映画の海

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⑨組織のなかで

映画『工作 黒金星と呼ばれた男』ネタバレなしの感想。北朝鮮の核開発の実態を探るため、韓国軍の一人の男がスパイとなって潜入する

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■評価:★★★☆☆3.5

「祖国への想い」

【映画】工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男のレビュー、批評、評価

韓国と北朝鮮といったら、南北に分断された敵対関係といった印象が強い。
このブログでも記事にした『JSA』でも敵対関係による緊張感の中で南北の友情を描いている。

あるいは南北間での恋愛を描いたのが『シュリ』。

『工作 黒金星と呼ばれた男』は上記のようなフィクション映画とは一線を画す映像、演出、脚本のすべてをリアルに振り切った内容だ。
1990年代に実際にあったスパイ工作作戦と、韓国と北朝鮮の裏の繋がりを暴露する史実の物語となる。
南は正義、北は悪という構図の映画が多いなか、善悪を区別せずに描く。

1992年、北朝鮮の核兵器開発をめぐって挑戦半島は緊張状態が高まっていた。韓国軍の情報部隊の将校パク・ソギョンは国家安全企画部のチェ・ハクソン室長からコードネーム「黒金星(ブラック・ヴィーナス)」の工作員として、北朝鮮に潜入する命令を受ける。北朝鮮の核開発の実態を探るため、事業家に扮したパクは3年にわたってスパイ活動に邁進していた。パクは北朝鮮の対外交渉を担うリ・ミョンウン所長からの信頼を獲得し、ついには北朝鮮の最高国家権力である金正日(キム・ジョンイル)との面会の機会まで得られる。その頃、韓国の大統領選挙では接戦を繰り広げられていた。

内容はかなりお堅い。
政治色が強く、キャラクターの台詞の意図や行動の理由などすべてを理解するにはかなりの集中力を要する。
箸休めとなるコメディーパートも一切存在しない。

とはいえ、題材が実に興味深い。
核開発の実態を調査するために、韓国軍の一人の男がスパイとなって北朝鮮の人間と接触する内容。

とにかく北朝鮮の連中が怖い。
金正日との距離も近い北朝鮮のリ・ミョンウン所長は一切笑わない。
パクは距離を詰めようとフランクに接するも、リ・ミョンウンの表情は微動だにしないのだ。
リ・ミョンウンが帯同する北の良家に生まれたエリート将校チョン・ムテクは表情こそやわらかいものの、異常に強い国への忠誠心を持っていて恐怖を煽られる。

彼らは常にパクの言動を見張り、テストを繰り返して信用に値する人物か探る。
彼らの警戒の徹底っぷりが、正体が暴かれた時の悲劇を物語る。

パクは直属の上司と比べると、北朝鮮のリ・ミョンウン所長やチョン・ムテクに対しては過剰なくらいにノリノリな接し方をするのが面白い。
当然、相手の警戒を解く狙いがあって行っているのだが、同時にエンタメ的な演出も担っている。
真面目な映画だが、こういったエンタメ演出もささやかに行わる。

例えば満を持して登場する金正日の傍らに金魚のフンのようにまとわりつく犬もそう。
金正日の荘厳な雰囲気にそぐわない小型犬マルチーズが、小走りで金正日の後をついていく姿には緩和される。
余談だが、周りのスタッフには反対されたが、監督はゴリ押しで2500万ウォン(約220万円)かけてマルチーズを訓練させてキャスティングしたそう。
実際に金正日は犬好きだった証言に基づいての再現である。

とにかく全編に渡って緊迫感が漂っている。
金正日と面会する直前に、パクは北の人間にこう伝えられる。
「目を会わしてはいけない。第2ボタンを見て話すように」と。
もはや日本人の常識が通用しない世界である。
緊張感が凄まじくて、観ているこちらの頭がハゲそうだった。

サイドストーリーとして大統領選が描かれる。
野党で進歩派の金大中(キム・デジュン)と与党の李会昌(イ・フェチャン)が票を争う。
パクを動かす国家安全企画部は、大統領直属で設置された情報機関である。
そのため、政権がひっくり返れば黒金星作戦の中断を余儀なくされる。

監督はこの大統領選の際の政府の暗躍と、パクのスパイ活動へのドラマチックな関わりに衝撃を受けて本作の製作を決断している。
本作での一番の見所となる。

パクの心の変化にも注目したい。
当初、パクは国への忠誠心のため、黒金星作戦を実行する。
徐々にリ・ミョンウン所長の信頼を得ていき、北朝鮮の地に踏み込むまで至る。
そこで、北朝鮮の裏の顔である絶望的な貧困層の暮らしを目の当りにするのだ。
ここでパクに大きな心境の変化が訪れる。

大統領選に、北朝鮮に住む人々のそれぞれの思い。
パクに訪れる多くの想定外の出来事が思わぬ帰結を迎える。

私が個人的に押したい見所の一つは酒だ。
パクは酒を一切飲まない。
ちょっとした自分ルールを設けていて、北朝鮮の連中に誘われても断りつづけるのだ。

印象的に描かれるパクのこの行動はちょっとした伏線になっている。
あなたがもし、この映画を手に取ったときには酒にも注目してもらいたい。

難しい映画だが、描かれるテーマはシンプル。
「祖国への想い」のため、パクはスパイ活動に奔走する。
だが、人間である北朝鮮連中も同じである。

史実の社会派作品はコチラ。

■チェルノブイリ

■タクシー運転手 約束は海を越えて

■アルゴ

■バイス

工作 黒金星と呼ばれた男の作品情報

■監督:ユン・ジョンビン
■出演者:ファン・ジョンミン イ・ソンミン
■Wikipedia:工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):100%
AUDIENCE SCORE(観客):96%

工作 黒金星と呼ばれた男を見れる配信サイト

U-NEXT:○(有料)
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(字幕・有料)
TSUTAYA TV:○(有料)
Netflix:-
※2020年3月現在

-⑨組織のなかで

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名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。