映画の海

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④難題に直面した平凡な奴

映画『ホテル・ムンバイ』ネタバレなしの感想。イスラム国のテロリストがインドの五つ星ホテルを占拠する

投稿日:11月 14, 2019 更新日:

■評価:★★★★☆4

「信仰心がもたらす強さと危うさ」

【映画】ホテル・ムンバイのネタバレなしのレビュー、批評、評価

信仰の正しい形とは何なのか。

私は以前、某新興宗教の会館に連れて行かれたことがある。
新興宗教に関心がないのでついて行きたくなかったのだが、当時1年以上やっていたバンドのメンバーに何も聞かされず、騙される形で連れて行かれてしまった。
車で結構な距離を走った先にある会館には何十人もの信者がおり、このまま監禁されるんじゃないかって思って恐怖を抱いた。
もちろん入信は徹底拒否したのだが、彼らはこれを正しいことだと信じて行ったのだろうか。

今読んでいる「その女アレックス」という小説のなかに、病気に苦しむ妻を持つ男が出てくる。
彼の車のフロントミラーにマリア像のストラップが垂れ下がっていて、こう語る。「信仰なんて意味ないかもしれない。でも俺には信仰がないとやってられないんだ」。

生きていると誰だって、誰かにすがりたいと思ってしまうくらいに苦しいときがある。
そんなとき、神にすがることが心の安寧となるのなら。
彼のような人間が信仰するのが、正しい形の一例なんだろう。

『ホテル・ムンバイ』は2008年に起きたムンバイ同時多発テロの際に、タージマハル・ホテルを占拠したテロリストから500人以上の宿泊客をプロとしての誇りをかけて守ろうとしたホテルマンを描く。
テロを通じて信仰の在り方についてを描いた史実の物語となっている。

インド最大の都市・ムンバイに、青年アルジュンは臨月の妻と幼い娘と暮らしていた。彼は街の象徴でもある五つ星ホテルのタージマハル・ホテルの従業員であることに誇りを持ち、日々仕事に邁進していた。この日もいつも通りのホテルの光景だったが、武装したテロリスト集団が突如として銃を乱射して占拠する。500人以上の宿泊客と従業員たちに容赦なく発砲するテロリストたち。1400キロ以上離れたニューデリーにいる特殊部隊が到着するまで数日かかるという絶望的な報告を受け、アルジュンら従業員たちは「ここが私の家です」と言ってホテルに残り、逃げずに宿泊客を救う道を選ぶ。

本作はインドのムンバイが舞台となっているがオーストラリア人監督によるオーストラリア映画となる。(厳密には、オーストラリア・インド・アメリカの合作)
なぜオーストラリア人がインドの舞台を映画にしようと思ったのかは後述したい。

この映画を観て、特に印象に残っているのはテロリスト描写だ。
敵となるイスラム原理主義のテロリストのキャラ立ちが凄く、序盤は息もできないほどにスリリングなシーンが続く。

テロリスト連中は、普通の民間人に紛れてホテルに侵入し、何の躊躇もなく客や従業員たちに向けて銃を乱射する。
まるで北野映画を観ているかのような瞬発的バイオレンスだ。
ホテルの従業員や客、テロリストなど次々と視点が切り替わるので、いつ視点人物に銃弾が撃ち込まれるのか、ビクビクしながら画面を見守ることとなる。

中盤、突如として テロリストの一人の内面が描かれる。
ここから物語のカラーがガラッと変わり、ヒューマンドラマへと切り替わる。
序盤と中盤ではまるで別物の映画で、本題はここから始まる。

あくまで本作で監督が描きたいことは信仰心の是非にある。
ホテルの客の一人、アメリカ人建築士の夫を持つ奥さんが祈るシーンが本作でもっとも印象的だった。
詳細は伏せておくので、実際に見て確かめてもらいたい。

観終わったあとに監督のインタビューを読んで知ったのだが、このエピソードは史実だそうでビックリした。
監督は事件のドキュメンタリーを見てこのエピソードが強く印象に残り、本作を制作するきっかけの一つとなった。
監督の気持ちは非常に理解できる。
このシーンは私も一生忘れることがないだろう。
ネタバレなしで語るのは難しいのだが、信じることの危うさというものを描いている。

ちょっと話が変わるが、頭のいい人ほど疑り深いという。
そりゃそうだ。信じるって、ある意味思考停止しているようなもの。
頭を使いたくない人ほど「信じる」という楽な選択をしてしまい、結果的には搾取される側となる。
だから頭のいい人や、奪う側の人間は人や物事を簡単に信用しない。
本作ではこの事実を惨い形で描いている。

本当にイスラム原理主義はアホとしかいいようがない。
彼らが「神」という言葉を口にするたびに虫酸が走る。
どう考えても神は人の命を奪うことを望んでるわけない。
もしどんな大義名分があろうと、誰かに自分の家族の命が奪われたら悲しいだろう。

テロリストの一人がホテルの給仕カートに乗っていた食べたものを食べて「うめー。お前もこれ食ってみろよ」と言うと、もう一人が「それ、豚肉だぞ」と言ってくったやつが吐き出すシーンがある。
ひどく滑稽だ。
イスラムにとって豚食は禁止されている。
こういった信仰上のルールは徹底するのに、人の命はなんとも思わないんだね。

所詮実行犯は下っぱだし、本当に罪深いのは彼らの強い信仰心を悪用するテロ団体の幹部連中だ。
その部分はかなり印象的に描かれており、監督も過激化派の取材を繰り返す中で、そういった若者を洗脳して捨て駒にする団体があったという。
もちろん一番罪深いのは幹部だが、信仰心によって思考停止となり、人の命を奪うことに疑いを持たない彼らも同罪だ。

テーマである信仰心を対比として描いているのは良かった。
宗教の負の側面を見せる犯人サイドに対して、主人公が正しい信仰の形の一つを提示する。
彼のパグリー(頭に巻くターバンの一種)にまつわる語りには胸にぐっときた。
あなたがこれからこの映画を観るのであれば、ぜひテーマに注目して観てもらいたい。

本作はホテルで働く従業員がヒーローといった売り文句となっていたが、正直彼らがそこまで活躍した印象は強くない。
史実をベースにしているので、これがリアルなんだろう。
それに本作のテーマを描くにあたって従業員のヒーローっぷりを誇張するより、テロリストサイドの内面を描いた方が観客に響くという判断を下したのだろう。
実際に監督もインタビューではテロリストがこのような蛮行に至った事情というものが気になったとのこと。
その詳細もこの映画を観て確かめてもらいたい。

すでにタージマハル・ホテルは再建されていて、今ホテルで働く従業員の多くが当時戦った戦士だそう。
この映画を観ると一度は泊まってみたくなってしまう。

ホテル・ムンバイの作品情報

■監督:アンソニー・マラス
■出演者:デーヴ・パテール アーミー・ハマー ナザニン・ボニアディ
■Wikipedia:ホテル・ムンバイ
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):75%
AUDIENCE SCORE(観客):86%

ホテル・ムンバイを見れる配信サイト

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※2019年11月現在

ホテル・ムンバイと関連性の高いおすすめ映画

ホテル・ムンバイの裏ジャンルである【難題に直面した平凡なやつ】に分類される映画。

『K-19』★★★☆☆3.5
米ソ冷戦下、ソ連の原子力潜水艦K-19は航行実験において、原子炉の冷却装置が故障してしまう。メルトダウンも視野に入ってしまった危機的状況のなか、艦長と搭乗員は放射能の危険と隣り合わせで奮闘する。

1961年7月4日で実際におこった原子炉事故を基にした内容。
DVDが発売された15年以上前に一度観たきりの映画だが、かなり悲惨な内容で未だにストーリーラインが記憶に残っている。
監督はタイタニックでおなじみジェームズ・キャメロンの元奥さんのキャスリン・ビグローで、とても女性が撮ったとは思えない骨太ノンフィクションドラマ。

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Amazonプライムビデオ:○(DVD)
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※2019年11月現在

-④難題に直面した平凡な奴

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名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。