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⑨組織のなかで

海外ドラマ『チェルノブイリ』ネタバレなしの感想。チェルノブイリ原子力発電所事故の際の政府の隠蔽・人々への影響を描く

投稿日:3月 12, 2020 更新日:

■評価:★★★★☆4.5

「科学者としての正義」

【海外ドラマ】チェルノブイリのレビュー、批評、評価

1986年4月26日1時23分(モスクワ時間)。
ソビエト連邦(現在のロシア)のチェルノブイリ原子力発電所の4号炉で起きたチェルノブイリ原子力発電所事故を題材とした海外ドラマとなる。

世界では過去に多くの原発事故が発生しているが、チェルノブイリはその中でも最悪の原子力事故と評されている。
のちに定められた国際原子力事象評価尺度(INES)において最も深刻な事故を示すレベル7に分類される。
福島の原発事故も同様のレベル7だが、チェルノブイリは被害者が桁外れに多い。
未だに公式で発表されていないので正確な数字は不明だが、ドラマの最後に推定数を教えてくれているので確認してみるといい。
余談だが福島では、原発による災害関連死を含めた死者は1600人とされている。

本作は米IMDbでの採点が過去最高の9.7点(10点満点)と、『ゲーム・オブ・スローンズ』を超えて海外ドラマ史上最高評価を獲得している。

【B】1988年4月、モスクワで監視下にあった51歳の科学者が、ある告発の録音テープを秘密の場所に隠し、首を吊って命を絶った。彼はチェルノブイリ原発事故の調査と収束を指揮した人物だった。1986年4月26日未明、ソ連にあるチェルノブイリ原子力発電所内で爆発が発生する。責任者のディアトロフ副技師長は、タービンホールから出火という報告を受ける。原子炉の爆発の可能性を捨て、非常用タンクが爆発したのだと思い込んで職員らに対処の指示をする。

福島を知る日本人からしたら、決して他人事とは言えない原発事故のドラマだ。
本作は多くの登場キャラクターが実在の人物で、史実に基づいた内容となる。

原発ということで難しい内容をイメージする人も多いだろうが、原発や放射線を例え話などで分かりやすく説明してくれているので安心していい。
とにかくクオリティが凄すぎる。
内容も壮絶で、圧倒され続けた五時間だった。

『チェルノブイリ』はアメリカ制作のドラマにも関わらず、全五話という短い時間に収まっている。
私がこのドラマを高く評価する1つに、この長さが挙げられる。
アメリカのドラマはそれなりの視聴数を獲得していれば、何シーズンにも渡って制作され続ける。
そのため間延びはひどいし、長期化したドラマの大半は面白さが尻窄みとなって終わる。
まるで昔の少年ジャンプである。

本作はコンパクトなサイズで必要なエピソードのみが描かれる。
そのため、あまりの濃密さに観ていて息苦しくもなる。
辛い現実が延々と五時間、画面に映され続けるのだ。

特に印象的かつ、辛かったのは2つ。
一つはやはり原発事故なだけあって、放射能によって被爆する人間が続出する。

最初のうちは、被爆した職員は日焼けでもしたかのように肌が赤くなる程度で大したことなさそう。
だが、一話進むごとに彼らの体の組織が崩れ始め、無惨な姿へと変容していく。
最終的にはあまりの惨さに観ている自分まで被爆したかのように肌がうずき出す始末。

監督、および制作スタッフらは被爆した人間を再現するため、多くの資料を参考にしたのではないだろうか。
制作スタッフらもこのドラマ を制作するにあたって多大な精神力、体力の消耗が予想される。

日本人は被爆した姿を『はだしのゲン』で観た人が多いだろう。

デフォルメされた漫画ですら、観ていて気分が悪くなるほどに被爆の辛さを見事に描いていた。
だが、本作は生々しい姿が画面に映される。
覚悟して観るといい。

もう一つは決死隊の存在。
つまり、命を捨てる覚悟で原発の後処理に駆り出される連中を指す。

序盤では原発の火災を止めるために5000トンの砂(ホウ素とケイ素)を投入する。
確かに火災は止まる。
だが、核燃料の熱が砂を熱し、まるで溶岩のように炉心を溶かし出す。

その炉心溶融物が水の入ったプールに流れ込んで水蒸気が発生し、爆発の危機へと発展するのだ。
仮に水蒸気爆発が発生すると、半径200キロに巻き込むほどの放射線が拡散される事態に陥る。
ソ連だけではなく、ウクライナやポーランド、ドイツなどの近隣諸国にも影響が及ぶ。
それらの国の水や食料が汚染され、人が住めない土地になる。少なくとも100年は。
猶予はあと2日。

そのため、プールの水を抜くための作業員として三人の志願者が立ち上がる。
当然、施設内なので高濃度の放射線が蔓延している。
決死隊だ。

我々は何かを勇気出して行うとき「どうせ死にやしないから、思いきってチャレンジしろ」なんて己に言い聞かせて鼓舞させたりする。
だが、この三人は本当に命を落とすのだ。
世界を救うためとはいえ、救った先の世界に自分はいない。
こんなむごい話があるだろうか。
なぜ、彼らが立ち向かえるのか。

ちなみにこれは、まだまだ地獄の入り口である。

事故発生時の施設内の放射線量は3.6レントゲン。
これは胸部X線(胸部レントゲン)の400回分に相当する。
しかもだ。
これは簡易式測定器の上限。つまりメーターを振り切っている。
いったい、本当の放射線量はどれくらい膨大なのか。

放射線の説明も素晴らしかった。
チェルノブイリ型原子炉はウラン235を使用している。
ウラン235は原子1つ1つが弾丸のように飛ぶ。
光の速さに近い速度で金属やコンクリート、人体などを貫通する。
1gあたりのウランは弾丸が何兆子も含まれており、今燃えているチェルノブイリは300万gもある。

さらに放射性粒子は風に乗って大陸中に広がり、やがて雨となって大地に染み込む。
そうなると、世界中の空気や農作物や飲料水に紛れる。
この放射性は100年間、消えない。
なかには5万年も残る放射性粒子もある。

このように観客に想像力を促して恐ろしさを呼び起こす。
同時に原子力に知識のない観客にもわかりやすく説明している。
素晴らしい脚本だ。

音の演出も不気味だった。
決死隊の面々は放射能測定器を装着して施設内に特攻する。
放射能が高い場所では放射能測定器がジリジリと耳障りな音を鳴らす。
ジリジリ音が強ければ強いほど、彼らは死に近づいている意味を指す。
この音の禍々しさが頭にこびりつく。
BGMも無音だったり、いざ流れるとやたらと重厚感の強い曲が流れて観客の不安を煽る。

とにかくこのドラマ、常軌を逸したクオリティである。
全人類必観するレベル。

『チェルノブイリ』スタッフの次作はなんと、PS4の『The Last of Us』のドラマ化である。

TVゲームには名シナリオの作品がたまに誕生する。
その中の1つとして必ずといっていいほどに挙げられるのが『The Last of Us』である。
さすがに史実を基にして作ったチェルノブイリクラスの完成度は難しいだろうが、この制作チームなら期待してしまう。

そういえば、『チェルノブイリ』を観て思い出した言葉がある。

私には決死隊の人たちの行動を取れそうにない。
決死隊の人たちはどんな思いで施設に足を踏み込んだのだろうか。

史実の社会派作品はコチラ。

■工作 黒金星と呼ばれた男

チェルノブイリの作品情報

■監督:ヨハン・レンク
■出演者:ジャレッド・ハリス ステラン・スカルスガルド エミリー・ワトソン
■Wikipedia:チェルノブイリ(ネタバレあり)
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):96%
AUDIENCE SCORE(観客):98%

チェルノブイリを見れる配信サイト

U-NEXT:-
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(字幕・有料)
TSUTAYA TV:-
Netflix:-
※2020年3月現在

-⑨組織のなかで

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名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。