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⑤人生の節目

映画『家族を想うとき』ネタバレなしの感想。フランチャイズの宅配ドライバーとして独立した男とその家族の没落を描く

投稿日:12月 18, 2019 更新日:

■評価:★★★★☆4

「イギリスにおけるゼロ時間契約労働者(フランチャイズ)の厳しい現状」

【映画】家族を想うときのネタバレなしのレビュー、批評、評価

2018年、イギリスに住む53歳のドン・レーンさんが糖尿病で息を引き取った。
彼はDPDという大手運送業者で配達ドライバーとして働いていた。
DPDは社員を雇うという普通の雇用形態を取っておらず、業務委託という形でドライバーたちと契約して、荷物1個配達するごとに報酬を与えていた。
つまりフランチャイズ契約である。

2014年に糖尿病を患ってから、医師の診察を必要としていたドン・レーンさんだが、予約をキャンセルしてハードな仕事を繰り返していた。
1日休むごとに収入がなくなるだけでなく1日150ポンド(約23000円)の罰金が課せられてしまうため。(半休だと75ポンド)

DPDはドライバーには制服着用を義務付けていて、それもレンタルしなければならなかったり、外の運送会社と掛け持ちは許さないなど、厳しい規律を遵守させていた。

レーンさんの体調は日に日に悪くなり仕事中に何度も倒れてしまう。
さらに糖尿病が原因で視力まで低下してしまい、2017年に眼科の診察を受けようとするが、それでもDPDは休んだ彼に罰金を科してしまう。
結果的に彼は命を落とすことになる。

ケン・ローチ監督はこのニュースに衝撃を受け、彼の家族に取材をして本作を撮影することになる。

イギリスに住む元建築労働者のリッキーは、マイホーム購入の夢をかなえるため、フランチャイズの宅配ドライバーとして独立する。「勝つも負けるも自分次第。できるか?」と宅配会社の本部のマロニーに煽られ「ああ、長い間こんなチャンスを待っていた」と答える。妻アビーは在宅介護士として1日中車を走らせ、利用者の家を回っている。リッキーの配達事業に使う車などの経費を自分でまかなう必要があり、貧乏なリッキーはアビーの車を売る以外に資金を作る方法はなかった。しかし1日14時間週6日、2年も働けば夢のマイホームが手に入る。アビーは仕方なくバスを使って介護先の家を回ることになるが、長い移動時間のせいで、16歳の息子セブと12歳の娘ライザとの時間が取れなくなる。そんななか、リッキーはある事件に巻き込まれる。

あらすじを見るだけで悲惨である。
見ていてひたすら辛い。その上なかなか強烈な結末を突きつけてくる。
たぶん多くの観客は戸惑うだろう。私もこの終わり方にはびっくりさせられた。
でも、この映画のテーマを考えるとこの終わり方を選択する意図は理解できる。

本作は新自由主義経済における中流階級を没落を描いている。
新自由主義とは政府などによる規制を緩め、自由競争を重んじる考え方を指す。
規制や過度な社会保障は政府に負担がかかりすぎ、企業や個人の自由競争の妨げになるとのことで、新自由主義に基づいた経済施策が取られるようになる。

そんな感じで、【自営業】ということでリッキーは夢を見させられ、大きな期待を持って運送の仕事を始める。
すべてが自分の裁量に任せられた、まさに個人の自由を尊重された働き方である。

しかし序盤から違和感を与えてくる。
リッキーは身銭を切ってレンタルした運送車で営業所まで行って荷物を詰め込み、配達する。

これ、正社員の仕事と何が違うのだろうか。
何なら正社員は金を払って仕事をする、なんていう余計な負担はない。
しかも、リッキーの仕事は大して報酬が大きいわけでもない。
本部のマロニーからは「1日100個運べ」と言われるが、配送単価は日本では1個につき150円程度だそう。
1日100個運べば15000円にはなるが、10時間勤務したとして1時間10個。6分に1個なんて大変すぎる。受取人が不在なんてことになったら、時間の浪費だ。(余計な不在票を切らせてごめんよ)

こんなのドライバーに責任だけを押し付けられているだけではないか。

そんな感じではあるが、大変なだけではない。
娘を運送車に乗せて、一緒に楽しく配達したりと幸せな一面も見られる。
何なら愛嬌のある娘は、客からも気に入られてチップを貰えたりするのだから微笑ましい。
このシーンは凄く良かった。
「こんな可愛らしい子供のためならお父さん頑張っちゃうぞ!」ってな感じで仕事を頑張るリッキーが物凄く理解できる。

あと、奥さんのアビーも良かった。
声に特徴があって優しく、仕事も介護士ということもあり、彼女の存在がリッキーにとっての精神的な支えとなる。
ケンカしてしまうこともある。
でも奥さんは決して旦那の敵ではないのだ。

自分が辛いとき、周りが敵だらけに想えてしまったとき、一人だけでも自分を肯定してくれる人間がいたらどれだけ救われるか。
そんな人が自分の近くにいたら、一生尽くしたいと思ってしまう。

しかし、上映時間が進むにつれて、そんな幸せな家庭に暗い影を落としていく。
終盤に差し掛かるあたりでは、あちこちですすり泣く声が聞こえてきた。

尿ビンのインパクトも強烈である。(厳密にはペットボトル)
序盤でリッキーが運送の仕事を始める前に、仲間から尿ビンを手渡される。
「ふざけんなよ」と冗談として受け止めるのだが……。

あとの展開は、直接見て確かめてもらいたい。
フランチャイズ、恐るべしである。

フランチャイズ問題といったら、日本ではセブンイレブンが挙げられる。
今年の2月、大阪府にあるセブンイレブンのフランチャイズ店が「24時間はもう限界」として、営業時間を短縮し、本部と対立していることがニュースとなった。
オーナーは、妻をガンで亡くしてから人手不足が顕著となり、毎日店舗で働いていた。
時短営業にしても13時間働き、24時間の日はなんと16時間働かないと店が回らなかったという。
それでも、本部は「24時間に戻さないと契約を解除する」と言い渡し、応じない場合は違約金1700万の請求してきたという。

間違ってもコンビニ経営なんて手を出してはいけない。
バイトのが100倍マシである。

あとこの映画、こういった労働に関する問題提起をするのは良いが、結婚というものへのイメージもぶち壊してしまう弊害もはらんでいるようにも思える。
もちろんリッキーの家族にさまざまな問題を抱えてしまう本質的な原因はフランチャイズ制度によるものだ。
でも普通の家庭を築くことの大変さも同時に痛感させられた。
結婚はこんなにも大変なのか。

家族を想うときの作品情報

■監督:ケン・ローチ
■出演者:クリス・ヒッチェンズ デビー・ハニーウッド リス・ストーン ケイティ・プロクター
■Wikipedia:家族を想うとき
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):85%
AUDIENCE SCORE(観客):-

家族を想うときを見れる配信サイト

U-NEXT:-
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:-
TSUTAYA TV:-
Netflix:-
※2019年12月現在

-⑤人生の節目

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名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。