映画の海

約1100本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます。(直近で観たものに限る。たまにアニメ・ドラマ・小説も)面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

⑨組織のなかで

映画『芳華-Youth-』ネタバレなしの感想。兵士の少年たちと彼らを慰労する文工団の少女たちとの恋を描く

投稿日:11月 1, 2019 更新日:

■評価:★★★★☆4

「戦時中の中国における青春恋愛映画」

【映画】芳華-Youth-のネタバレなしのレビュー、批評、評価

学生時代に、男女混合のグループで遊びに行った経験がある人は多いだろう。
非モテで童貞全開だった私の専門学校時代のそういった経験があり、当時の淡い思い出が妙に記憶にへばりついている。
学校終わりに男女5~6人くらいで一人暮らしをしているやつの家に突撃して鍋パーティをしたり、休みの日にはディズニーランドに行ったり。
恋愛というものをまったく知らない時期だったからこそ、刺激が強かったのだろう。

『芳華-Youth-』はまさにそんな世界観を描いている。
しかし時代背景は我々が生きる今とは想像もつかないほど残酷なもので、青春の儚さを助長している。
よく連ドラが終わるとロス症状に見舞われる人がいるが、観終わったあとはそれと同じような寂寥感でいっぱいになった。

17歳のシャオピンはダンスの才能を評価され、人民解放軍(軍隊)の文工団に参加する。文工団は歌や踊りで兵士たちを慰労する歌劇団で、見た目が美しく、才能にあふれる若者たちは日々、歌や踊りの稽古に励んでいた。母と再婚相手の家に居場所がなかったシャオピンは、文工団という新しい環境に希望を抱くが、周囲のエリートの仲間たちとは馴染めずにいた。そんな彼女の支えとなったのは模範兵のリウ・フォンだった。しかし、時代が大きく変化する中で彼らは運命に翻弄される。

私は中国史に明るくないのだが、文工団という存在には驚かされた。
戦争で疲れた兵士を慰労するために歌や踊りをする芸能集団が税金で運営されているというのだから、にわかに信じがたい。
それだけ前線では娯楽が少ないうえに、精神的な消耗が激しいということだろう。

日本にも、かつての戦時中では『わらわし隊』という名称の慰問団が存在していたという。
中国とは違って軍隊の中の一組織ではなく、吉本興業が朝日新聞社と共同で結成して戦地へ派遣していた。

この映画はかなりよく出来た青春映画だが、中国の邦画といった印象が強い。
舞台は1970年代の文化大革命の中で軍の文工団に所属する少女たちと、若い兵士たちとの恋を描いた青春映画だ。

この時代を生きる彼らがどんな思想を持ち、どんなモチベーションで生きているのかが全く描かれないので、置いてきぼり感もいなめない。
戦争に勝ちたいのか、そんなの興味なくてただ毛沢東を崇めているだけなのか、あるいはただ今が楽しかったらそれでいいのか。
中国人からしたらおぼろげに彼らの心情を汲めるのかもしれない。そのため、彼らのそういった内面が描かれていないので、入り込めなかった部分もある。

なので、あなたがこれからこの映画を観ることを想定して、簡単に中国のこの時代についてをまとめていきたい。

文化大革命は、1966年から毛沢東が亡くなる1976年まで続いた彼主導による革命運動のことを指す。つまりクーデーター。
毛沢東は中華人民共和国の建国者。
当初は社会主義の体制を取りながらも民主的な考えを取り入れたりしたが、1952年に突如、完全な社会主義へと舵を切ることに。
多くの国民や党員を困惑させるなか、行われた大躍進政策は大失敗し、年で2000万人から5000万人以上の餓死者を出してしまう。
ちょっと数が異次元すぎてもはやファンタジーだ。国が壊滅しなかったのが不思議なくらいである。

で、結果的に責任を取るかたちで国家主席の座を譲ることになる。
このできごとがきっかけで世界三大大量殺戮者ということでドイツのヒトラーやソ連のスターリンとともに揶揄されることになる。

その後、1964年に『毛沢東語録』が出版して、大衆に対する毛沢東への神格化が進め、密かに奪権の機会をうかがっていた。
文化大革命の「資本主義文化を批判し、新しく社会主義文化を創生する」といった大義名分が当時の多くの若者や労働者の心をつかむことになる。
だが実際は、国家主席の座を取り戻すための権力闘争にすぎなかった。
毛沢東ら共産党幹部は、紅衛兵(こうえいへい)と呼ばれる自身を支持する若者たちを扇動して、政権幹部たちを攻撃させ、失脚に追い込む権力闘争を繰り返していた。
結果的に多くの政敵を粛清し、再び権力を握ることになる。

そんな時代において、軍隊内の恋愛を描いたのが本作だ。

当時は毛沢東への忠誠が個人の感情が尊重されない時代で、AKBのごとく軍隊内では恋愛禁止となっている。
そんな中、文工団や若い兵士らは政治委員の目を盗んで、愛を育んでいく。

文工団は当然エリート集団であり、参加している女性はみんな容姿が美しい。
こういった暗い時代の物語とは思えないほどに華やかで、踊りや歌も素晴らしいのでギャップに引き込まれてしまう。

特に石原さとみ似の色気ムンムンなディンディンという子が可愛い。
クセのある顔立ちが妙にエロくて小悪魔的。
彼女は物語の要となるので注目しておくといい。

こういった戦時中を題材とした青春恋愛劇は新鮮でかなり楽しめた。
不安定な世の中で生きる彼らが何とも楽しげで良い感じ。
どんな時代であろうとも恋や青春は楽しいもの。政治委員に隠れて好きな者同士が逢引したり、みんなでテレサ・テンのテープを聞いたり。
修学旅行の夜的な秘め事って何だか見てるだけでテンションが上がってしまう。

中国では1ヶ月で興収230億円という爆発的な大ヒットを記録したというが、観たら納得である。
かなりの資金が投入されているであろう、迫力のある映像も見応えがある。
演劇シーンはもちろん、中盤辺りで描かれるワンカットの中越戦争シーンの臨場感は凄まじかった。

先日、ウトヤ島という全編ワンカットの映画を観たが、映画としては稚拙で最後まで観るのも苦痛な出来栄えだった。
全編ワンカットという暴挙がドラマ性を欠いてしまっていて、ひどく冗長に感じてしまう。

ワンカットは時間軸をコントロールできないので、ドラマを描くのが難しいリスクがある。
ようはカットで時間を飛ばすことができないので、エピソードを次々と挿入していくのが難しい。
『芳華』を観ると、いかにワンカット演出は部分的に行う方が使い勝手はいいかということを証明してくれている。

ただし、核心的なアイディアがあれば話は変わってくるので、今後、全編でワンカットで面白い映画が出てくる可能性があることも否めない。

永遠ではない青春の儚さを見事に描いていて、観た日の夜は夢にまで出てきた。
ラストに見せつけられる格差は不条理で、戦争の爪痕がむごたらしい。それでも後味が悪くないのは希望を感じさせてくれるから。
戦争恋愛映画はちょっとクセになりそう。

芳華-Youth-の作品情報

■監督:フォン・シャオガン
■出演者:ホアン・シュエン ミャオ・ミャオ チョン・チューシー ヤン・ツァイユー リー・シャオファン ワン・ティエンチェン
■Wikipedia:芳華-Youth-(英語)
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):87%
AUDIENCE SCORE(観客):90%

芳華-Youth-を見れる配信サイト

U-NEXT:○(有料)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(字幕・有料)
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:-
※2019年11月現在

芳華-Youth-と関連性の高いおすすめ映画

芳華-Youth-の裏ジャンルである【組織のなかで】に分類される映画。

『ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』★★★★☆4.5
1941年12月、チェコスロバキア亡命政府より、スロバキア人のヨゼフ・ガブチークとチェコ人のヤン・クビシュの二人の軍人がナチス占領下の祖国にパラシュートで降下した。祖国を統治している「金髪の野獣」「プラハの屠殺者」と呼ばれるナチス親衛隊の幹部ラインハルト・ハイドリヒを暗殺する『エンスラポイド作戦』を遂行するために。

ストーリーラインとしてはナチスNO.3の男・ハイドリヒを伐倒する作戦がメインとなるが、主人公らを協力する女性たちとの恋も描かれかれる。
それが芳華と似通ったものがあって、この映画もまた余韻が強い。

ラブストーリーは男女の仲を何で引き離すかが肝となってくる。
『秒速五センチメートル』では引っ越しで離ればなれに。年齢差といった倫理観によって埋められない距離に苦しむのが『恋は雨上がりのように』。

そんななか「戦争」というのは強烈だ。
自分ではコントロールできない理不尽に仲を引き離されるだけではなく、彼らの身には命の危機が迫っている。
そんな彼らを見て感情が動かされないわけがない。

U-NEXT:○(見放題)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(字幕・有料)
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:○(見放題)
※2019年11月現在

-⑨組織のなかで

執筆者:

名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。