映画の海

約1100本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます。(直近で観たものに限る。たまにアニメ・ドラマ・小説も)面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

②金の羊毛

映画『1917 命をかけた伝令』ネタバレなしの感想。若い兵士が1600人の同胞を救うため、1つの伝令を届ける

投稿日:2月 19, 2020 更新日:

■評価:★★★★☆4

「兄を救うため、1600人の同胞を救うため」

【映画】1917 命をかけた伝令のレビュー、批評、評価

2020年2月9日に開催された第92回アカデミー賞において、撮影賞、視覚効果賞、録音賞を獲得した戦争映画となる。
「全編ワンカット」が宣伝文句として使用されている通り、疑似的にだがワンカットで全編がつながるように構成されている。
実際には長回しで撮影された映像をワンカットに見えるように上手く編集している。(長回しの最長9分)

サム・メンデス監督はイギリス人ということがあってか、どこかハリウッド映画とは一線を画す映像作りが印象的。
監督デビュー作でありながら第72回アカデミー賞で作品賞を受賞した『アメリカン・ビューティー』でも、その特徴が顕著に表れている。
平凡な核家族が崩壊する過程を描くストーリー。
地味なテーマでありながら、美しい音楽や映像が非日常感を生み出している。

『1917 命をかけた伝令』でもサム・メンデス特有の美しい風景映像がたくさん映されており、大きな見どころの1つにもなっている。

1917年4月6日、ヨーロッパは第一次世界大戦下にあった。その頃、西部戦線にいたドイツ軍は後退していた。だが、その行動はアルベリッヒ作戦に基づく戦略的なものであり、連合軍をヒンデンブルク線まで誘引しようとしていたのだ。イギリス軍はその事実を航空偵察によって把握していた。エリンモア将軍は2人の若い兵士、トムとウィリアムを呼び出し「このままでは進撃中のデヴォンシャー連隊が壊滅的な被害を受ける。彼らに情報を伝えるための電話線は切れてしまっている。君たちには直接現地に出向いて撤退の伝令を伝えてほしい」と命じた。デヴォンシャー連隊が有する1600名の将兵のなかにはトムの兄・ジョセフもいた。彼らを救うため、トムとウィリアムは決死の覚悟で無人地帯に飛び込んだ。

第一次世界大戦における西部戦線は、ドイツ対ギリス・フランスをはじめとする連合国の戦いとなっている。
戦線はベルギー南部からフランス北東部にかけて構築されており、塹壕戦を中心に戦争が繰り広げられている。
そのため、この映画は見事に再現された塹壕が何度も登場する。

映画についてだが、まずドラマが描けていることにびっくりした。
ワンカット映画=時間軸をコントロールできないことを意味する。

普通の映画はカットして時間を飛ばしたり、過去である回想シーンを映したり、見せたい映像のみをつぎはぎする形となる。
つまり、カットをすることによって、自在に時間経過によるキャラクターの感情の変化を二時間で見せられるのだ。
何年分、何十年分だろうと。
数日分より数年分ため込んだ想いのほうが、観客の心は揺さぶられるもの。

が、ワンカット映画では描けるのはリアルタイム二時間分のキャラクターの感情の揺れのみ。
ドラマが描けないという点が、ワンカット最大のデメリットだと私は思っている。
『ウトヤ島、7月22日』はワンカットのデメリットが全面に出てしまっており、映画としては非常に退屈な内容だった。

あと、『1917 命をかけた伝令』のような疑似ワンカットだと、観客がついつい編集点を探してしまいがちなのも難点の1つ。
画面に人が覆いかぶさったり、発光シーンなどでさりげなく編集を入れているのだ。
こういった探す作業が映画への没入を阻んでしまう。
私は途中で気づいて、すぐに物語に集中するようにシフトチェンジした。

もちろんワンカットには大きなメリットもある。
1つは、臨場感が桁違い。

そもそも人生はワンカットだ。
カットで時間が飛んだりするほうがおかしい。
なので、ワンカット映画は、まるで映画の世界に飛び込んだかのような追体験ができる。

あと、リアルなワンカット映画だと編集する必要がないため、金もかからないメリットがある。
『ヴィクトリア』はリアルワンカット映画として有名で、わずか2テイクで撮影を終わらせている。

英語のwikipediaページだが、ワンカット映画がまとめてあったので載せておく。こちら
関心があったら翻訳でもして見てみるといい。

話を戻すが、本作がわずか二時間でドラマを描けている理由は戦争にある。
戦争という特殊かつ、これほどまでに極限状態だとさまざまなことが起きるのは必然だ。
最後には涙腺も刺激してきたので、ちょっとびっくりしてしまった。
まさかワンカット映画でここまで感情を揺さぶられるとは思わなかった。

あと、サム・メンデスは雰囲気作りが上手すぎる。
主人公ウィリアムは伝令を届ける際、何度も死線をくぐり抜ける。
ウィリアムが戦場を潜り抜けた先に広がる平原の美しさたるや。息を飲むほどの美麗さに思わずうっとりしてしまった。
まさか戦争映画で心が浄化されるような体験ができるとは。

激しい映画なのにピアノ音楽がいい感じに儚さを演出している。
サム・メンデスは音楽の使い方もうまいので、本当に抜け目ない男である。

エンタメ的演出もうまかった。
本作の戦闘は前述のとおり、塹壕戦がメインとなる。
序盤、ウィリアムらは伝令を届けるため、塹壕を登って地上に立つ。
そこに広がる世界がまさに地獄絵図である。
この先の苦難を予期させる展開で良かった。

なぜワンカットで撮ったのかもよく分かる。
この物語はサム・メンデスが祖父のアルフレッド祖父から聞いた話をベースにしている。

戦争の臨場感を伝えるには確かにワンカットが適している。
さらに「伝令を伝える」というミッションが非常にシンプルなので、ワンカットとの親和性が高い。
撮影は過酷を極めたと聞いているが、どう考えてもふつうの映画よりも疑似的にワンカットに見せるほうが大変だ。
その苦労のかいあって、見事にワンカットに見えるし、その効果はしっかりと観客に伝わってきている。

なぜ今の時期に第一次世界対戦もの?
といった非必然性から、アカデミー賞作品賞を逃した、なんて言われている。
しかし私はこの映画が好きになったし、最高の映画体験をさせてもらって大満足である。
やっぱりサム・メンデスは素晴らしいし、彼の映画作りの能力の高さを再認識した。

そういえば地味に衣装もよかった。
現代戦っぽくないクラシカルな軍服には惹かれるものがある。
本当にこの映画、良いところばかりである。

『ウトヤ島、7月22日』を観た直後にサム・メンデス最新作がワンカットであると聞いて、ひどく幻滅したもの。
蓋を開けてみたら、思っていた以上にエンタメしていて最高に楽しめた。
映像の迫力も素晴らしかったので、もう一度劇場で観たいくらい。

歴史や戦争の小難しいストーリーは一切ないので、戦争映画に関心がない人こそ楽しめる。
むしろ戦争映画の導入として最適である。

1917 命をかけた伝令の作品情報

■監督:サム・メンデス
■出演者:ジョージ・マッケイ ディーン=チャールズ・チャップマン
■Wikipedia:1917 命をかけた伝令
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):89%
AUDIENCE SCORE(観客):88%

1917 命をかけた伝令を見れる配信サイト

U-NEXT:-
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:-
TSUTAYA TV:-
Netflix:-
※2020年2月現在

-②金の羊毛

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。