映画の海

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②金の羊毛

映画『ナイチンゲール』ネタバレなしの感想。夫と娘の命を奪われた女が復讐の旅に出る

投稿日:3月 25, 2020 更新日:

■評価:★★★★☆4

「暴力が生むもの」

【映画】ナイチンゲールのレビュー、批評、評価

『ナイチンゲール』は2014年を代表とするホラー映画『ババドック~暗闇の魔物~』のジェニファー・ケント監督最新作。

ナイチンゲールといったら戦争の際に敵味方を問わずにケガ人を看護した『フローレンス・ナイチンゲール』をイメージするのが一般的だろう。
本作のタイトルの由来は彼女ではなく、サヨナキドリという鳥を指す。
鳴き声の美しい鳥で、英語読みでNightingale(ナイチンゲール)の名で知られている。

『ナイチンゲール』は美しい歌声を持つ女囚クレアの復讐劇。

19世紀、オーストラリアのタスマニア地方。盗みを働き、流刑囚となったアイルランド人のクレアは美しい容姿と歌声から、一帯を支配するイギリス軍将校ホーキンスに囲われていた。夫エイデンはクレアが刑期を終えた後も釈放されずに拘束されている現状に不満を持ち、ホーキンスに交渉を試みる。だが、ホーキンスは逆上し、仲間と共にエイデンと幼い娘の前でクレアに性的暴行を加える。その後、クレアの前で二人の命を奪う。尊厳を踏みにじられ、愛する夫と娘を奪われたクレアは復讐の鬼へと変貌を遂げた。ホーキンスはローンセストンに駐屯するベクスリー大佐に昇進を直訴するために旅立っていた。クレアは先住民アボリジニの黒人青年ビリーに道案内を依頼し、ホーキンスらを追跡する。

忘れられない一本になりそう。
『ナイチンゲール』のような映画と出会いたくて毎回劇場やTSUTAYAやGEOに足を運んでいるようなもの。

この映画、世界観が素晴らしい。
突出したオリジナリティを誇っていて別世界に連れて行ってくれた。

映画の舞台は1803年のオーストラリア。
ブラック・ウォーと呼ばれるイギリス植民者とタスマニアン・アボリジニーの争いの中での物語となる。

ジェニファー・ケント監督は元々は暴力をテーマに物語をつくろうと考えていた。
世の中に溢れた暴力の多くが自分に返ってきている事実に衝撃を受けたためである。
脚本執筆の過程で、自身が生まれ育ったオーストラリアの黒い歴史であるブラック・ウォーにたどり着いた。

オーストラリアはかつて、ひどい暴力によってイギリスに植民地化されていた。
原住民のアボリジニに対して、女性に対して、ひどく残忍な行為で金品・尊厳・命、何もかもを奪い取った。
こうした壮絶な暴力が今の時代にもまだしぶとく残っていると考え、200年前を舞台にする決断を下した。

黒人のビリーが良かった。
ビリーはクレアが道案内として雇ったアボリジニの青年だ。
原住民のため、ローンセストンまでに通る必要のある森に詳しいのだ。

最初は二人の仲は最悪。
とにかくクレアがブチ切れているので、ビリーに対する扱いもひどい。
ビリーもビリーで白人に対しての嫌悪感が強く、クレアには一切心を開かない。金のためと割り切って案内している。

余談だが、クレアはアイルランド人の流刑囚なので、アボリジニを迫害する立場ではない。
そもそもこの時代のアイルランドもイングランド人(イギリス人)に植民地されており、ひどい貧困生活を強いられていた。
クレアが盗みを働いたのはあくまで生活のためであって、仕方のない行為である。
ブラック・ウォーの時代はタスマニア島が流刑地としても使われていたため、クレア含む多くのアイルランドの囚人がイギリス軍によってタスマニアに送られていた。

話を戻すが、ビリーは冷静でとにかくマイペース。
道中の森の中では、縁起のいい鳥を見つけたら奇声をあげて喜んだり、同胞の遺体を見つけたら謎の踊りで供養する。
ビリーの陽気さと先住民のアボリジリニという特殊な文化が暗い物語に温かな空気を漂わせる。

道中では、二人は多くの困難に襲われる。
乗り越えるために助け合ったり、休息時に互いの身の上話をしたりして互いの絆が縮まっていく。

もう1つの見所は歌だ。
中でも一番良かったのは予告で歌われている歌を歌うタイミング。
最高に痺れる名シーンである。

この曲は「シューリ・ルゥ Siuil a Run」というタイトルのアイルランドの民謡。
劇中ではシューリ・ルゥの歌詞を食い入るように見入ってしまった。
予告同様にアカペラで歌われていて、インパクトは強烈である。

クレアの女性性が隙になるのも良かった。
確かにクレアは復讐の鬼と化して、理性が効かないモンスターに変貌する。
だが、クレアの本質は女性だ。
女性としての脆さが時には姿を見せる。
それをサポートするのがビリー。
ビリーは肉体も屈強でありながら余裕のある精神性を持っていて、とにかく頼もしい。
ビリーさえクレアの近くにいてくれたら大丈夫、と安心させてくれる。
ジェニファー・ケントは素晴らしいキャラクターを生み出したもの。

いくつか微妙なところもあって、映画冒頭でホーキンスによって夫と赤ん坊の命が奪われる。
気絶させられたクレアは目覚め、二人の亡骸を前に現実を思い出して発狂し、すぐに復讐モードに切り替わる。

これがかなり違和感を覚えた。
悲しのあまりに消沈する瞬間がまったくない。
消沈後に沸々と怒りが沸き起こって復讐モードに入る、といった流れが自然だろう。
悲しみに浸る時間がまったく描かれなかったので、もう少し切り替えをゆっくりにしてほしかった。

若干、冗長に感じたのも気になった。
これには理由があって、本編のほとんどが森の映像で占められている。
実際には多くのエピソードが描かれているのだが、いかんせん画が変わらないのはちょっと辛い。
ただ、本作のマイナス点は些細なもの。

久しぶりにパンフレットまで買ってしまった。
私は毎年200~300の映画を鑑賞しているが、パンフレットを買ったのは2016年のシン・ゴジラ以来である。
歴史背景や、監督の意図が知りたくなったため。

前作『ババドック~暗闇の魔物~』メタファーだらけで取っつきづらいホラーだったが、本作では前回の欠点のすべてを補い傑作へと昇華させた。
女性監督とは思えない凄惨なバイオレンス描写が連続するが、素晴らしい映画体験を堪能できた。

この日の晩御飯は渋谷の「兆楽」の肉ナス炒めライス。

女性による復讐劇を描いた映画はコチラ。

■スリー・ビルボード

■エル ELLE

ナイチンゲールの作品情報

■監督:ジェニファー・ケント
■出演者:アイスリング・フランシオシ バイカリ・ガナンバル サム・クラフリン
■Wikipedia:ナイチンゲール
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):87%
AUDIENCE SCORE(観客):73%

ナイチンゲールを見れる配信サイト

U-NEXT:-
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:-
TSUTAYA TV:-
Netflix:-
※2020年3月現在

-②金の羊毛

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名前:柴田
年齢:30代
小説家志望。
趣味は映画、読書、ゲーム(最近はスプラトゥーン2)、お笑い、筋トレなど。
長所は人を楽しませることに一生懸命、短所は顔が丸い。