映画の海

約1100本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます。(直近で観たものに限る。たまにアニメ・ドラマ・小説も)面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

②金の羊毛

映画『泣き虫しょったんの奇跡』ネタバレなしの感想。一度挫折したサラリーマンが再び将棋のプロを目指す

投稿日:

■評価:★★★★☆4

「好きなことをやり続けることは人生を豊かにする」

【映画】泣き虫しょったんのネタバレなしのレビュー、批評、評価

誰もが一度は、好きなことがいつの間にか苦痛に感じるようになってしまった経験をしているだろう。
本作の主人公・しょったんも好きだった将棋に楽しみを見出すことができなくなり、挫折する。
本作を観ていて、それが天才と普通の人との違いの象徴の1つのようにも思えた。

真の天才はどこか感覚的に楽しさを追求し続けることが上手い。
成果を目的とせず、楽しさを優先するあまりに結果的に莫大な成果を上げてしまう。
これはFACEBOOKの創業者マーク・ザッカーバーグの伝記映画である『ソーシャル・ネットワーク』でも描かれている。

成果を目的とすると、ある程度の成果が出た段階で満足してしまう。
あるいは成果を目的とすると、思った通りに成果が出せないときに挫折する。
こういったことに悩まされがちなのが凡人だ。

しょったんはマーク・ザッカーバーグのような突き抜けるほどの天才ではない普通の人間。
そんな彼が再び立ち上がる瞬間は、本作の見所の一つだ。

生まれてから小学5年生までの10年間、何かに熱中した経験のない”しょったん”こと瀬川晶司。中学生でプロ棋士になった谷川浩司のニュースを見て、初めてプロ棋士という職業を知る。そんな時、隣家に住む鈴木悠野も将棋が好きなことを知り、二人は将棋に熱中するようになる。父のすすめで二人は将棋道場に通うようになって上達し、しょったんは中学3年生で奨励会の試験を受けて合格した。しかし奨励会には年齢制限という鉄の掟があり、26歳になるまで四段(=プロ)にならないと退会しなければならない。22歳の夏に三段に昇段したしょったんだが、残されたチャンスを幾度も逃してしまう。最後の三段リーグであっけなくチャンスは潰えてしまい……。

年齢制限によって一度は夢を諦めた男が、再びプロを目指した実在の人物・瀬川晶司の伝記映画となる。
タイトルの通り、観ているこちらまでもらい泣きしてしまうほどに素晴らしい内容だった。
印象としては非常に生々しい。

普通、伝記映画といったら超人的な才能を発揮して次々と苦難を突破していく物語をイメージしがちだ。
前置きに書いた『ソーシャル・ネットワーク』はまさにそんな人物を描いている。
マクドナルドの創業者レイ・クロックを描いた『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』では、彼の突き抜けるほどの”嫌われる勇気”にビックリさせられる。

瀬川晶司は上記の2人や彼と同じ年の羽生善治、あるいは藤井聡太のような天才児ではなく、普通の人だ。
(羽生善治は”ひふみん”こと加藤一二三、谷川浩司に続く史上3人目の中学生棋士。三段リーグ突破の最年少記録14歳1か月でプロとなったのが藤井聡太)

彼は世間の将棋ブームの波に乗って将棋を指すようになる。
その際に担任の先生に褒められ、プロ棋士を志す。

彼が凡人である理由の一つに、彼は奨励会(プロ棋士養成機関)で出会った仲間と馴れ合ってしまうところが挙げられる。
確かに試合に負けたときは仲間と遊んだりすれば気分転換できるかもしれない。
しかし藤井聡太は負けた日こそ、家で一人で黙々とその日の将棋を振り返っていた。

しょったんも心の声で「本当にすごいやつは仲間とつるまず、一人で歯をくいしばって詰め将棋をする」なんて言いながらも、馴れ合いを辞めることができず、努力しきれなかった。
彼の行動に理解できる人は多いのではないだろうか?

私も経験があるし、仲間とつるむことを正当化し続けた結果、多くの時間を浪費してしまったことを未だに後悔している。
仲間といると不安にならずに済む。
結果的に悩まず、楽しい時間を過ごせる。
悩みすぎず楽観的になることは大事だが、それと現実的な問題から目を逸らすこととはまるで意味が違う。

結果的にしょったんは26歳までに四段に昇格できず、プロの道を閉ざされる。
この辺りに生々しさを覚えるし、観ている多くの人はしょったんに共感できるだろう。
マーク・ザッカーバーグのような天才児の伝記映画とはまるで違う面白さがある。

そんなしょったんは人間性に優れており、多くの人を惹きつける。
特にしょったんの将棋を初めて認めてくれた小学校の担任の先生は印象的に描かれる。
(先生に扮した松たか子がやけに母性ムンムン)

将棋を挫折してからも、彼女の後押ししてくれた言葉がずっと引っかかるのだ。
子供の頃に自分を肯定してくれた事実は大きい。
それが自信の礎になることは珍しいことではない。

先生はしょったんの技術だけでなく、本能のままに将棋を打ってる姿を見て、心から楽しんでいることを感じ取ったから褒めたのだろう。
そんな彼女の心から出た言葉はしょったんに刺さる。
しょったんが迷ったり悩んだりしたとき、先生のかつての言葉を思い出すことで初心に帰れるのだ。

先生があるときに送った手紙のメッセージがとても力強くて、何だか私まで励まされてしまった。
こんな素晴らしい先生と出会えたしょったんをうらやましく思ってしまったほど。

父もまた優しくて素晴らしい人間性の持ち主だ。
将棋を挫折してだらだら過ごすしょったんに対して、兄は厳しく当たる。
だが父は将棋に挫折してしまって腐っている彼に優しい声を投げかけ続けるのだ。
「ゆっくり休んだらまた何か見つけたらいい。俺はまだまだ稼げる年齢だ」なんて言って安心させてくれたりして。
自分がしょったんだったら、こんなことを言われたら泣いてしまうかもしれない。

観終わったあとは幸せな気持ちになれた。
ハートフル満載の素晴らしい物語。
新年早々にこんないい映画と出会えて良かった。

泣き虫しょったんの作品情報

■監督:豊田利晃
■出演者:松田龍平 野田洋次郎 永山絢斗 染谷将太 渋川清彦
■Wikipedia:泣き虫しょったん

泣き虫しょったんを見れる配信サイト

U-NEXT:○(有料)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(有料)
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:-
※2020年1月現在

-②金の羊毛

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。