。

だが、サリンジャーは真逆だ。
持ち込んだ小説の直す箇所を編集者に提示されても断固拒否。

それなのに結果的に成功してしまった。
言うなら頑固親父の職人みたいなものか。
こういった人間性を持っているからこそ、最後の選択があのような形となった。

彼は客観視や柔軟性は皆無なので、かなり生きづらい人生といった印象を受ける。
自分だったら、柔軟性を手にしてもっと楽にいきたい。
あなたはサリンジャーのような生き方はできるだろうか。

この映画、そこまで起伏がないので、エンタメを期待しすぎると肩透かしを食らう。
あくまで実在の作家がどのような半生を送ったのか、といったことに関心がある人向けだ。
私はかなり楽しめたし、作家などのクリエイティブな仕事で成功を納めた人の伝記映画の面白さに気づかされたので、これからも積極的に観ていきたい。

最後にタイトルが画面の真ん中に表示されるのだが、何だか痺れた。

『Rebel in the Rye』

サリンジャーは最後まで矜持を守り抜いたんだなあ思ったら感動してしまった。
自分にできないことをやれる人間は無条件で尊敬してしまう。

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーの作品情報

■監督:ダニー・ストロング
■出演者:ニコラス・ホルト ゾーイ・ドゥイッチ ケヴィン・スペイシー
■Wikipedia:ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):28%
AUDIENCE SCORE(観客):64%

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーを見れる配信サイト

U-NEXT:○(有料)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(吹替・有料)○(字幕・有料)
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:-
※2019年10月現在

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーと関連性の高いおすすめ映画

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーの裏ジャンルである【組織のなかで】に分類される映画。

『青の炎』★★★☆☆3.5
鎌倉に住む櫛森秀一は理知的な高校生。ある日、10年前に離婚した養父・曾根が突如として家に現れて住み着いてしまった。横暴な曾根に母は言いなりで、妹の遥香はいつも怯えていた。秀一は家族を守るため、法的手段に訴えるも平穏を取り戻せることはなかった。母親の体のみならず妹に手を出そうとする曾根に秀一は怒りの臨界点に達し、自らの手で命を奪う完全犯罪を計画する。

私は原作も読了済だが、個人的には映画の方が好み。
秀一を演じる二宮和也の儚さが素晴らしくて、10年以上前に2~3回観た程度だが、やけに記憶に残る一本だ。
曾根を念じる山本寛斎もなかなかのキレっぷり。

U-NEXT:-
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(Blu-ray)
TSUTAYA TV:-
Netflix:-
※2019年10月現在

-⑨組織のなかで

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名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。