■評価:★★★★☆4.5
「異教徒同士は分かり合えるのか」

【映画】バジュランギおじさんと、小さな迷子のネタバレなしのレビュー、批評、評価
人間関係において価値観の違いを乗り越えるって思いのほか難しい。
男女が別れに至る理由もこれによるものは多いし、誰もが一度は経験するハードルだ。
「そういうの、ちょっと苦手かも」
「自分はそれ、本当は好きじゃないだ」
こんな風に上手く伝えられたらいいのだが、特に若い頃はそれができずに、我慢してため込むことが正しいと思い込んでしまったりもする。
その結果、ある日爆発して大ゲンカに発展したり、あるいは衝動的に別れを切り出してしまったり。
何なら伝えても、相手が理解してくれないケースだってある。
バンドもそうだ。
「音楽性の違いが生じたため、解散します」なんて言葉は良く聞く。
人間誰しも生きているうちに色んな物に触れるなかで、少しずつ価値観が変わっていくことは稀ではない。
最初は楽しくやっていが、もっとやりたい音楽が見つかってしまって、今のバンドにいられなくなってしまう。
私も今は映画が好きだが、来年あたりソロキャンプにハマって、突然このブログでキャンプグッズを紹介しだすかもしれない。
話は反れてしまったが、人との価値観の違いを乗り越えるのは膨大なエネルギーを使う。
『バジュランギおじさんと、小さな迷子』は上記に比べるともっと深刻で、異教徒同士の物語となっている。
パキスタンの山間の村に住む少女シャヒーダーは生まれつき言葉を発することができなかった。村長のすすめでシャヒーダーの母は彼女を連れ、インド・デリーのニザームッディーン廟に参拝することになる。無事、お祈りをすませて帰る途中に列車が停車し、その際にシャヒーダーが降りてしまってそのまま列車は動き出してしまう。母は娘を探そうとしたが、列車は国境を超えてしまって探しに向かうことができなかった。一方、ハヌマーンを信仰するインド人のパワンは、道ばたで自分に視線を送るシャヒーダーを見つける。迷子かと思い、彼女を警察に連れて預けようとするが断られてしまい、仕方なく自身が住むインド・デリーに連れて帰る。
物語は少女シャヒーダーの視点から始まる。
まず目に飛び込むのが、彼女が住む山あいの村の壮大な景色だ。
とてつもなく美しい。
息をのむほどの絶景で、ちょっとこの映像だけでもしばらく映してもらいたくなるくらい。
羊もたくさんいて可愛いし、彼女の村はきれいな冠雪の山々に囲まれてる。
アルプスといった感じで、東京暮らしの人間からしたらこの景色はちょっとたまらない。
シャヒーダーもまた爆発的に可愛い。
クリクリした目で、いつもニコニコ。顔がおにぎり形で親しみやすい(ほっぺの下のあたりがふっくらしてる感じ)。

シャヒーダーはしゃべれないため、村長に「ニザームッディーン廟に参拝すれば間違いなく喋れるようになる」と彼女の母を告げられる。
本気でお祈りすれば喋れるようになると信じて廟に向かうのだから、この辺りは文化の違いを感じる。
余談だが、廟(びょう)はイスラムにおける死者を祀る宗教施設を指し、日本で言うところの神社のようなものだ。
インドにあるニザームッディーン廟にはヒンドゥー教徒以外の人間も参拝したり、観光したりしている。
実際に、日本でも靖国神社に出向けば外国人観光客を多く見かける。
シャヒーダーがインドで迷子になり、パワンの視点に切り替わる。
タイトルにもなっているバジュランギおじさんだ。
バジュランギはハヌマーンを指し、ヒンドゥー教で神様に等しい尊敬を集めている猿のことを指す。
パワンはみんなからバジュランギと呼ばれるほどの信仰深く、信頼を集めている男だ。
本作は何といっても、このパワンのキャラクターの魅力に尽きる。
この男が頭がおかしくなるほど魅力的だ。
優しい顔立ちグランプリがあったら天に召されるまで連覇し続けるほどの人の良さそうな顔貌で、肉体はボブサップのように屈強。
このガタイなのに、猿を見掛けたらすぐにお祈りするし、「ハヌマーンとの約束は絶対守る」といった信念を持っていて、何が何でも絶対に嘘はつかない。
まるで動物のような純粋さを持った男なのだ。存在そのものがハートフルである。

こんなハートフルに溢れたおっさんなので、外出てると彼の周りではハートフルな出来事まみれだ。
シャヒーダーは話せないが耳は聞こえるので、パワンはバスの中で町名前を次々言って女の子の住まいを言い当てようと試みる。
すると、バスの中にいる客もノリノリで町を言い当てるクイズに参加しだして、そしたらパワンと同郷のやつとかいたりして話が弾んだりしてあっという間にハートフルの完成である。
個人的にかなり好きなシーンだ。インド人温かすぎるだろう。何なんだこれ。
氷の街・東京に長く住んでると、こういう光景だけでも癒されてしまうから不思議だ。
人懐っこい人たちを見ているだけでこんなにハートフルを感じてしまうなんて、変な話である。
パワンは彼女をてっきりヒンドゥー教徒の富豪の娘と勘違いして、彼女を家に届けようとするのだが、ある日、突然彼女は姿を消してしまう。
見つけた彼女はモスクに入ってお祈りをしていた。
モスクはイスラム教の礼拝堂であり、パワンは彼女が敵対しているパキスタン人であることがわかってしまう。
すべてを知ったパワンはどんなリアクションを示すのか。
この映画が高い評価を受ける理由の1つに、ただのヒューマンドラマに留まっていないことが挙げられる。
インド人であるパワンがヒンドゥー教徒に対してシャヒーダーはパキスタン人でイスラム教の信者。
第二次世界大戦後にインドがイギリス領から独立する際に、ヒンドュー教徒とイスラム教徒の対立が激しさを増して分断されることとなった。
それがインドとパキスタンである。
1947年8月の出来事で、2019年の今も緊張状態は続いている。
現在劇場公開中の『ホテル・ムンバイ』は、2008年11月にパキスタン人のイスラム過激派がインド・ムンバイで起こした同時多発テロを扱った内容となっている。
博愛の塊のようなパワンが、彼女を異教徒だと知ったときの言動がこの映画の一番のポイントとなる。
この映画、ジャケットには二人が映されているが、バディ要素はあまりない。
シャヒーダーはペットに近い立ち位置だ。
彼女は話せないという設定だが、そのことについて彼女の内面が深掘りされることはない。
なので以前、このブログでも記事にしている話せない女の子が主人公の映画『聲の形』や『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』のように、話せない事自体をテーマにしていないので、あなたがこれから鑑賞するなら見方を間違えないようにするといい。
あくまで異教徒である彼女と接したパワンの物語だ。
どちらかというと奥さんとのバディ要素が描かれている。
この辺りはネタバレの危険があるので、あとは直接見て確かめてもらいたい。
とにかく、この映画はパワンのキャラクターが最大の見どころで、道中ではひたすら彼の純粋さが発揮される。
もはや少女もあきれているくらいだから笑える。
全編ハートフル。10分に一度はハートフル。ハートフルにもほどがある。
観終わったら幸せな気持ちになれる映画だ。
バジュランギおじさんと、小さな迷子の作品情報
■監督:カビール・カーン
■出演者:サルマン・カーン ハルシャーリー・マルホートラ ナワーズッディーン・シッディーキー
■Wikipedia:バジュランギおじさんと、小さな迷子
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):93%
AUDIENCE SCORE(観客):86%
バジュランギおじさんと、小さな迷子を見れる配信サイト
U-NEXT:-
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(Blu-ray)
TSUTAYA TV:-
Netflix:-
※2019年10月現在
バジュランギおじさんと、小さな迷子と関連性の高いおすすめ映画
バジュランギおじさんと、小さな迷子の裏ジャンルである【バカの勝利】に分類される映画。

『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』★★★★☆4
1984年、カナダのヘヴィメタバンド「アンヴィル」は日本で開催されたスーパー・ロック・フェスティバルに招待され、ボン・ジョヴィらと共に演奏をして成功を果たした。しかし、バンドの人気が長く続くことはなかった。20年以上だった今でも、スティーヴ・”リップス”・クドロー(ボーカルギター)と結成以来のメンバーで幼馴染で親友のロブ・ライナー(ドラム)はバイトで生計を立てながら、アンヴィルを続けていた。情熱や服装は結成当時と何ひとつ変わらず、再びスターダムにのし上がることを夢見て。
ドキュメンタリーなのに、ちゃんと起承転結で構成されている辺りは好感が持てる。
リップスとロブがほんと心底アホなおっさんで、なのに熱量はあるので気づいたら応援してしまう。
こういう中年っていいなあって思う。彼らは金はないけど、毎日が楽しげで少年のように目をキラキラさせている。
あなたは毎日、目をキラキラさせて生きているだろうか。
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※2019年10月現在