映画の海

約1100本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます。(直近で観たものに限る。たまにアニメ・ドラマ・小説も)面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

②金の羊毛

映画『グリーンブック』ネタバレなしの感想。人間好きになれるハートフルコメディ

投稿日:10月 18, 2019 更新日:

■評価:★★★★☆4

「民度の低いガサツな白人運転手と上品な黒人ピアニストが交流する」

【映画】グリーンブックのネタバレなしのレビュー、批評、評価

タイトルにもなっているグリーン・ブックは黒人専用の旅行ガイドブックを指す。
1930年代から1960年代のアメリカはジム・クロウ法(主に黒人の一般公共施設の利用を禁止制限した法律)によって黒人が利用できる施設が制限されていた。
交通手段も然りで、当時は差別や隔離からの自由を求めて、黒人は自動車を買っていたという。
黒人が旅行先で利用できる施設の情報のニーズが高まり、グリーン・ブックが発行されるようになる。

それにしても法律で差別が許されていた時代があったっていうことに驚きだ。
あらゆる手段で白人は黒人を弾圧・抑圧してきたが、人種隔離に反対する運動に参加した白人も裏切り者とされてフルボッコにされることもあったという。
果たして自分がこの時代の白人としてアメリカに生を授かったらどんな行動を起こしていただろうか。

本作は半伝記映画だ。
主役の黒人ピアニストのドン”ドクター”シャーリーと白人運転手トニー・ヴァレロンガは実在の人物で、映画に出てくるエピソードの多くが史実に基づいている。(すべてではない)

1962年のアメリカ。ジム・クロウ法まっただ中で、イタリア系アメリカ人のトニーもどこか黒人を嫌悪していた。彼はニューヨークでナイトクラブの用心棒として働いていたが、ある日、職場が改装工事のため2カ月間閉鎖することとなる。その空いた期間を埋めるための仕事を探しているとアフリカ系アメリカ人のクラシック系ピアニスト、ドン・シャーリーの運転手の仕事を知り合いから紹介される。8週間の全米ツアーの運転手として彼を雇いたがるドンに対して、家族を愛するトニーはクリスマス・イブまでに自宅に帰ることを条件に仕事を引き受ける。

第91回アカデミー賞作品賞受賞。
てっきりストーリーの優れた社会派ドラマかと思きや、コメディ色の強いキャラクター映画だったのは意外だった。
それもそのはず、ピーター・ファレリー監督は『ジム・キャリーはMr.ダマー』『愛しのローズマリー』のようなアホ映画ばかりを過去に作っており、過去にもオーディションを受けにきた女優に自分のペニスを見せるといったセクハラ行為に及んでいた経験もある生粋のアホ監督である。
彼はそんな過去を猛省しているらしく、本作は二人の旅をずっと見守っていたくなるようなハートフルないいお話となっている。

白人トニーが黒人を嫌悪するシーンは印象的。
彼の家の配管の修理か何かに入った黒人作業員に奥さんは飲み物を与えるが、それを見たトニーは彼らが使用したコップをこっそり捨てたりする。
本作の脚本や制作に携わっている実の息子のニック・ヴァレロンガいわく、父のトニーは本当に差別主義者だったと語っている。

黒人ピアニストのドン・シャーリー(以下ドク)の家もまたインパクトが強い。
本物の象牙が飾られていたり、内装もめちゃくちゃ豪奢でおしゃれ。
トニーは大食いなどで体を張って金を稼いだり、彼の家は家族の人数に対して部屋が狭く、行くレストランもみすぼらしい。あまり裕福ではないことが伺える。
2人は何もかもが対照的だ。

にしても、トニーの民度の低さには何度も笑わさせられた。
ドクのバンドメンバーからもらいタバコをして自分のタバコを温存したり、ツアーの道中で立ち寄った道の駅みたいなところの売店で万引きしたりと、いじきたない一面を見せる。
のわりに家族思いの顔も持っていて憎めない。
豪快でユーモアにも溢れていて友達になったら楽しそうなやつではある。

対してドクは育ちがすこぶる良い。
身なりもキレイで、彼の下品な言動を指摘して矯正しようとする。
途中から彼が猛獣使いのように見えてくるのが面白い。

トニーはそんなにドクにうんざりしながらも、彼の演奏に魅了されてしまうのだ。
ドクもまた、車内で流れるトニーの好きな音楽を気に入ったりして、こういった些細な出来事が積み重なって二人の距離が少しずつ縮まっていく。
車内からはのどかな風景が覗いているし、2人は楽しげに会話していて観ているだけで気分が良くなってくる。

特にケンタッキーにまつわる二人のやり取りむちゃくちゃ笑える。
ここはあえて伏せておくので、直接見て楽しんでほしい。
本作で私が一番好きなシーンとなった。

そういえば食べ物描写がかなり多かったのは印象的。
食べ方で、二人の育ちの良さを描き分けていたのだろう。
トニーが夜中、ホテルでバスマットみたいなデカいピザにかぶり付きついてるシーンはかなり笑える。
ジブリとは真逆で全然うまそうじゃないっていう。パサパサしてそうだし。

こんな感じで何もかもを自然に描いていて、さすがはアカデミー賞作品賞を受賞しているだけはある。
トニーは頑固でわがままな男だが、ツアー中、奥さんに言われて仕方なく書く手紙では本音を語っていたりする。
彼の多面的な人間性も物語の中で自然に挿入してくる。
この手紙のシーンでもドクが絡んでくるところがあり、そのやり取りがハートフルですごく良かった。本作で好きなシーンの一つ。
これも詳細を書いたら面白さが半減しそうなので、観て楽しんでもらいたいところ。

間の取り方も良かった。
テンポが早すぎず、かといって遅くもない絶妙なスピードで、ずっとこの映画の世界に没入していたくなる。
恐らくコメディ演出経験が多いからだろう。
この絶妙的な間によってトニーのガサツさがやけに映えて笑いを誘ってくる。

あとコメディということもあるので、吹き替えで観ることを推奨したい。
とくにトニーの声が素晴らしい。しっくりきすぎだろう。大塚芳忠さん、いい仕事してる。
あなたが字幕派でも、2回目の視聴はぜひ吹き替えで楽しんでもらいたい。あのトニーの吹き替えを楽しまないのは勿体なさすら感じる。

コメディ映画ではあるがテーマはしっかりと描いており、ドクが受ける差別描写の数々が生々しく映される。
道中のスーツ屋で、トニーはOKなのにドクは試着させて貰えなかったり、コンサートを行う屋敷のトイレに行こうとすると、外のボロボロの便所の方に案内されたりなど。
ドクだけでなく、屋敷の使用人やレストランなどのウェイトレスが黒人まみれなのも地味に気になる。

ドクが日常的に受ける理不尽をトニーは目の当たりにする。
ドクを通じて、今まで自分がしてきたことを客観的に知ることになるのだ。

微妙だと感じた箇所も触れていきたい。
ストーリーの弱さはちょっと気になってしまった。
確かにトニーはドクと比べると貧困気味ではあるが、仕事も用心棒として雇われている店が内装工事のために、2ヶ月だけ無職になる程度。
つまり、トニーは無理して別にドクの仕事を引き受けなくても、生活面は何とかなりそうではある。

フィクションだったら食うものもないくらい生死の境でこの仕事を引き受けて仕方なくやる、といったような流れにするだろう。こういった強い動機をキャラクターが持っていると観客は物語に没入しやすくなる。
史実ならではの弱さがあるので、こういった理由から途中で飽きてしまう人もいるかもしれない。

あとトニーは黒人が使ったコップを捨てるのに、ドクと初対面時には抵抗することなく握手するのは違和感を覚える。
ここは握手しないような流れの方が、より大きく彼の成長を描けたように思える。

気になったのはそのくらいだ。
良いシーンが多くて、誰にでもすすめられる素晴らしい映画。
世界はハートフルに包まれているんだなあと思える最高の終わり方を見せてくれる。

グリーンブックの作品情報

■監督:ピーター・ファレリー
■出演者:ヴィゴ・モーテンセン ヴィゴ・モーテンセン リンダ・カーデリーニ
マハーシャラ・アリ
■Wikipedia:グリーンブック
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):78%
AUDIENCE SCORE(観客):91%

グリーンブックを見れる配信サイト

U-NEXT:○(有料)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(吹替・有料)○(字幕・有料)
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:-
※2019年10月現在

グリーンブックと関連性の高いおすすめ映画

グリーンブックの裏ジャンルである【金の羊毛】に分類される映画。

『劇場版テレクラキャノンボール2013』★★★★☆4
東京から札幌まで車やバイクで移動しながら、出会い系やナンパ、テレクラなどを駆使して女性と出会って性交し、設定されたポイントを競うドキュメンタリー型AVを劇場版に再構築した作品。

AVを映画として劇場公開にするという、とんでもないコンセプトだが観たら納得だ。
非常に熱い男たちのリアルバトルが映像には収められている。まさに映画だ。
ポイント制を採用しているあたりから察知できると思うが、昨今のフェミニズムの流れを無視したような内容のため、女性厳禁。
『ヤルかヤラナイかの人生なら、俺はヤル人生を選ぶ』

U-NEXT:-
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(Blu-ray)
TSUTAYA TV:-
Netflix:-
※2019年10月現在

-②金の羊毛

執筆者:

名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。