■評価:★★★★☆4
「中国で実際に起きた集団不正入試事件をモチーフとした社会派エンタメ映画」

【映画】バッド・ジーニアス 危険な天才たちのネタバレなしのレビュー、批評、評価
何年か前に池上彰がTVで韓国の受験戦争について解説してくれていた。
韓国は10代財閥がGDP(国内総生産)の3/4を占めており、もし財閥系企業に就職できないと職にあぶれやすくなってしまう。
若者の失業率は30%を超えるというから恐ろしい。
「良い会社」に入る=「財閥」となり、韓国人は安泰の将来を手にするため、熾烈な受験戦争を繰り広げている。
財閥は日本でよく知られているところを挙げるとサムスン、ロッテ、LGなどがある。
そういった経緯があって、韓国はグローバル志向の若者が日本と比べると段違いに多い。
自国での就職を諦め、他の道を求めて海を超えるのだ。これはこれで複雑な選択だが。
同時に減少傾向にはあるものの、アジア圏での自殺率が最も多いのも韓国である。2017年の統計で人口10万人当たりの自殺者数は24.3人となっている。(日本は2018年で16.5人)
日本も第二次世界大戦までは三菱、三井、住友、安田の4大財閥が幅を利かせていたが、敗戦後、GHQの指導により解体が進められていった。
GHQは日本の軍国主義の撲滅が意図の範疇にもあったが、結果的にはこれまで財閥が独占していた分野に新興企業が参入して経済の自由競争が生まれやすくなった。
平等に競争できる環境があれば、ベンチャー企業に就職しても未来の希望が持てるし、自身で起業する選択肢だって取れる。
このように他国と比較すると日本がいかに恵まれているかを実感できる。
韓国のみならず、アジア圏は受験戦争が社会問題となっている国は多い。
『バッド・ジーニアス』は中国でのカンニング騒動による事件をモチーフとしているが、制作国のタイでも富裕層が子供を入学させるための学校への賄賂が当たり前のような状況となっていて、問題視すらされていないという。
成績優秀な天才女子高生のリンは裕福ではない父子家庭で育つ。彼女はその明晰な頭脳を見込まれて名門進学校に特待生として転入を果たす。入学してすぐ、リンはグレースと仲良くなる。しかし彼女は性格がいいが成績に難を抱えていた。ある日、リンは出来心でグレースにテストをカンニングさせて救ってしまう。その話を聞いたグレースの彼氏の金持ちのパットはリンにあるビジネスを持ちかける。それは、カンニングをさせてもらうのと引き換えに代金を支払うといった内容だった。
映像の美しさには目を惹かれる。
外国人が日本をイメージするときは侍や忍者あたりとなるだろうが、タイといったらムエタイだ。
タイ映画は「チョコレート・ファイター」や「トム・ヤム・クン!」のような泥臭いアクションの印象が強いかったので、ちょっとこの映像のラグジュアリー感にはビックリしてしまった。
近年はタイの経済発展も著しくてスマホも人口の7割が所有しているとのこと。そういった状況がこの映画から伝わってくる。
前置きでも説明しているが、本作はカンニング映画だ。
とにかくカンニングの仕方がユーモラスで面白い。
最初は消しゴムを利用して友達のグレースにカンニングさせる。
次はグレースのみならず。多くの人間をカンニングさせることになり、リンは頭を使ってさらにユニークな方法を開発して実践する。
これには思わず唸らされる。なるほどと。下手したらマネするやつも出てくるんじゃないかと思ってしまうくらい。
監督は多くのカンニングのアイディアから、より映像映えするものを選択して採用したとのこと。
主人公の女子高生・リンは進学校に通う才女だ。
本作はバッド・ジーニアスというタイトルということもあり、この頭の良さがカンニング以外に使われるのもいい。
進学校ということで、頭がいいのはリンだけではない。
思わぬところで知的なトラブルに見舞われたりするのも見所の一つ。
こういったエンタメと、受験戦争という社会派テーマの見事なまでの融和っぷりには思わず引き込まれる。
テーマがないエンタメ映画はたまに見掛けるが、やっぱりジェットコースター感が否めない。(もちろん頭をからっぽに観たいときには最適)
社会問題のような深いテーマはリアリティを生み、よりキャラクターの事態の深刻さが伝わってくるので映画にのめり込んでしまうもの。
終盤のテスト以降は時間が圧縮されたかのようにあっという間だった。
貧困から抜け出すためには倫理観なんて無視するしか方法はない場合もある。
だが、そういった選択には代償を覚悟しないといけない。
果たして彼女らは無事にカンニングのミッションを完遂できるのか。
リンのお父さんも地味に良かった。
頭はつるつるでメガネをかけていていかにも冴えてない感じ。
裕福ではないため、将来を考えて父の希望で娘のリンを学校に無理やり転校させたりする。
娘の意志を無視してはいるが、社会の現実を知っている父の優しさだ。
それが理解できるからこそ、リンは葛藤する。
カンニングがバレたら、最悪学校を退学させられてお先真っ暗になるかもしれない。
自分だけではなく、父をも悲しませる結果となる。
しかしカンニングをやり続け、大金が手にすれば生活も楽になる。バレなければそのまま高校を卒業し、いい会社に入れて将来安泰だ。
あなたならどうする?
ナタウット・プーンピリヤ監督はもともとはアクション映画を作ろうとしていたが、若者にリサーチをしていた結果、教育のシステムの問題に気がついて、本作の脚本の制作に至ったそう。
タイ映画の底力を見せつけられたようないい映画体験となった。
バッド・ジーニアス 危険な天才たちの作品情報
■監督:ナタウット・プーンピリヤ
■出演者:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン チャーノン・サンティナトーンクン ティーラドン・スパパンピンヨー
■Wikipedia:バッド・ジーニアス 危険な天才たち
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):100%
AUDIENCE SCORE(観客):94%
バッド・ジーニアス 危険な天才たちを見れる配信サイト
U-NEXT:○(有料)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(字幕・有料)
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:-
※2019年10月現在
バッド・ジーニアス 危険な天才たちと関連性の高いおすすめ映画
バッド・ジーニアス 危険な天才たちの裏ジャンルである【組織のなかで】に分類される映画。

『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』★★★★☆4.5
1970年代、乱暴な母ラヴォナは、スケートの話ばかりする4歳のトーニャを黙らせるためにスケート教室に連れていく。コーチのダイアンは「初心者は受け付けない」と二人を帰そうとするが、おもむろに滑り出したトーニャを見て魅了され、指導することに。半年後、トーニャは年上選手を差し置いて大会で優勝を果たすほどの成長を見せる。一方で毒親ラヴォナの暴言・暴力による支配的な教育はエスカレートしていき……。
史実というのがにわかに信じがたい破天荒なトーニャの半生には驚かされるが、特記すべきは演出力だ。
テンポはいいし、役者陣の演技も魅力的。映画としての異様な完成度の高さにただただ圧巻。
2018年公開の映画でトップ3に入る面白さ。
U-NEXT:○(有料)
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Amazonプライムビデオ:○(吹替・有料)、○(字幕・有料)
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※2019年10月現在