映画の海

約1100本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます。(直近で観たものに限る。たまにアニメ・ドラマ・小説も)面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

②金の羊毛

映画『バーニング 劇場版』ネタバレなしの感想。男が片想いの女を通じてビニールハウスを燃やす男と出会う

投稿日:11月 11, 2019 更新日:

■評価:★★★☆☆3.5

「見えるものと見えないもの」

【映画】バーニング 劇場版のネタバレなしのレビュー、批評、評価

村上春樹の映像化は難しい。
彼の本は文章のリズムや世界観を楽しむようなもので、エンターテイメント的な起伏のある物語ではないので、映像化には向いているとは思えない。

本作は村上春樹著の短編集『螢・納屋を焼く・その他の短編』に収録されている『納屋を焼く』を原作とする映像化作品。
40ページ程度の短さで、唐突にある男が「僕は納屋を焼いている」と語り、主人公は「ハア、何言ってんだお前」的な感じで展開される。
男がいかに拘りを持って納屋焼くのかを語っており、バカらしくて笑えるのだが、特に進展を見せることなく幕を閉じる。
この奇妙な世界観を148分の長尺で描いている。
『ペパーミント・キャンディ』『オアシス』『シークレット・サンシャイン』の韓国の鬼才イ・チャンドンがどのように膨らませたのか期待して観ることとなった。

運送会社でアルバイトをしているイ・ジョンスはある日、デパートの店頭でセールの広告モデルをする女性の一人に声をかけられる。彼女は整形して美しくなった幼なじみのシン・ヘミだった。その後、ヘミがアフリカ旅行で留守の間、飼い猫のボイルにエサをあげてほしいとお願いされ、ジョンスは自宅マンションに招かれる。そこで二人は結ばれる。半月後、ジョンスは帰国するヘミを迎えに空港に行くと、彼女はケニアの空港で知り合ったベンという青年を連れていた。その日から3人の奇妙な交流が始まる。ジョンスはベンとも仲良くなった頃、彼はジョンスに自分の趣味を告げる。「僕はときどき、ビニールハウスを燃やしてます」。

第一印象としてこの映画、空気感がいい。
理由の1つにキャラの関係性が挙げられる。
主人公のジョンスは早々に一人の女ヘミと出会う。

彼女は久し振りに再会したジョンスの幼なじみ。
普通の映画だとヒロインは他人であることが多く、物語が進むにつれて男との距離感が縮まるもの。
この映画は幼なじみということもあって序盤から二人がフランクに会話しており、二人を眺めていてすごく心地良くて、新鮮味が感じられた。
小さな要素であるが、この設定なかなか侮れないと思う。

ジョンスは、整形して美しくなったヘミに惹かれている様子。
しかし彼はどこかみすぼらしい。
家もボロボロだし、着ている服も安っぽく見える。
対してヘミも裕福ではないし、むしろ貧乏。だが、見た目はキレイで明るい。ジョンスは彼女とは釣りあわない印象を受ける。

そんなヘミはアフリカ旅行から帰ってくると一人の男を連れてくる。
ベンと名乗る男はジョンスにはない”物”を多く持つ。つまり金持ちである。
ヘミを観ると、何となく彼に惹かれているように見える。

普通、そんな二人を観ると嫉妬するとは思うのだが、ジョンスはそういった感情を見せない。
何を考えているかわからない。
それは他の2人も同様だ。
ヘミはなぜ、ジョンスに声をかけたのか。なぜアフリカに行き、なぜベンに惹かれているのか。
ベンも裕福でありながら、どこか物足りない様子。なぜなのか。

村上春樹らしい、つかみどころないキャラたちが織り成す空気感が絶妙だ。
彼の世界観を上手く再現しており、キャラが感情を見せないだけでここまで物語がミステリアスになるのか、と感嘆させられた。

本作の変更点として納屋ではなくビニールハウスとなっている。
韓国では納屋よりビニールハウスの方が多く見られるので自然だということ。

ジョンスの父が裁判中というのも原作にはない設定。
これがどんな意味をもたらすのか。
他にも多くの脚色シーンが見られ、もはや原作とは別物の物語となっている。

いくつか不満点もあって、序盤にジョンスの目的が提示されないので、何に向かって物語が進むのかがよく分からず、集中力が切れがちになる。
これも村上春樹らしさとはいえるのだが。

あと、つかみどころがないのが良いと言ったが、それを壊してしまうシーンがある。
ベンが中盤で「ビニールハウスを焼く」と、自分の趣味を笑いながら明かすのは何だか寒い。
不気味さを与えたいのか何なのか、浅く感じてしまうのでいらない。真顔で言ってほしい。

ジョンスがヘミに対しての感情を言葉にしてしまうところも気になる。
途端に人間感がでてしまってちょっと残念。
ヘミがあるシーンで裸になり、そのことについての発言もちょっと萎えてしまった。
できたら最後まで感情を言葉にしないでもらいたかった。

本作の一番の肝はヒロインが魅力さ。
THE 小悪魔といった感じで、3人の中でも突出してつかみどころがない超然としたキャラクター。
こういった魔性に惹かれてしまうジョンスには強く共感できる。

鑑賞後にイ・チャンドン監督のインタビューを漁っていたのだが「無気力なジョンス、物質的には豊かだが満足できないベンに対し、彼女だけが人生の意味や人生の真の美しさを探し求めている」と語っていて納得していた。
彼女はやけに3人の中でも生命力がみなぎっている。
彼女が美しく見えるのは、誰よりも前向きに生きているからだろう。
能動的に生きる人間は魅力的だ。

本作のテーマは「見えるものと見えないもの」
ヘミが序盤で「ここにミカンが“ある”って思わないで、ミカンが“ない”ことを忘れたらいい」とパントマイムで語る。

ないものをあると思い込むのではなく、ないものはないと認め、探しに行くことが大事だと言うこということだろう。
例えば夢。
ないならないで仕方ない。
ないと認めて探すことを楽しんだらいい。そしたらいつか見つかる。

ジョンスは金や物がなく、小説家志望でありながら何を書いていいかわからない、無気力な日々を過ごす。
ベンは金や物はあるが、満足できない。何をしていいのか分からない。
ヘミは金や物がないが、常に何かを探しており、人生を楽しんでいる。

この映画、多くの伏線(謎)が解明されないまま終わってしまうので、万人ウケする物語とはいえない。
この辺りは村上春樹らしさの残る映像化作品なので、雰囲気を楽しみたい人向けの狭さがある。
韓国では約90本翻訳されているすべてをイ・チャンドン監督は読破したようなので、世界観はかなり再現されていると思う。
個人的には結構好き。
余韻も強く、鑑賞後、時間が経つにつれて愛着が増すタイプの映画。

ジャケットがやたらかっこいいい。
メインの3人が何かに思いを馳せるような表情でど真ん中に映っているのが良いし、色味も絶妙。

バーニング 劇場版の作品情報

■監督:イ・チャンドン
■出演者:ユ・アイン スティーヴン・ユァン チョン・ジョンソ
■Wikipedia:バーニング 劇場版
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):95%
AUDIENCE SCORE(観客):82%

バーニング 劇場版を見れる配信サイト

U-NEXT:○(有料)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(吹替・有料)○(字幕・有料)
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:-
※2019年11月現在

【h4】バーニング 劇場版と関連性の高いおすすめ映画
バーニング 劇場版の裏ジャンルである【金の羊毛】に分類される映画。

『ペンギン・ハイウェイ』★★★☆☆3.5
小学4年生のアオヤマ君の住む町で、ある日突然、ペンギンが大量発生する。常日頃から研究することを趣味とする研究者気質のアオヤマ君は、「ペンギン・ハイウェイ研究」と称し、この現象を原因を探ることとなる。ある日、通っている近所の歯科医の受付のお姉さんがたまたまペンギンを出現させるシーンを目撃する。さらにクラスのハシモトさんが、森の奥に広がっている草原に「海」と称した謎の浮かぶ球体を発見し……。

この映画も謎を残して幕を閉じる。
お姉さんがやけに魅力的。
観終わったあと、彼女の存在が尾を引いてなかなか忘れられないキャラとなる。
蒼井優の声がまた絶妙に良い。低い声で色気がないんだが、包容力があって心地いい耳障り。

U-NEXT:○(有料)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(Blu-ray)
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:-
※2019年11月現在

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名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。