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ドキュメンタリー

映画『ドリーミング村上春樹』ネタバレなしの感想。翻訳家のメッテ・ホルムが作品の理解を深めるため日本を訪れるドキュメンタリー

投稿日:10月 24, 2019 更新日:

■評価:★★☆☆☆2

「職業としての翻訳家」

【映画】ドリーミング村上春樹のネタバレなしのレビュー、批評、評価

この映画は村上春樹の作家活動40周年記念作品で、彼に関するドキュメンタリーは本作が初となる。
彼が紙以外のメディアに姿を現すことは極端に少なく、昨年ラジオのDJをやるってなったときはニュースにもなってかなり話題に挙がっていた。
TVにももちろん出たこともないので、YOUTUBEで検索しても彼が動く姿を確認できる動画は一本も存在しない。

普通、作家の新作長編小説は雑誌に連載されたのちに単行本化されるのがほとんどである。
連載されると原稿料がもらえるので、それで食いつなぎながら作品作りを行う。

が、村上春樹は締切に追われて強制的に書かされるのが嫌いで、気分が乗ったら長編小説に取り掛かり、完成したら妻に見せてダメ出しを貰って書き直す。完成したら、突然出版社に出向いて編集に渡すのだという。
まるで存在そのものがツチノコのような人間である。

本作が追うデンマーク人のメッテ・ホルムは、村上作品を日本語からデンマーク語へ直接翻訳している。
村上春樹の著作は50言語以上に翻訳されているのだが、英語から翻訳がほとんどであり、彼女のような例は稀だという。

メッテ・ホルムは現在取りかかっている『風の歌を聴け』の一文の翻訳について悩んでいた。現実と空想の世界が重なる村上春樹の世界観は翻訳家によって解釈が異なる。彼女は世界の翻訳家と議論を重ね、理解を深めるために日本を訪れる。

この映画は村上春樹の翻訳者である彼女が、彼のデビュー作である『風の歌を聴け』の翻訳して出版に至るまでを追ったドキュメンタリーである。

なぜ彼の翻訳家がデビュー作を今になって手がけるのか、という疑問が湧くと思う。
村上春樹自身が初期の2作は内容に稚拙さを感じていて、長らく海外で翻訳本が刊行していなかった。
数年くらい前に解禁されたみたいなので、今になって彼女が取りかかっているのだと思われる。

村上春樹ファンでなくてもこの本だけ読んでおけば、本作の内容は理解出来る。
文庫本168ページという短さなので読了まで長い時間はかからない。
が、そんなに濃い映画でもないのでファンでなければあえて観る必要はない。
私は彼の長編小説を半分ほど、短編集とエッセイをそれぞれ数冊読む程度のファンだが、正直本作はそれほど楽しめる内容ではなかった。

印象的だったのが、彼女はたった1つの文章にものすごくこだわっているということ。
『風の歌を聴け』は、村上春樹の一番有名な文章から始まる。それが

「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」

彼女はこの【文章】という文字をどのようにして訳すのか熟考し、世界の翻訳家からアドバイスをもらう。
センテンスでは限定的なので、テクストにした方が意味に広がりが持てるのではないか、といった具合に。

なぜここまで深く考えるのか。
村上春樹の小説は読みやすいのだが、難解な内容の作品が多い。
日常を生きてるキャラが自然とファンタジー空間に迷い込んで行くような幻想的なものが多く、しかもたくさんの謎を振っておいて回収せずに終わる。幕を閉じない作風といってもいい。

なので、読み終わったあとについ色々と考えてしまう。
だから熱狂的なファンが多い。

翻訳する彼女もこの幻想的な世界観をそのまま伝えるため、1つの文章を翻訳するのにも熟考する。
何なら彼の思考に近づくため、東京のみならず、彼のふるさとである兵庫県の芦屋にまで足を運ぶのだから驚きだ。
翻訳の仕事に私は明るくないが、ここまでする翻訳家も稀だろう。

実際に村上春樹はそこまで深く考えずに物語を作っていると思う。
彼はつかみどころのない文章を書くのがうまい、といった印象が強い。

エビデンスも存在しており、川上未映子との対談本『みみずくは黄昏に飛びたつ』では彼女がとある作品の彼女なりの解釈を伝え、村上春樹は「良く覚えてない」「そんな感じだったかな」といった回答をする、といった応酬が何度も見られる。
何となく、そこまで考えてないんだろうなっていうニュアンスが伝わってくる。
煙に巻くような性格の悪さも持っていそうなので、真意は不明だが。

彼は『職業としての小説家』というエッセイでは、物語に扉を登場させることに拘っていると語っている。
つまり非日常へ足を運ぶ起点となる要素で、つかみどころのない文章も相俟って読者を異世界にダイブさせる。
忙しい現実からの一時的な逃避行を、彼の本は促してくれる。

最後に読んだ『騎士団長殺し』は小説で初めて発売日に単行本を購入したが、この本を読んでいた2週間は本当に幸せな時間だった。
こういう感覚に陥らせてくれる作家って稀で、恐らく私以外の読者も似たような心地よさを求めて彼の本を手に取るのだろう。

あなたが彼の著作に関心があれば、『ノルウェイの森』はおすすめ。
ファンタジー要素のないリアリズム小説であるが、幻想的な雰囲気はある。

村上春樹らしいファンタジー小説が読みたいのであれば『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を選ぶといい。
進撃の巨人がモチーフにしたと言われている壁に囲まれた世界と現実世界の二つの世界を描いた物語だ。
セカイ系の基本フォーマットにもなっていると言われており、最近のセカイ系作家といったら新海誠が挙げられるが、彼も村上春樹を愛読している。とくに初期作は、影響が顕著に見られる。

壁に囲まれた世界『世界の終り』そのものが暗喩で描かれており、その世界にのみ生息する一角獣や、主人公はその獣の頭蓋骨から古い夢を読む謎の仕事をすることになったりと、ミステリアスな要素が非常に多い。街に入ると消える記憶、禁忌となっている森。
一体どういった意味を持って村上春樹はこのような世界観を築いたのか。

村上春樹についてついつい語ってしまったが、映画に関してはドキュメンタリーであろうと、主人公の変化や成長は見せて欲しいので、もっと感情を映してもらいたい。
翻訳者としての辛いことや喜び、どんな気づきがあって結果的にどういった変化をもたらすのか。
こういった部分ももっと濃密に見せてもらいたい。

彼女を知ることが出来なければ村上春樹のことも知ることができなかったので、ちょっと残念な結果となった。
とくにラストは非常に落胆させられた。もう少しファンにサービスしてもらいたかったところ。

ドリーミング村上春樹の作品情報

■監督:ニテーシュ・アンジャーン
■出演者:メッテ・ホルム
■公式サイト:こちら

ドリーミング村上春樹を見れる配信サイト

U-NEXT:-
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:-
TSUTAYA TV:-
Netflix:-
※2019年10月現在

ドリーミング村上春樹と関連性の高いおすすめ映画

ドリーミング村上春樹と同じドキュメンタリー映画のおすすめ。

『ボウリング・フォー・コロンバイン』★★★★☆4
1999年4月20日に発生したコロンバイン高校銃乱射事件を題材とするドキュメンタリー。マイケル・ムーアは事件の被害者、犯人が心酔してた歌手マリリン・マンソンや全米ライフル協会会長のチャールトン・ヘストンなどへインタビューを行い、事件の背景と銃社会アメリカの異常性をあぶり出していく。

マイケル・ムーアが世界に認知されるきっかけとなった映画で、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞している。
公開された当時は日本でもかなり話題となっており、劇場では満員続出となっていたそう。

この映画は良くできていて、重たいテーマを扱いながらもアニメーションが挟まれたりと、観客が飽きない作りになっている。
マイケル・ムーアのキャラクターも魅力的で、芯食った発言を厭わず行う姿は見ていて爽快だ。体型も相俟ってまるでマツコ・デラックスである。
とくに銀行員へのインタビューは滑稽で笑える。

U-NEXT:○(見放題)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(字幕・有料)
TSUTAYA TV:○(見放題)
Netflix:○(見放題)
※2019年10月現在

-ドキュメンタリー

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名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。